父はムーチョでブラボー
今回はじめてスタエフを貼りました。どうにもならない内容でお送りするchimoつぶやき。さいごまでよかったらお付き合いください。

ある朝起きると、父がムチョムチョ言っている。
なんのはなしですか。
寝ぼけているせいか、聞き慣れない言語に耳を疑ったが、スペイン語の練習をしているらしい。それは父が仕事を退職する前で、かれこれ20年以上前になる。
父はもともと外航船の船乗りで様々な国に行っていたらしい。『らしい』というのは、私が物心ついた頃にはすでに船を降りて、転職をし全く違う仕事に就いていたから。
船員時代は同じ国の人ばかりでなく、様々国の人が乗船している船もあったそう、異文化が飛び交う外航船の思い出話をきいて育った。
船の行く先はスペイン領だった地域が多く、現地の人と話せるくらいのカタコトのスペイン語が話せるようになれたそうだ。とはいえ、父が発音するスペイン語が、素晴らしく発音がいいのか、カタコトなのか、さっぱり分からない。とにかく家では父は怖かったので、陽気なラテンのリズムで話しているのが想像できない。
それにしても何で?外航船を降りて十数年経つのに、スペイン語が必要なのだろう。
当時の父の仕事は、水を浄水する仕事をしていた。水を浄化する仕組み、方法は色々あるそうだが、その当時では割とめずらしい方法をしている職場だった為、海外からの視察が来ることになったそうだ。たまたまその視察の人の言語がスペイン語だったらしいのだ。
父はとても朝早くに出勤する。私たちは寝起きの姿でも「いってらっしゃい」と見送るのが習慣だったので、父に習い週数間スペイン語でお見送り。とりわけ父のお気に入りは「ムーチョ」と「ブラボー」。
ムーチョなんて、カラムーチョとすっぱムーチョしか知らないよー、と、父を若干冷ややかな目で見ていた。異国の人に視察先で「ムチョムチョ言う日本人がいた」なんて思われたら恥ずかしい。お願いだから「ムーチョはほどほどにしてよね」とは言えなかった。
今のようにYouTubeがあればどんなに心強かっただろう。父は不安を打ち消すように一心不乱に、視察の日までスペイン語のテキストを懸命に読み続け、あきることなく発音の練習をかさねた。(私の一心不乱習慣はここから来ている気がする)
視察の日。仕事から帰ってくると、スペイン語を話したらとても喜んでもらえたので大喜び。もちろん通訳の人はいたけれど、身ぶり手ぶりを交えて、「この時に『ブラボー』って言ったら大盛りあがりでさ!あははー!ブラボーぉう!』とはしゃぐ。もうブラボーが原型を留めていない。父はもともと明るい人ではないのに、完全にラテン系のノリでサンバでもそのうち踊りそうになっている。
子供ながらに言語の壁を打ち破ろうと、自分の殻を打ち砕いた父をすごいなと誇らしく思ったりもした。
ーーー
そこから数年。スペイン語の世界線がまたしても訪れる。飲食店に勤務していたころ、若い男の子がスペインから日本料理を学ぶために研修に来ていた。
しかし彼は日本語を話す気配がない、覚える様子もなければ「オハヨウ」くらいしか話さない。ちょっとバリケードが丈夫そうな感じ。他のスタッフがスペイン語であいさつしても、反応がイマイチで緊張しているのか、それとも話したくないのか、分からなくてハラハラした。
私も小心者なので彼の気持ちは痛いほどよくわかる、見知らぬ国の文化に囲まれて、きっと破りたくても破れない壁や殻があるんだろうな。と想像する。でもせっかく目の前に「だし」や「味噌」があるから、お腹も心も味わって人と交流できないものかなーと、一緒に仕事をしながら感じていた。
カタコトのスペイン語で力になりたくても、父直伝のため、手数が少なすぎるが、それでも毎日会話すると少しコミュニケーションできるくらいになれた。
数年前の父の努力の意味を知る。
「Hola!」や「Gracias」。たった一言でも相手が喜ぶために、相手の文化に触れるのは、ものすごい努力と行動力だったことを時が経って、私ははじめて知った。
そう考えながら、彼と2人で食材の下ごしらえをしていると、彼が「ふふふふ、ふふふふふふふ」と笑っている。
へ?
「pepino pequeño」と言って笑っている。となりの人が盛りつけている、お新香の盛り合わせをみて笑っている。どゆこと?
カタコトながら、何で笑っているのかスペイン語で聞いてみると、お新香の小さいキュウリ漬を指さした。『小さいキュウリ、面白い、ヤバい、ツボに入っちゃった』ということだった。
彼は「pepino pequeño」と言いながらずっと笑っているので、嫌でも覚えてしまった。あれから十数年経つのにスペイン語の「小さいキュウリ」を未だに言える。

はじめてつかわせていただきます(感謝✨)
もうさすがにスペイン語と関わる世界線はないだろうなー。そう思っていたこの頃。
父とメールをしていると、「チャオ!」と「ブラボー」で締めくくられている。とにかくその中身とマッチしない、陽気なラテン系のノリの挨拶で心を揺さぶってくる。そのまま日本語でかえすのはもったいないので、時間に合わせたスペイン語の挨拶をしらべてメールをすると、喜んで「チャオ!」と返してきてくれる。
父は数年前から病気をきっかけに肺気腫になりふだんから息がくるしい。メールならどんなにでも陽気になれる。長い時間話すと苦しいみたいだけれど、弱った様子は家族にもみせたくない。体がしんどいときや気分がのらないときは、さすがに「んじゃ、まず。」で終わる。なんと悲しい響きなのだ。
父からの「ムーチョブラボー!」は最大級の喜びらしいので、スペイン語であいさつが交わせるかぎりは「ムーチョ」が片時も離せない。
歩み寄りには勇気がいるを知っている、生半可じゃない。だからこそ歩み寄りの極意をかじってみたい。あ、『アメリカ50州覚え歌』の変化球で『スペイン版覚え歌』作れるかしら。
父は今からでも人生を明るくしたいと願っている。やっぱりどんなときも楽しさをえらべる人は強いと思うこの頃。

○おまけ○
はじめてスタエフをやってみました。どうにもならない音ムラ満載の音源です。よかったらムーチョきいてください📻
それではまたね、ブラボー!

父との思い出話シリーズ👇
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