第六章 太陽の塔光発電所その3
不穏な噂と抗議についての話が、少しずつみんなの中に蔓延していき、日頃からの不満なども相まって、ある日爆発する。
それはしばらく休んでいた曽根崎(通称曽根ヤン)が復帰した日だった。
「おお、久しぶりやな。どうしとってん?風邪か?」
アキラにそう聞かれ曽根ヤンは曖昧に返した。
「え、あ、うんまあ」
なんだか挙動不審だ。しかも何か落ち込んでいる様子だ。
「どうしたんや?なんかあったんか?」
周りの人間達も気になって近寄ってくる。
溜まりかねたように曽根ヤンは
「俺、とんでもない事を…いや、なんでもない」
「なんやねん、気になるやろ」
そこへタイミング悪く責任者が入ってきた。
「朝礼始めるぞー」
「リーダー。曽根ヤンが何かとんでもない情報を持ってるみたいですよ?なんかあるんちゃいます?」
「何の話や?」
「しばらく休んでたのはなんかあったんちゃいますか?」
「風邪やと聞いてるが?それが何やねん」
責任者はうんざりしたように言う。
別の人間も次々と声を上げる。
「なんぼ人がいらん言うたかて管理する人間はいるからなあ。リーダーは1人だけリストラされへんのでしょ?2台目で働くんでしょ」
「そういや曽根ヤンのお父さんて建設会社におるんやったなあ。2台目建設となんか関係あるんちゃうか」
当の曽根ヤンは下を向いて何も言えないでいる。その場の空気はドンドン嫌な方向へ盛り上がる。
「みんな!」
アキラが大声で言う。
「抗議や!」
それだけでみんなどうするべきか分かった。責任者と曽根ヤンを残して、みんな走り出した。
現場に着くとみんなで一斉にいつもと反対に回し始めた。いつもと違ってかなり力が必要だ。しかしなんとか回り始めた。何も起こる様子はないが回し続ける。
やがてハンドルは重くなってくる。そしてとうとう回りそうにない所で止まると、ゆっくり反対方向へ回ろうとする力がかかってきた。
「あれ?これもしかして…やばい!みんな逃げろ!」
みんながハンドルから遠去かり壁際へ寄ると同時にハンドルはいつも回している方向へ勢いよく回り始めた。ドンドン速度を増してゆく。
「ゼンマイみたいなもんや。逆に回したらその分の反動ですごい力で回りよる」
いつも回しているのとはケタ違いの速さで回り続け、やがてゆっくりと止まった。
責任者は最初追いかけてきて、みんなのやる事を見ていたが、それによって何が起こるのか外へと見に行っていた。
「大変や!今ものすごい光り方しよったぞ!すごい発電量や!」
「速度のせいかもな!」
「もっかいやってみよ!」
「よし、せーのっ!」
朝までこれを繰り返し、その日の発電量は今までの3倍となった。
逆に回している間は顔は光らないが反動で回り始めると今まで以上の光り方をする。
その点滅具合は本当に灯台のようだった。このチョロQ方式が、その後の一般的なやり方となった。
2台目建築の噂は、そのうち消えていった。
「曽根ヤンにとっては残念やったな」
正一が申し訳なさそうに声をかけた。朝礼前の休憩室。1人隅っこでうなだれている曽根ヤンにそっと近付いて横に座る。
「何が?」
曽根ヤンは復帰以来、未だに暗いままだ。
「2台目建築の話なくなったやろ。曽根ヤンのお父さんの会社が建てる予定やったんちゃうの?」
大きな仕事が一つなくなってしまい、落ち込んでいると正一は思ったのだ。
「いや、そんな話あったかどうか知らんけど少なくとも俺の父親の会社は関係ないで。それどころやなかったしな、最近」
「あ、そうなん?」
正一はいったん会話が終わったかと思ったものの引っかかるものがあった。では何をそんなに落ち込んでいるのか?
「なんか、あったん?」
「言うな、言われてんねんけどな、やっぱり無理やわ」
「言うたらあかんなら聞かんけど」
「いや、聞いてくれ」
それはUSJのターミネーターの叛乱の件だった。誤作動だの不具合だのが発端でターミネーターの人間に叛乱しないよう制御する回路が壊れた事が原因だと言われている。しかし、そもそもなぜ誤作動が起こったのか判明していない。未だに危険なため、パーク内に入る事が規制されているのだ。調査も出来ない。
中に取り残された人達が必死に抵抗を続けているらしい。
ターミネーターのアトラクションの改築に関わっていたのは曽根ヤンの父親がいる建築会社だった。不具合だとしたら責任問題になりかねない。建築会社はプロジェクトの責任者だった曽根ヤンの父親に秘密裡に調査をさせた。
どこかからUSJ内に入り込みバックトゥザフューチャーのアトラクションのデロリアンに乗り込んで、誤作動が起こったとされる日へと曽根ヤンとその父親はタイムトラベルした。
父親はタイムマシンなど運転出来ないとして息子の曽根ヤンを運転手として連れていったのだ。
曽根ヤンなら運転出来るというわけでもないのだが、秘密裡の調査だ。他に頼れる人間がいなかった。
結果、慣れないタイムマシンの運転により辿り着いた過去でターミネーターのアトラクションにデロリアンごと突っ込んでしまった。それが誤作動の原因になったのだ。
大きな過ちに気付いても取り返しはつかない。バレる前に逃げるように現代に帰るのが精一杯だった。
帰ってはきたものの罪悪感から、なかなか仕事に復帰出来なかったのだ。父親の方も会社に正直に報告したが、会社側が公表する事を渋っている状態だという。
いつの間にか集まってきていた同僚達も言葉が出ない。
「でも正直に報告したんやし、後は会社に任せようや。そもそもそんな事させた会社が悪いわ」
正一もやっと励ます言葉を思いついて言った。
「そやそや」とみんなも同意する。
「ありがとう。とりあえず今後を見守るわ」
優しい同僚達の頑張りで、今日も万博公園の灯台は明滅を繰り返している。
完

