ドライアイスかち割ってでも行くと決めたから
行くと決めた。どこへ?
とあるイベントへ行くと決めた。
地元から一番近い開催地へ行こうとしていた数年前は新型コロナの影響で移動制限がかかっていけずに終わった。
私がどうして人混み嫌いなのにイベント行きたいと思っているのかというと昔からの文通相手が出店しているから。
と、言ってもここ数年は彼女は忙しい上に何度か引っ越し、直に会う機会もないまま私も引っ越してしまい、お互いに手紙のやり取りがないまま数年の時が流れた。
彼女の活躍をずっと遠くから見ていた。
いつかまた会えたなら手紙を渡したい、そんな淡い願いを抱いている。あれ、これ、聞き方によってはかなり拗らせた人かもしれない。と思う。
出会いは忘れもしない、12歳。文通したくて遠く離れた親の知人を通じて、「はじめまして」と手紙を書いた。てっきり文通って月に一度の頻度で手紙が行ったり来たりするのかなって思っていた。
駄菓子菓子。
彼女とわたしは、想像以上のんびり屋さんだった。
季節のお便りか、はたまた季刊誌さながらに数ヶ月に一度「お元気ですか?わたしは元気です」というテンプレートなやりとりから始まる手紙を書いては日々の近況を伝え合う。想像を超えたゆったり文通。届くたびにときめくような彼女の文字や便せんのセンスは魅力的でいつも羨ましかった。
私が当時大好きにバンドの野外ライブに一緒に行こうとお誘いした17歳。
はじめて直に会ったときは、ご近所物語の主人公・実果子ちゃんみたいにおしゃれでかわいい彼女にメロメロになった。一緒に撮ったプリクラが可愛すぎて地元の友達に自慢するくらいに。
世の中はガラケーでのメールが溢れかえって、私たちの文通は季節毎を通り越して気がつけば年に一度か二度の頻度になっていた。メール交換をして嬉しくて何度かメールしたものの彼女へ想いを伝えるときは手紙が一番しっくりくる。時は流れに流れて彼女はいつしか旦那さんとお店を開き、ゆっくりのんびりと着実に素敵な世界を広げていった。
2025年。わたしは手帳に約束していた
「◯◯ちゃんに、今年は会いに行く」
ほかにも会いたい人の名前はたくさんあったけど中々ハードルの高い彼女との再会は半ば夢のまた夢みたいなものだとわかっていたけど、手帳に書いた。
偶然。今年の冬に夫の単身赴任先で初のイベントが開催されると聞き、まさか彼女が来るのでは!と確かめると来ると言う。イベントがなくても年末前に、長時間の高速バスと人混みを乗り越えてオロオロオエオエしながら夫に会いに行くつもりだったが、まさかのまさか。彼女と会えるかもしれない一世一代の大チャンスが巡ってきた。
会えたとしたら20年ぶりかもしれない。
夫に言うと『何年ぶりでも相手が忘れてなかったら嬉しいじゃない』なんて嬉しいことを言ってくれる。嬉しいじゃない。
それから◯◯ミーで頑張って働いた。相変わらず見かけ倒しを連発している。
久しぶりにベルトコンベアの流れる職場へ行ってみた。冬にドライアイスを触るという新体験。15センチほどの厚さのドライアイスを「半分に割ってください」という。
はい?
今なんて?
耳が冷たくて聞こえなくなったのかと思った。
「これを割ってください」
割れるのか?
私は氷のように固まりながら説明をしてくれる細腕の女性がドライアイスを持ち上げる姿を見つめた。
「見ててください」
女性はか細く見えるその腕で鉄のヘリに向かってドライアイスをぶつけるとガチでかち割った。
心の中で思った。
《いいんですか、そんな面白そうなことをしても、いいんですか》
残念ながら私はかち割るよりも、ぶち壊すに近く綺麗なドライアイスはボロボロになった。面白いどころかテンションは急降下、むしろこのドライアイスどうしたらいいの。ごめんなさい、いや、使えるから大丈夫と言われ所定の場所にいれたけれど。
かっこよく綺麗に割りたかった。簡単に面白そうなどと思ってしまった自分を恥ずかしく思いながらめげた。
いや何をめげているの、私は夫と数年ぶりに会える友だちに会いに行くと誓ったのよ、やってやるわ。
黙々とかち割り所定の場所へ詰め続けた。
その後は荷物と格闘した。夫とひつまぶしもクレープも食べたい。けれど、私は鰻が食べれない。生まれてからずっと長物がダメなのだ。本当の食わず嫌いで、鰻に似せたかまぼこ「うな次郎」すら脅威に感じる。大げさにいうんじゃないと言われるが、飲食店勤務時代に高級うなぎ屋さんへの研修が嫌すぎて、単独行動をとってパフェを食べに行ったくらい嫌いなのだ。40代になった今なら、ひつまぶしなら食べれるのだろうか、夫がずっと「ひつまぶし」とLINEを送ってくるのがいまだに信じられないのだが、私は人生ではじめて鰻を食べる。泣くかもしれない。
会いに行くんだ。泣くかもしれない。そう決めたんだ。
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