ばあちゃんと水ふうせん
あいっ!こうき、大きくなったねぇ。
ひこうきからおりてきた沖縄ばあちゃんは、そう言って、ぼくの手をにぎった。
ママのばあちゃんは沖縄に住んでいる。
ぼくたちが住んでる千葉から遠く離れた海のきれいな場所。
ぼくたちは「沖縄ばあちゃん」ってよんでいる。
「メ、メンソーレ」ぼくはドキドキしながら言った。
ママがばあちゃんに言ってあげてとたのんだからだ。ようこそって、沖縄のことばなんだって。
ばあちゃんは「あいっ、この子。メンソーレ知ってるさー」と目を丸くしてうれしそうにわらった。
さいごに沖縄ばあちゃんに会ったのは、ぼくがまだほいくえんの時だった。
いもうとのナミをしゅっさんするために、ママはぼくをつれて沖縄ばあちゃんの家に里がえりした。
赤ちゃんだったナミは沖縄のことをちっともおぼえてない。
沖縄がテレビに出ると「ちょーきれい。ナミも行きたい」といつも言う。
パパとママの仕事がいそがしくて、ぼくたちが沖縄に行けないからばあちゃんが会いに来てくれた。
「千葉はあついねえ。沖縄よりあついねえ。」
パパがうんてんする車の中でばあちゃんは何度も言った。
ぼくは沖縄が日本で一番あついと思っていたから、千葉のほうがあついと言われてびっくりした。
今日からばあちゃんは、ぼくの家にとまる。
昼すぎにいとこの海人としょうまも遊びに来た。
お母さんの妹、みどりおばさんもいっしょだ。
ぼくの家は一気ににぎやかになった。
ばあちゃんは「みんな元気でうれしい」となんども言った。
ばあちゃんがもって来てくれたパイナップルとマンゴーは、とっても大きくて、あまくておいしかった。
ぼく達はなんどもおかわりした。
ばあちゃんは「うり、もっとかみなさい。」と言ってパイナップルがのったおさらをぼくたちの前においた。
「ちゃんとかんでるよー」とナミが言ったら、ママが「沖縄のことばで食べなさい、っていう意味なのよ」と教えてくれた。
おやつの後、ぼく達は庭で水遊びをした。
あつい日は水遊びが楽しいし、気もちいい。
海人が持ってきた水ふうせんに、水を目いっぱい入れて頭からかぶった。
体中がずぶぬれになって、みんなで大わらいした。
海人やナミもマネしてずぶぬれになった。
ぼく達を見てばあちゃんは「ウーマクわらばーよ、びしょぬれさー」と声を立ててわらった。
※ウーマク わんぱく ※わらばー 子ども達
パパが水ふうせんをむすんでくれた。
水の入った水ふうせんは、さわったらぼよぼよした。
強くつかみすぎるとわれてしまう。
ぼく達は水ふうせんでキャッチボールを始めた。
ふざけてナミが思いっきり水ふうせんを投げた。
水ふうせんはぼくのずいぶん上をシュルルと飛びこえて、家のかべにぶつかった。
パシャッと音がして水ふうせんがわれた。
いっしゅんびっくりしたけど、大わらいになったた。
もっと水ふうせんをわってみたくて、パパにたくさん作ってもらった。
水ふうせんを色んなところに投げてみた。
しばふの上だとわれない。
ブロックべいだとわれる。
花だんの土の上でもわれなかった。
コンクリートにぶつけると一番大きな音がしてわれた。
「ドッカーン、ドッカーン」と口にしながら、水ふうせんをわった。ゲラゲラ大わらいだ。
ナミがとつぜん「沖縄ばあちゃん泣いてる」と言った。
さっきまでぼく達を見てニコニコしていたはずのばあちゃんが、体を小さくして泣いていた。
車の中であつい、あついとなんども汗をぬぐっていたハンカチをギュッとにぎりしめている。
ぼくはびっくりして固まってしまった。
ナミはわけがわからなくなって泣きだした。
海人がママ達をよびに行った。
ママ達があわてて出てきた。
「お母さん、具合がわるいの?どこかいたい?」ママが声をかけたけど、ばあちゃんはなんども首をふって、ママの手をにぎったままなみだを流しつづけた。
ママとみどりおばさんにかかえられるようにして、ばあちゃんは部屋にもどっていった。
ぼく達はどうしようかまよったけど、パパが遊んでていいよと言うので、そのまま庭で遊んだ。
