【イベントレポート】挑戦する女性がまちを動かす。東伊豆町で芽生える女性活躍とローカルイノベーション
2025年11月14日(金)、東伊豆町にある拠点「EAST DOCK」にて「女性がイノベーションを生む町で、女性活躍の鍵を探ろう!Vol.2」が開催されました。NPOローカルデザインネットワークが企画したこのイベントに登壇したのは、東伊豆町でそれぞれのフィールドから挑戦を続ける3名の女性たち。

東伊豆町が掲げる「まちまるごとオフィス東伊豆」の取り組みを背景に、これまでの歩みや、地域に芽生えつつある新しい価値について語られました。当日は、地元住民・行政職員・首都圏ワーカー40人ほどの参加者が会場に集まり「女性活躍 × 地域 × ウェルビーイング」の未来を共に見つめる時間となりました。そんな熱気に包まれた会場を、東伊豆町地域おこし協力隊の平野芹奈がレポートいたします。

町に広がる新しい働き方と、女性たちへの期待
冒頭では、総合司会のNPO法人ローカルデザインネットワーク(※以下、LDN)の竹内萌絵さんより「まちまるごとオフィス東伊豆」と多様な働き方の広がりが紹介されました。続いて、東伊豆町企画調整課の太田課長より「女性たちの挑戦が、町の未来を力強く形づくっている。行政としてもその動きを後押ししたい」という東伊豆町で活躍する女性へのメッセージが送られ、温かな空気のもとトークセッションが始まりました。

地域で挑戦する女性たち
東伊豆町で活躍されている女性3名が、それぞれの歩みと挑戦が芽生えた瞬間を語りました。
山田里美さん(ミセスこらってぃ代表 / 中美代みかん農園)
ミセスこらってぃ
河津町出身。栄養士として働いたのち、結婚を機に100年続く「中美代みかん農園」へ。農家の女性たちの思いや課題に寄り添う中で、2020年に「ミセスこらってぃ」を立ち上げた。規格外の果実を活かしたドライフルーツづくりやフードロス削減、地域の魅力発信に取り組んでいる。女性たちの連携と工夫を力に地域の農業と暮らしを未来へ届けている。

「結婚して36年。入谷のお嫁さんとして、三食のご飯、金目鯛の丸煮、草刈りや肥料まき。なんでも自分たちでやってきました。最初は、私だけが大変なのかなと思っていたんですけど、農家で働く主婦の仲間も同じように家と畑を支えてきたことに気づいたんです。
『ミセスこらってぃ』の前身は、賀茂農林事務所の呼びかけで25年前に立ち上がった「ミセスの会」です。当時は、農家のお嫁さんたちが交流を深める場として活動が始まりました。 その中から「町の特産品を作ろう!」と意気投合した8名がチームを結成し、2020年に現在の“ミセスこらってぃ”が誕生しました。そこから、規格外のみかんを活かしたドライフルーツづくりに挑戦し、SDGsにもつながる新しい農業の形が生まれています。週に一度、畑仕事のあとに集まり、無添加のドライフルーツを100袋ずつ丁寧に仕上げています。正直、大変です。だけど、『自分たちの作物をきちんと使い切りたい』そんな想いで活動しています。その積み重ねが実を結び、いまではふるさと納税の利用が増え、多くのリピーターにもつながっています。
ミセスこらってぃのキャッチフレーズは「農家の嫁がプロデュース! 規格外品で地域活性」。これは、ミセスこらってぃの活動を応援する美和さんとの対話の中で、美和さんが生み出してくれた言葉なんだそうです。
上嶋玲子さん(Green Forest Festival主催者代表/Manas Cafe店主)
Green Forest Festival / Manas Cafe
東伊豆町稲取出身。一度地元を離れたのちに戻り子育てと両立しながら生命保険営業で地域トップセールスを経験。2015年に「Manas Cafe」を開業。東伊豆町最大級のフリーマーケット「Green Forest Festival」の立ち上げ、企画・運営まで担っている。現在はカフェ運営のほか、アクセサリー制作やデザインなど幅広く活動し、地域と人が心地よくつながる場を育んでいる。

