「見えないから」埋めてきた問題
八潮市の陥没事故
2025年1月28日に八潮市で大規模な道路の陥没事故が発生した。
信じられないような映像が画面から飛び込んできた。(事故発生直後からこのnoteをポツポツと書きはじめ1週間が経過したが、2025年2月4日現在でトラックドライバーの安否は不明であるし、関係する1,200千人以上が不便な生活を強いられていることが問題の深刻さを物語っている。)
各種報道
八潮市で28日午前、県道が陥没して2tトラックが転落した事故で、車内に閉じ込められた70代の男性運転手の救助活動が続いている。さらに道路の陥没が拡大するなど現場は不安定な状況で、消防は30日未明から活動を中断していたが、同日昼ごろから再開した。
現場では、地元消防が東京消防庁などの応援も得ながら29日、穴の内部の排水作業などをした上で、同日夕に一時中断していた救助活動を再開して以降、ショベルカーで陥没のまわりの崩れやすい箇所を取り除くなどしていた。
だが30日午前2時半ごろ、最初の陥没と29日未明に起きた陥没でできた二つの穴の間の道路も崩落。つながって巨大な一つの穴になった。内部には下水道の破損箇所からとみられる流水で水がたまり、拡大が続いているという。消防は、現在の陥没の大きさは確認出来ていないとしている。
一方、埼玉県は29日午後11時過ぎ、下水処理場を通さずに最低限の処理後に汚水を河川に流す「緊急放流」を、同県春日部市のポンプ場で実施した。下水道管内の流量が増し、再びあふれるおそれがあることが理由。この河川の水は、水道用水には利用していない。県東部の12市町の約120万人に対しては引き続き、風呂や洗濯などでの下水道の使用制限を求めている。
陥没はなぜ起きたのか?
埼玉県によりますと、陥没した道路からおよそ10m下の地点には下水道管が通っています。
下水に含まれる生ゴミなどの有機物から硫化水素が発生し、空気に触れることで硫酸となって水道管を溶かし、その穴に徐々に土砂が流れ込むことで地中に空洞ができていた可能性があるということです。
この上をトラックなどの車両が通ることによって重みに耐えきれず、道路が陥没した可能性があるとしています。
現場を通る下水道管は、1983年から使われていて、2021年度の定期調査の際には修繕が必要なほどの腐食は確認されていなかったとしています。
今回、八潮市で陥没が起きてしまいましたが、全国的に見てもこの下水道管の老朽化は深刻な問題です。国土交通省はきのう全国の自治体で緊急点検し、来月7日までに報告するよう呼びかけました。下水道管が原因の道路陥没は、実は2022年度に2607件も発生しています(地震を除く)。ただそのほとんどが深さ1m以下なので、これほど大きな陥没はあまり例がないということです。
下水道管の一般的な耐用年数は50年と言われています。全国で調査をした結果、50年を経過した下水道管の割合が、2022年度の段階では7%(約3万km)でした。ただ2032年には19%(約9万km)、2042年には40%(約20万km)が耐用年数を超えてしまうということです。
では八潮市の破損してしまった下水道管はどうだったのか。実は耐用年数を超えていなかったということです。1983年から使われていて、使用年数は42年。5年に1回定期検査を行っていて、直近の検査は2021年度だった。そのときには直ちに修繕が必要な状況ではないと判定されていたにもかかわらず、今回の陥没が起こってしまいました。つまり今後、どこで陥没が起きてもおかしくはない状況です。早めに補修などをすることを考えると安全優先で、水道料金が上がることも受け入れなくてはいけないのかもしれません。
今回の陥没事故は、全国で2,600件/年以上発生している下水道管の老朽化に起因した事故の一つでしかなく、残念なことにその規模が極めて大きかったわけである。トラックドライバーには何の罪があるわけでもないし、影響を受けた周辺12市町の住民にもなんら非があったわけではない。
しかし、今回の事故は「運が悪かった」で片付けて良い問題では決してない。
陥没事故の件数や老朽化の状況から考えると、今回の件は氷山の一角でしかないが、二度とこのようなことが発生しないよう日本全体で、そして個々のレベルでもできること・やらなければいけないこと・受け入れなければいけないこと・変えなくてはいけないことへ覚悟・決断・行動することが求められている。
言い訳にならない言い訳
令和7年1月28日に県道草加松戸線中央一丁目交差点において発生した、道路陥没事故の被害に遭われた方の一刻も早い救出とご無事をお祈りしております。