しばらくたって、ばあちゃんがまた顔を出した。
ニコニコわらって、いつものばあちゃんにもどっていた。
ナミがばあちゃんにとびついて「沖縄ばあちゃん元気になった?」と聞いた。
ばあちゃんはナミの頭をなでながら「びっくりさせてごめんねぇ。ばあちゃん、むかしのこと思い出して泣いてしまったよ」と言った。
みんなで夜ごはんを食べて、海人達は帰って行った。
ばあちゃんはつかれた、つかれたと言っておふろに入っている。
家の中が一気にしずかになった。
洗い物をしているママに、ぼくはばあちゃんが泣いた理由を聞いてみた。
むかしのことって何だろうと気になっていたからだ。
ママはいっしゅん困った顔をしたけど、こうきはもう2年生だからね。といって話し始めた。
ばあちゃんが生まれたばかりのころ、日本はせんそうをしていたの。
沖縄には外国からたくさんのへいたいが来て、じゅうで人をうったり、ばくだんを家になげこんだりしたんだって。
たくさんの人が死んでしまったの。
ママは悲しそうにつづけた。
赤ちゃんはせんそうなんて、わからないからこわくて泣いてしまうでしょ。
ばあちゃんは赤ちゃんだったから、かくれていたどうくつで泣いてしまったの。
そうしたらね、てきに見つかってしまって。
どうくつの入口からてきのへいたいに「オキナワのヒトは出テキテクダサイ」とめいれいされたのよ。
どうくつににげていた人達はね、てきにつかまるとひどい殺され方をするから、もう自分達で死ぬしかないって心を決めたの。
それで手りゅうだん、といって小さなボールのようなばくだんをどうくつのかべにたたきつけて、ばくはつさせたのよ。
ママは洗い物の手を止めたまま、なみだを流していた。
ぼくはこわくて息ができなかった。
どうくつでばくだんをばくはつさせるなんて。
みんな死んじゃうじゃないか。
ばあちゃんはね、ばあちゃんのお母さんがギュッとだいていたから、いのちがたすかったの。
ばあちゃんとテイコ姉さんだけがたすかったのよ。
ばあちゃんのお母さんとお兄さん、もう一人のお姉さんは、ばくだんで死んでしまった。
テイコ姉さんは泣きながら、ばあちゃんをだっこしてどうくつの外につれ出したの。
二人はね、てきのへいたいにつかまって、しゅうようじょっていうところにつれて行かれた。
沖縄の人がたくさんつかまって、しゅうようじょに連れて来られていたんだって。
中には赤ちゃんが死んでしまった人もいて「わたしがその子におちちをあげる」といってばあちゃんにおちちをのませてくれたの。
ほかにもばあちゃんにおちちを飲ませてくれた人がいたみたいでね。
おかげで、ばあちゃんは育つことができたのよ。
ぼくはかなしさががまんできなくて、泣いてしまった。
ばくだんで死んだ人も
赤ちゃんが死んでしまった人も
テイコ姉さんも
そして、ばあちゃんも
みんな、みんな
みんな、みんな
たいせつないのちなのに。
ばあちゃんは、ぼく達が遊ぶすがたを見てしあわせな世の中になったよと死んでいった家ぞくにほうこくしていたそうだ。
わらばーが大わらいして走りまわってるよ、いい世の中になりましたよって。心の中で。
だけど、ぼく達が水ふうせんをドッカーン、ドッカーンと言ってわるすがたを見て、せんそうを思い出してしまった。
本物のばくだんで死んでいったお母さんと兄弟を思ってむねがしめつけられるように苦しくなったって。
ばあちゃんにわるいことしちゃったね、と言うとママはこうき達はわるくないよ。
でも、沖縄ばあちゃんの家ぞくのことと、せんそうがあったことをおぼえていてあげてねと言った。
おふろから出てきたばあちゃんは、まっかっかの顔で「さっぱりした〜」とニコニコしていた。
ママが麦茶を出すと一気にのみほして「あー、しあわせさー」と言った。
ぼくは昼間のことは話さなかったけど、かなしい出来事があってもがんばって生きてきた沖縄ばあちゃんをいっぱい大切にするって心に決めた。
そして、沖縄でせんそうがあったこと、ばあちゃんの家族が死んだことも忘れない。