「紺碧の海を眺めながらゆったり過ごせて、女性が1人でも安心してランチができる場所をつくりたい—そんな想いで、2015年3月26日に『Manas Cafe』をオープンしました。生命保険の営業職として地域を回るなかで、女性が1人でゆっくりとランチできる場所がないと感じて今の場所に辿り着いたんです。
『Green Forest Festival』を立ち上げたのは、子どもたちや若い子たちが気軽に遊べるマーケットをつくりたいと思ったから。他にも、18歳から続けているアクセサリー作りや、この年になって”好きだ”と気がついたグラフィックデザインなど、いまでは活動の幅がどんどん広がっています。まだ出会えていないお客様がたくさんいる。だからこそ『ここに来たら元気が出る』と感じてもらえる場所を目指していきたいです」
市川美和さん
(NPO法人ローカルデザインネットワーク/キャリアコンサルタント/日本フェムテック協会理事)
Local Design Network
東伊豆町出身。国家資格キャリアコンサルタント。日本フェムテック協会理事や髙田グループ本社シニア医療コンサルタントとして、女性の健康・キャリア支援に携わる。東京と東伊豆の二拠点生活を送り、「まちまるごとオフィス東伊豆」では企画担当。都市と地域、人と人をつなぎ、女性活躍とふるさと伊豆の応援をライフワークに、自分らしい働き方やウェルビーイングを支える活動を続けている。当トークセッションの企画担当者。

ミセスこらってぃの活動もサポートしている。
「ここ稲取で生まれ育ち、子どもの頃から“この美しい伊豆の魅力をたくさんの人に伝えたい”と願ってきました。東京で31年間、女性向けメディア・マーケティングの会社で働き、現在はキャリア支援や医療機関の事業推進、フェムテックの活動を続けています。仕事で培ったスキルや人脈を、まちの活性に提供したいとキッカケを探していたところ、学生たちが立ち上げたクラウドファンディングを発見。寄付をしたことから、東伊豆町の応援活動がスタートしました。2021年から東伊豆町のワーケーション推進事業「まちまるごとオフィス東伊豆」を受託。3年前からは東伊豆町に拠点を持ち、二拠点生活も始めました。
これまでに300名以上の方々を伊豆へ案内し、美しい自然や人のあたたかさに触れることで、誰かの人生の選択肢が広がるきっかけを生み出すことが、私のライフワークです。
東伊豆町には、女性がイノベーションを生み出している事例がたくさんあります。東伊豆町の皆さんも気づいていないこの大きな価値を、町内・町外の多くの人に伝えたいと考えて、このイベントを企画しました。
『女性活躍なくして、地域創生なし。』この言葉を胸に、伊豆の魅力を伝え、女性が活躍することが地域の未来をつくる力になると信じて活動しています」

ファシリテーターはNPO法人ローカルデザインネットワーク(LDN)の星安宏美さんが担当しました。ゲストコメンテーターには、東洋学園大学現代経営学部教授の本庄加代子先生、そしてIZU BLUEの高橋美和子さんをお迎え。仕事・地域・家庭という複数の役割を行き来しながら、自分らしさを軸に新たな挑戦へ踏み出してきた女性たちの歩みが語られ、会場には多様な視点が交差する豊かな時間が生まれました。
強い意志と直感が導く❘3人の女性が語った軌跡
「最初の一歩。直感と想いが導いた挑戦」
ひとつ目のテーマは、「新しいことに踏み出すときのきっかけ」。会場が、一気にあたたまるようなエピソードが語られました。メインスピーカーとなったのは上嶋玲子さん。

玲子さん
「生まれも育ちも稲取。子どもを連れて稲取に戻ったときは、“とにかく働かなきゃ”という覚悟しかありませんでした。保険会社で伊豆中を走り回って、たくさんの人と出会い、地域の暮らしに触れる中で、親友から『何のために保険の仕事してるの?』と問われたことがあったんです。そこで、“はっ”として、お店を持ちたいという夢に気がつきました。
『女性が1人でも気兼ねなく入れる場所をつくりたい』。そう決めてからは、稼いだお金はすべて未来のお店のためにと覚悟を決めました。ある日、稲取高校へ息子を迎えにいく帰り道、海に向かってひらけた土地を見つけたんです。自分が通っていた通学路でもあり、思い出が蘇ってきて、直感的に『ここだ!』と感じました。草むらをかき分けると売地の看板があって、すぐに電話をし、その場で購入を決めていて……。いくつもの偶然が重なり、気づいたら一歩踏み出していました。その一歩が、いまの『Manas Cafe』や『Green Forest Festival』『graphic design』などにつながっています」
玲子さんの直感力と行動力、そして熱意がまっすぐに伝わってきました。
里美さん
「農家の暮らしの中で、これまで捨てていたミカンやイチゴが使えるものに変わることが嬉しかったんです。子育てが落ち着き、少し余裕ができたこともあって続けられてきました。立ち上げのときに多くの人が応援してくれたので、その期待に応えたい。そんな思いが今の原動力になっています」
続いて美和さんは、「自分の心がワクワクするほうへ、自然と踏み出していくタイプです」と語りました。三人に共通しているのは、自分の感覚に素直であること。思いだけでは行動に移すのは難しいものの、これまで積み重ねてきた経験や役割が背中を押し、その一歩が自然と形になっているように感じられました。
「それぞれの背景が新しい挑戦へとつながっている」とファシリテーターの星安さんからもコメントがあり、「女性たちの強み」の解像度がさらに高まった瞬間でした。
「自分の感覚に素直に。東伊豆町の女性が挑戦する理由」
ふたつ目のテーマは「女性ならではの視点が生きる瞬間」。共通していたのは、自分の感覚や暮らしに素直で、やれることをやるという気持ちでした。
美和さんは、こう語ります。
「東伊豆町の女性たちには、自由さがあると思うんです。組織の慣習や固定観念に縛られず、『やってみたい』という直感を逃さない人が多いと感じます。東京で男性中心の組織文化を経験してきた私にとって、その柔軟さは東伊豆町ならではの魅力です」

