定点観測とカーテンと未来
部屋の灯りを消して、窓とカーテンの隙間に潜り込む。片手にアルコール3%のほろよい、ぶどう味。潜り込んだ窓とカーテンの間でもぞもぞ定位置を見つけてから窓越しに見上げた夜空に星と、灯台の灯りが見える。
20歳過ぎてからの夜中のひとり遊び。これが夏の楽しみ。ただし今はお酒はお休み中。
仕事が終わって明け方になるまで1人で流れ星を見つけては喜ぶ。流れ星を数えることもしないで。そんなにお酒は強くないから、ほろよい一本で十分に出来上がるので、明け方になる頃にヘロヘロになって布団へダイブ。
一番きれいな流れ星を思い出して幸せな気分で眠りつく。
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子供の頃から空が不思議で仕方なかった。
朝になると当たり前のように太陽の光で街を染めて、時々雨を降らせたり、白い綿帽子の雪を降らせる。窓とカーテンの隙間に挟まって窓ガラスに張り付いて空をずーっと見ていると、空を飛んでいるような気がしていた。学校の授業で雨は、雪は、星は、と教えてもらって謎が解き明かされても、やっぱり不思議で仕方なかった。いつまでも「不思議」と感じている自分は変わっているのかな、と思う。
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夏休みの自由研究は4~6年生まで、空にまつわることをレポートした。祖父から百科事典を借りて、雲や星を調べ、家から見える空や雲の定点観測。コツコツ記録を楽しんだ。担任も定点観測の記録には驚いてくれたけど、いつも、まとめや答えが最後に出せていないね、と言われて記録の割に答えが出ないことに毎回しょぼくれた。その代わり雲ばかり追いかけていたので、一時期お天気おねえさんの称号をもらった。お天気おねえさん…子供心に甘酸っぱい夢を数十秒見た気がする。かわいいお天気おねえさんになり損ねたので、雲にだけやたら詳しい雨女になれた。
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大人になってからの定点観測は空ばかりにとどまらなかった。待ち合わせの時間は行きかう車や人を眺めている。人が怖い割に、人の行動を眺めるのが好きで、どんな事を考えているのか、次はどんな動きをするのか空想する。流れ星を観ているときも、何百年前の人もこうして星を見て何を想っていたのかなとか、宇宙からみた私は今どんな風に見えているのかな、とか取るに足らない空想が好き。
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夫と付き合い始めた頃。
彼のうちで宅飲みをして、ほろ酔いになってしまった後に、彼がかばんの中に急ぎの郵便物を入れっぱなしにしていたことに気がついた。うっかりである。ほろ酔い2人で近所のポストへ投函するために夜道を散歩する。火照ったほっぺに夏の夜風が気持ちいい。どことなく、しんみりしている空気や、虫の声が、季節の終わりを知らせている。
星空の下。近所に響かないように、小さなな声で話しながら歩いた。
見上げると夏の大三角形。彼が大学時代に星座のサークルに入っててさ。とか、おぼろげに言うので、「『かみのけ座』って知ってる?」と自由研究の自慢をした。
世に言うマウント。
酔っぱらった彼女の変なマウント。
酔っぱらって明日には覚えていないマウント。
「かみのけ座?嘘言うなよ…」
星座サークルの威信をかけて酔っぱらった彼はアプリで検索すると「かみのけ座」をみつける。
「ちもちゃんのちっこい知恵袋だね」
私の定点観測し続けた自由研究が人生で役に立ったのはこの瞬間だけかもしれない。
そして知恵袋の命名になんの違和感もないし、腹も立たず、笑った。
そのままアプリを見ながら、あの星がこの星座がと指を指しあった。最後に夜の薄明かりの中で星空向かってライトを翳して「ここにいます。ここにいます!」小さな声で夜空に手を振る。
のちに宇宙をふるさとだと言った彼は宇宙人かもしれないと確信するのはもう少し先の話。「ここにいます」は誰に向かっての言葉なのか分からないけど、この夜一番の不思議な現象は彼の発言だ。ただの冗談かのような台詞を何度も言った。つらい地球に飽きて、ふるさとに還りたくなったのだろうか。いつも疲れている彼がふらりといなくなったらと思うと不安になっていた日々、車のライトの光を何個も数えた夜を今でも覚えている。カーテンと窓の隙間に潜り込んでを何度も窓を開けて、早く帰ってきてと願った夜を。この時はまだ知らなかった。そしてそのあと彼は環境を変えてすくすく元気になっていく未来が待っていることも。
定点観測してもきれいな答えは出ない。きっと真面目な答えがでなくても腹も立たない。だってそれは私も同じだから。
不思議は不思議なままでいてもいいし、時々謎が解き明かされる瞬間があってもいい。夏の終わり、彼をもっと知りたいと思ってもう一度、手を繋いだ。
私たちの夏の終わりはいつも、遠くに見える未来を手探りでさがしている。
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◯おまけ◯
かみの毛座を引用しながらご紹介。
〈かみのけ座〉は星を結んだ形というより、たくさんの星が集まった美しい散開星団が、髪の毛の束を表しているという、めずらしい星座です。
【みどころ】
まず春の夜空で、〈うしかい座〉のアルクトゥールス、〈おとめ座〉のスピカ、〈しし座〉のデネボラを結んだ「春の大三角」をさがします。この大三角と「北斗七星」の間をさがすと、大三角に近いところに、チラチラと星が集まっているのがわかります。これが髪の毛を表す、散開星団Mel(メロッテ)111です。
ただし、月明かりのない晩で、空気のきれいなところでないと見つけづらいでしょう。都会でさがすときには、双眼鏡を使うとわかりやすくなります。〈かみのけ座〉と、おとなりの〈おとめ座〉との境目には、遠い銀河が1000個以上も集まっている「かみのけ座銀河団」があります。
【星座の起源】
このあたりを髪の毛の星座とするようになったのは、紀元前3世紀にエジプト王妃ベレニケが夫のために髪の毛をささげてからのことです。西どなりにある〈しし座〉のライオンのシッポのふさとしていた天文学者もいたようです。
【星座の物語】
実在の人物に関係のあるとてもめずらしい星座です。古代エジプトの国王・プトレマイオス三世の妃・ベレニケが、戦争に出かけた夫の無事を祈って、愛と美の女神アフロディーテの神殿に髪の毛をささげました。その後髪の毛がどこかに消えてしまったため、宮廷の天文学者が王と王妃に「髪の毛が星座になりました」と報告したといわれています。
(注目すべきは、かみの毛座銀河団があること。私だったら女神に何を捧げるだろうか、やっぱり髪の毛なのかしら。)
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かみのけ座おすすめです。
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