また、市民の皆様におかれましても、避難や道路の通行止めなど、市民生活の様々な面において、多大なご迷惑をおかけしてしまい、深くお詫び申し上げます。
今回の事故の原因につきましては、現在、埼玉県などの関係各所と協力し調査をしております。市民の皆様にはご心配やご不便をおかけしておりますが、原因などが判明次第、改めてお知らせいたします。
引き続き、一刻も早い復旧や再発防止、また、市民の皆様の生活の安全回復に努めてまいりますので、ご理解・ご協力をお願いいたします。
令和7年1月29日 八潮市長 大山 忍
(当該管路の所有・管理責任は埼玉県であるが、)基礎自治体である八潮市の市長は事故発生の翌日にコメントを発表し、迅速に平謝りすることとなったが、各種報道では「直近の調査では直ちに修理が必要な状況ではなかった」ことや「一般的な耐用年数の50年に達していない(使用年数42年)」ことが報道されている。
「民家と接続するような細い下水管であれば、掘り返して新しい管に取り替えることができますが、幹線道路の下にある巨大な下水管は、地下鉄を建設するのと同じようなシールドマシンを使うこともあり、通行規制を伴います。しかし、下水道管の直径が大きいので、場合によっては人が中に入って補修することができ、適切な更新があれば取り替えなくても長く使えると言われています」
埼玉県は2020年に現場となった交差点の上流500mで、鉄筋がむきだしになった不健全なコンクリート管を発見し、今も補修計画を練っている途上でした。また、2021年には下流で、ただちに修繕が必要なほどではありませんが、前者ほどではありませんが不健全な状態を把握していました。
「やむを得ない」「想定できなかった」ことを言いたいのかもしれないが、結果として甚大な事故が発生してしまったわけであるし、直近の検査でも別の報道によると「完全に健全」ではなく、近接したところで不健全な状態を把握していたり、当該の管路が基幹管路で処理場近くの「下流」に位置していたことから、ある程度予見できたはずである。50年に達していなかったと言っても、80%以上の減価償却が進んだ42年が経過していたわけであるから、老朽化していたことも間違いない。
関係者は「まさか」の事態だと思っているかもしれないし、財政が厳しくて全ての管路を計画的に更新するのは難しい・現実的に不可能だと認識しているのかもしれないが、それは市民の生命・財産を奪うことの言い訳にはなり得ない。
行政のプロとして市民が安全に暮らせる環境を作り保つことは最低限の責務であり、ましてやインフラが市民生活を脅かすことなどあってはならない。
「朽ちるインフラ」の顕在化
「朽ちるインフラ」が認知されたのは、2011年の東日本大震災と合わせて東洋大学の根本 祐二教授が「想定内の緩やかな震災」として朽ちるインフラを提唱したことにはじまる。
老朽化は、地震や津波などの自然災害と違って確実に起きる。起こる可能性があるのではなく100%確実に老朽化する。何も対策を取らなければ、いずれは朽ち果ててわれわれの生命や財産を危険にさらす。
老朽化はいつの間にか忍び寄る『緩やかな震災』である。東日本大震災による被害を二度と繰り返してはならないと考えるならば、同じように、老朽化という『緩やかな震災』にも対応すべきだ。
100%確実に予見できるということは、100%確実に避けることができるということ。その知恵と力が日本人にないはずがない。
そして皮肉なことにその翌年には笹子トンネルの事故が発生し、(それまでも様々な事故は発生していたにも関わらず個別の特殊事案として考えられていたが)「朽ちるインフラ」が人命を奪うという最悪な形で社会問題として認知されていった。
同時に根本教授の指摘する「100%確実に予見できる問題であるから100%確実に避けることができる。その知恵と力が日本人にないはずがない」は、違う言葉で言えば「何か起きたら人災であり、その責任は一義的には公共施設・インフラの所有者である首長(行政)が取らなければならない」という警鐘であろう。実際にふじみ野市で流れるプールの吸水口に児童が吸われて死亡した事故では(本来は財産の所有者であり総合調整権を持つ市長が責任を取るべきだと思うが、最高裁判決によって)当時の課長と係長が執行猶予はついたものの有罪が確定し、刑事罰という形で責任を取ることとなった。
その後、国交省を中心としてインフラ長寿命化計画が策定され、総務省を中心とした公共施設等総合管理計画の流れでは、全ての自治体に公共施設等総合管理計画の策定が「要請」されることとなった。2000年の地方分権一括法が施行され、国と地方が対等と位置付けられたなかで「要請」という強い言葉で、全自治体が「計画策定」に取り組むこととなった。
