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恋バナに 飢えてる主婦は 地獄耳

昼時から少し過ぎた時間の、ナンとカレーメインのアジアンダイニング。
オシャレな雰囲気のお店には、女性客が多い感じだ。
1時半という時間だと空席も目立ち始めていて、角のテーブル席という特等席に通された。

久々の夫婦水入らずで、ちょっとだけ心が浮き立つ。
二人だけでゆっくりメニューを見る。夫婦だからどうしても「これはちょっと高いよね」とか話してしまう。
一応デートなのに、所帯染みてしまったものだ。

周りには女性同士や私達のように夫婦もしくはパートナー同士の客が3、4組いる。
それぞれ楽しげに話している。
その会話の中でも、耳に入りやすいのは女性の高い声。

「もう仕事が大変でさー」
「彼がちょっと忙しそうで会えない感じで」
「『ウィッシュ』って観た?」

等など、色々な女性同士の会話が耳に入ってくる。
特に一番近い斜め前のテーブルに座っている女性客の恋バナはよく聞こえてしまう。不可抗力だ、許して欲しい。

友人の多くは同時期に結婚し、会話の話題は全て子どもや子どもの学校のこと等。旦那の愚痴は聞いても、恋バナは一切無い。

「後で書店寄っていい?」
「電話はよくかけてきてくれるんだけどねー」
「ミセスの歌良いよねー」

恋バナ。人の恋バナを聞いていると、自分がその人自身になったような気になって、心がワクワクしてくる。
片思いという段階の話では、ライバルの存在に私まで心がざわめいたものだ。

人目を憚らずに言ってしまうが、私は恋バナが大好きだ。大好物である。

私「ねえ旦那くん、向こうで恋バナしてる」
こそこそと目の前の夫に話しかけた。
私「いいなー楽しそう。最近恋バナしてないな〜」
夫「そりゃそうだろ」
私「友達も結婚してるし、恋バナできないしね」
夫「旦那と恋バナ?」
私「何そのパワーワード」

妻を前にした旦那の口から出てきた言葉が「旦那と恋バナ」。二人して笑ってしまった。

すぐに料理が運ばれてきて、辛いね、ナンがふわふわ、など話しながら食べていた。

「このアプリが面白くて、ちょっと見て」
「今日もさ、彼とワンチャン会えるかと思ったんだけど、連絡つかなくてさー」
「バイトの先輩が休んでて」

また恋バナが聞こえてきた。つい、聞き耳を立ててしまう。
仕事が忙しく、会えないそうだ。なるほど。それは大変そうだ。会いたいよね、わかる、自分だけが休みだと会いたい気持ちが募るよね。
つい心の中でさも友人であるかのように相槌をうつ。

昔、実家で聞いた日曜夕方のラジオ番組を思い出した。
麻布十番街にある馴染のバーのカウンターでマスターと会話しつつも、他の常連客の会話に聞き耳を立てる、という設定で色々なジャンルの著名人の話を聞く、というスタイルの番組だった。
そう、今の私はそのラジオ番組のカウンターで聞き耳立てる客だ。

夫「2辛で結構辛いんだけど」
私「そうなんだ、普通の辛さ頼んだけど、全然辛くないよ」
夫「俺、いつものカレー屋のほうが好きだな」
私「今度からは浮気しないようにしよう」
夫「いつものお店に謝って食べよう」
私「それこの店に失礼じゃない?」

夫とはカレーの味の話で盛り上がる。
なんとも平和ないつもの会話だ。
他人の会話が耳に入りしっかりと理解しつつも、旦那と会話を続ける。自分も器用になったものだ。


「出会い系で会った人と結婚するっていう友達がいてさー」
「もう私が働いてるとさ、家にいてもいいじゃんとか言い出したんだよね。働きたくないのかなぁ」
「今度ディズニー行くんだってー」

さっきの「彼にワンチャン会えなかった」女性からの話が聞こえてきた。
家族の話だろうか?

「旦那も私のほうが稼ぎいいし、それだけで食えるしって言うんだよね」

旦那?旦那って言った?彼氏とワンチャン会えないって言ってた人の口から出た言葉とは思えないんだが・・・???
いやでも聞き間違いでは決して無い。私は昔から地獄耳なのだ。もう一度宣言するが、不可抗力だ。

その後、ラストオーダーの声が店員さんからかかり、すぐにその『彼氏とワンチャン&旦那が家にいたがる』女性は友人と去って行った。

ちなみにその女性の友人は聞き役に徹していた。そりゃそうだろう。私でもこんな話なら絶対に相手の話題最優先だ。

「旦那と恋バナ」よりも更に上のパワーワードが連発したような気がしたが、気のせいだろうか。

複数の人を同時に愛せるという、ポリアモリーの人だろうか。
昔、私の友人にも、旦那がいながら年下彼氏がいると堂々と宣言していた子がいた。
同じ席で飲んでいた別の友人も、「そういう人、多いよ?」と言っていた。
そういう人たちなのだろうか。

色々な疑問を飲み込みつつ、店を出た。
身も心もお腹いっぱい、大満足である。


結婚して10年、旦那沼に浸り中の私には一切そういう気配は無いけれど、とりあえず、
外食時の会話のボリュームには気をつけよう
と誓った、とある日の午後であった。


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