一方、里美さんは
「家と農園の仕事を何でも自分たちで担ってきた経験から、『できないと思わない』という姿勢があるんだと思います。小さな不便や課題を見過ごさず、手を動かして工夫してきた日々が、『ミセスこらってぃ』にもつながっています」
暮らしに根ざした視点と自分の感覚を信じる強さが、挑戦を形にしていく力となっているようでした。

そして、玲子さんは「怖いもの知らずで興味の幅が広いんです」と。その好奇心と行動力こそが地域に新しい風を起こしてきた原動力だと感じました。
町の未来をつくる視点
太田課長と特別ゲストのお二方から、それぞれの視点でコメントをいただきました。
「改めて、女性たちの実行力は本当にすごいと感じました。イベントを1
人で回してしまう行動力や、会議なしで物事を前に進める柔軟さは、男性陣にはなかなか真似できません。地域で活躍されている皆さんに刺激を受け、東伊豆町役場も町をよりよくするために頑張っていきたいと思います」
【特別ゲスト】本庄加代子教授 東洋学園大学

「長年、大企業のブランド戦略に携わり管理職をやっていました。現在は、社会人教育や大学でマーケティングを教えています。これまで、男性中心の合理性や高い論理性を重視される世界で長く働いてきたからこそ、東伊豆の女性たちが“人らしい感情の力“を使い、のびのびと挑戦している姿に衝撃を受けました。デジタルのデの字も出ない地方創生。力み過ぎない取り組みの数々。数字を追いかけ過ぎない楽しげなお仕事…。まるで映画の中に主人公が沢山いるような情景。AI時代、ここにこそ人が自然体で生きる、新しい未来の働き方があるのでは?!と感じました」
【特別ゲスト】高橋美和子さん IZUBLUE代表

「南伊豆へ足を運んでほしいという思いから、あえて“現地限定”で展開する南伊豆町のアパレルブランド『IZUBLUE』を立ち上げました。30人中、女性3人だけという男社会の建設会社で働きながら、時間外でブランドを続けています。地域のさまざまな企画に関わりながら、タイミングとご縁を信じて挑戦してきました。今日お話を聞いて、本当に『そうそう…!』と共感の連続でした。 企画を動かす人がいて、町として形にしていることがとても素晴らしいと感じました」
女性たちの実行力と感性、そして地域へのまっすぐな想い。その存在が、東伊豆町の未来を力強く動かしているのだと実感する時間となりました。

参加者からは、「東伊豆にはこんなにもパワーのある女性がいるとは驚き」「挑戦する姿に感化された」「背中を追いかけたくなった」といった声が、次々とあがっていきました。
交流から生まれる新しいつながり
トークセッション後は、参加者ほぼ全員がそのまま交流会へ。会場のあちこちで思い思いに語り合う姿が見られました。
都心からの参加者、地元プレイヤー、行政職員、地域おこし協力隊が垣根なく混ざり合う、心地よい時間に。新しいつながりが自然と生まれていく、まさに地域と都市が交わる瞬間となりました。




挑戦を自然と後押しする東伊豆町
東伊豆には、挑戦する女性を自然体で後押しする空気があります。小さな一歩がつながり、町には新しい風が生まれはじめています。今回の出会いが、誰かの“やってみたい”を動かすきっかけとなり、東伊豆町の未来がさらに豊かに広がっていくことを心から願っています。

大盛況に終わった「女性がイノベーションを生む町で、女性活躍の鍵を探ろう!Vol.2」
参加者の一人ひとりが受け取った熱量が次の挑戦への一歩と繋がっていく。そんな予感がする夜でした。
主催:東伊豆町
企画運営:NPO法人ローカルデザインネットワーク
会場:EAST DOCK
Instagram:https://www.instagram.com/higashiizu_ldn/
Facebook:https://www.facebook.com/localdesignnetwork/?locale=ja_JP
Text:平野芹奈(東伊豆町地域おこし協力隊/ライター)
photo:平野晋子