それぞれの自治体がその背景を真剣に理解し、きちんと現実を直視していなかったことが根幹的な問題であるにしろ、総務省が策定要請において公共施設・インフラを負債と捉え「短絡的な施設総量縮減」にフォーカスを絞ってしまったこと、更には「計画づくり」をKPIとしてしまったことで、「公共施設・インフラが市民の生命・財産に襲いかかる」という3次元の深刻な課題は2次元のリアリティのない世界へ堕ちていった。
総務省は追い討ちをかけるように個別施設計画の策定・総合管理計画の見直し・・・と、自治体を「計画づくりの無限ループ」へ貶めるとともに、そこに群がる計画づくりコンサル・机上論の学識経験者・後追いの評論家等によってなぜか現場でのプロジェクトよりも「計画づくり」の風潮が広まっていってしまった。
笹子トンネルの事故についても簡単に喉元を過ぎて良い問題ではないし、全く何かが改善されたわけでもない。むしろ事態は刻一刻と悪い方向へ転げ落ちているのが現実である。
「100%人災」であることは、こうしたところにも現れている。
下水道を巡るリアル
国交省等のデータ


なんと2022年度には地震関連を除いても全国で2,600件以上の下水道管路に起因した道路の陥没事故が発生している。割合から考えてみれば1自治体あたり1件以上、1日あたり7件以上の陥没事故が全国のどこかで発生している計算になる。更に今回の報道では「これほど規模の大きなものは珍しい」といった言葉も聞かれるが、全体の2%(≒52件)は深さ100cm超の陥没である。これも割合で考えれば各都道府県で1回、全国で1週間に1回の割合になる。
この数字を「少ない」と見てしまうこと自体、問題を歪曲化・矮小化してしまっているし、リアリティや危機感の薄さを象徴している。


年度別管理延長及び処理場の供用開始箇所数をみれば、これらの老朽化が社会問題になることは容易に予見できたことが明白である。このデータだけ見ても、今回の八潮市の道路陥没事故は十分に予見できたと言える。
上水道も同様


水道施設についても老朽化は深刻な状況になっている。2021年には和歌山市において六十谷水管橋が破損し、6日間にわたって6万世帯が断水する大規模な事故が発生している。
40年以上経過した管路の割合は日本全体で20%を超え、水道管の更新率は1%/年に満たない。単純計算すれば全ての管路を更新するために100年以上の時間が必要になり、年を追うごとに老朽化の深刻度は更に増していく。
そして基幹管路の耐震化率は40%程度しかない。驚くことに、上水道管の耐震化率に含まれる数値はタグタイル管等の継ぎ手の脱落が起きにくいものだけではなく、周辺地盤が良好なものは継ぎ手の脱落が発生しうるものでも「耐震適合管」として耐震化されたものとして計上されている。更に水道管は実際には基幹管路だけではなく、多くの住宅地に張り巡らされた水道管も存在するため、日本全体のリアルな水道の耐震化率はこの数字より圧倒的に低いものとなっているが、その数値は(各種統計資料を探ってもChat GPTを駆使しても見つからないことから)明らかになっていない。
ハコモノより圧倒的にヤバい


厚生労働省の資料によると、浄水施設の耐震化率は43.4%、配水池の耐震化率は63.5%に留まっている。


住宅の耐震化率が2018年度現在で約87%、防災拠点となる公共施設等の耐震化率が96.2%であることを考えると、それぞれが推計であったり防災拠点ではないものも含めた全ての公共施設ではないことを勘案しても、人の生命・財産に最も直結するインフラである水道施設の耐震化は遅れていると言えるだろう。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001840614.pdf
令和6年1月の能登半島地震では、上下水道施設に甚大な被害が発生するとともに、特に浄水場や配水池、下水処理場に直結する管路等の上下水道システムの急所施設の耐震化が未実施であったこと等により、復旧に長期間を要しました。
また、災害復旧にあたっては、避難所等で水を使えるようにするために上下水道一体での復旧を図りましたが、事後対策のみならず、平時より水道と下水道の両方の機能を確保するため、計画的な耐震化を進める必要性が認識されました。
このような能登半島地震の教訓を踏まえ、緊急点検として、全国の水道事業者等(水道用水供給事業者を含む。)と下水道管理者に、上下水道システムの急所
施設や避難所などの重要施設に接続する水道・下水道の管路等について、令和5年度末時点の耐震化状況を確認しました。

能登地震を契機とした国土交通省による上下水道施設の耐震化状況に関する緊急点検結果によると、主要な施設(急所施設・重要施設)においても耐震化率は50%未満であり、管路に至っては20%台のものも多く存在している。
しかもこの調査では(緊急点検だったとしても)配水池から住宅、住宅から下水道処理場直前の合流地点までの「生活に密着した上下水道インフラ」は調査対象外とされている。ここまでの状況をみれば、基幹となる部分より圧倒的に低い耐震化率であることが容易に想像できる。
つまり、日本全体がどれだけ老朽化した耐震性も確保されていない脆弱なインフラを膨大に抱えているか、日本や自治体の財政状況を考えるとほぼ無理ゲーの状況にあるのかが見えてくる。
こうした「不都合な真実」から目を背けてきた・真剣に対応しようとしないことはまさに令和版失敗の本質でしかない。
上下水道管は道路の下に埋まっているからといって、問題まで地下に埋めて良い訳がない。
目を背けないこと
昔から危惧・指摘されてきた
https://www.mlit.go.jp/common/001036081.pdf
静かに危機は進行している
高度成長期に一斉に建設された道路ストックが高齢化し、一斉に修繕や作り直しが発生する問題について2002年以降、当審議会は「今後適切な投資を行い修繕を行わなければ、近い将来大きな負担が生じる」と繰り返し警告してきた。
しかし、デフレが進行する社会情勢や財政事情を反映して、その後の社会の動きはこの警告に逆行するものとなっている。即ち、2005年の道路関係四公団民営化に際しては高速道路の管理費が約30%削減され、2009年の事業仕分けでは直轄国道の維持管理費を10~20%削減することが結論とされた。そして、社会全体がインフラのメンテナンスに関心を示さないまま、時間が過ぎていった。国民も、管理責任のある地方自治体の長も、まだ橋はずっとこのままであると思っているのだろうか。この間にも、静かに危機は進行している。道路構造物の老朽化は進行を続け、日本の橋梁の70%を占める市町村が管理する橋梁では、通行止めや車両重量等の通行規制が約2,000箇所に及び、その箇所数はこの5年間で2倍と増加し続けている。地方自治体の技術者の削減とあいまって点検すらままならないところも増えている。
今や、危機のレベルは高進し、危険水域に達している。ある日突然、橋が落ち、犠牲者が発生し、経済社会が大きな打撃を受ける…、そのような事態はいつ起こっても不思議ではないのである。我々は再度、より厳しい言い方で申し上げたい。 「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切らなければ、近い将来、橋梁の崩落など人命や社会システムに関わる致命的な事態を招くであろう」と。
すでに警鐘は鳴らされている
2012年12月、中央自動車道笹子トンネル上り線で天井板落下事故が発生、9人の尊い命が犠牲となり、長期にわたって通行止めとなった。老朽化時代が本格的に到来したことを告げる出来事である。この事故が発した警鐘に耳を傾けなければならない。また昨今、道路以外の分野において、予算だけでなく、メンテナンスの組織・体制・技術力・企業風土など根源的な部分の変革が求められる事象が出現している。これらのことを明日の自らの地域に起こりうる危機として捉える英知が必要である。
2005年8月、米国ニューオーリンズを巨大ハリケーン「カトリーナ」が襲い、甚大な被害の様子が世界に報道された。実はこの災害は早くから想定されていた。ニューオーリンズの巨大ハリケーンによる危険性は、何年も前から専門家によって政府に警告され、 前年にも連邦緊急事態管理庁(FEMA)の災害研究で、その危険性は明確に指摘されていたのである。にもかかわらず投資は実行されず、死者 1,330人、被災世帯 2,500千という巨大な被害を出している。 「来るかもしれないし、 すぐには来ないかもしれない」という不確実な状況の中で現在の資源を将来の安全に投資する決断ができなかったこの例を反面教師としなければならない。
橋やトンネルも「壊れるかもしれないし、すぐには壊れないかもしれない」という感覚があるのではないだろうか。地方公共団体の長や行政も「まさか自分の任期中は…」という感覚はないだろうか。しかし、私たちは東日本大震災で経験したではないか。千年に一度だろうが、可能性のあることは必ず起こると。笹子トンネル事故で、すでに警鐘は鳴らされているのだ。
行動を起こす最後の機会は今
道路先進国の米国にはもう一つ学ぶべき教訓がある。1920年代から幹線道路網を整備した米国は、1980年代に入ると各地で橋や道路が壊れ使用不能になる「荒廃するアメリカ」といわれる事態に直面した。インフラ予算を削減し続けた結果である。連邦政府はその後急ピッチで予算を増やし改善に努めている。それらの改善された社会インフラは、その後の米国の発展を支え続けている。
笹子トンネル事故は、今が国土を維持し、国民の生活基盤を守るために行動を起こす最後の機会であると警鐘を鳴らしている。削減が続く予算と技術者の減少が限界点を超えたのちに、一斉に危機が表面化すればもはや対応は不可能となる。日本社会が置かれている状況は、1980年代の米国同様、 危機が危険に、 危険が崩壊に発展しかねないレベルまで達している。 「笹子の警鐘」を確かな教訓とし、 「荒廃するニッポン」が始まる前に、一刻も早く本格的なメンテナンス体制を構築しなければならない。
そのために国は、 「道路管理者に対して厳しく点検を義務化」し、 「産学官の予算・人材・技術のリソースをすべて投入する総力戦の体制を構築」し、 「政治、報道機関、世論の理解と支持を得る努力」を実行するよう提言する。
いつの時代も軌道修正は簡単ではない。しかし、科学的知見に基づくこの提言の真意が、この国をリードする政治、マスコミ、経済界に届かず「危機感を共有」できなければ、国民の利益は確実に失われる。その責はすべての関係者が負わなければならない。
道路の老朽化に対する「最後の警告」は、2014年に国土交通省社会資本整備審議会道路分科会が発表した提言であり、インフラメンテナンスの重要性を訴え、道路の老朽化が待ったなしの状況にあることを強調している。
残念なことにこの警告は警告ではなく「予言書」として日本に襲いかかっている。しかし、それは「100%予見できたものであり100%避けることができるはずのもの」である。
この警告から10年以上の月日が流れているが、残念ながらこうした警告すら真剣に受け止めようとしない、ドラスティックにあり方を変えようとしない国・自治体は、お気楽を通り越してただの無責任・不作為でしかない。同時にこうした警告の認知度が圧倒的に低い状況も大きな問題である。
「楽しい日本」などといっている場合ではない。そんなの何も楽しくない。
わかってるはず
公営企業会計の適用の推進について
公営企業は、 独立採算の原則に基づき経済性を発揮しながら、 その本来の目的である公共の福祉を増進するために運営されており、 住民生活に身近な社会資本を整備し、必要なサービスを提供する重要な役割を果たしています。
現在、 我が国においては、人口減少やインフラ老朽化が大きな課題となっていますが、公営企業においても、高度経済成長期に集中的に整備された施設・設備の老朽化に伴う更新投資の増大や、人口減少等に伴う料金収入の減少が見込まれるなど、経営環境は厳しさを増しつつあるところです。 こうした中で、公営企業が必要な住民サービスを将来にわたり安定的に提供していくためには、中長期的な視点に立った計画的な経営基盤の強化と財政マネジメントの向上等に取り組んでいくことが求められます。
これらについて、より的確に取り組むためには、公営企業会計を適用し、貸借対照表や損益計算書等の財務諸表の作成等を通じて、自らの経営・資産等を正確に把握することが必要となります。
このため、「経済財政運営と改革の基本方針2014」において、「現在、公営企業会計を適用していない簡易水道事業、下水道事業等に対して同会計の適用を促進する。」旨が明記されており、また、民間能力の活用等の観点からも「地方公共団体におけるPPP/PFIの推進を支援するため、固定資産台帳を含む地方公会計や公営企業会計の整備推進等を通じ、地域企業を含めた民間事業者によるPPP/PFI事業への参入を促進する。」旨が指摘されているところです。
各地方公共団体におかれては、これらの趣旨を踏まえ、地方公営企業法の財務規定等を適用していない公営企業について、2015年度から2019年度までの5年間で、同法の全部又は一部(財務規定等)を適用し、公営企業会計に移行されるように、特段の御配慮をお願いします。 特に、資産の規模が大きく、住民生活に密着したサービスを提供している下水道事業及び簡易水道事業については、公営企業会計適用の必要性が高いことから、重点的に取り組まれるようお願いします。
なお、総務省においては、 公営企業会計の適用について、 着手から完了までの手順や留意点等を取りまとめたマニュアルを策定したところであり、併せて、所要の経費に対する地方財政措置の拡充、アドバイザー派遣や関係機関等における研修の充実、継続的な助言・情報提供等を行うこととしています。各地方公共団体におかれては、これらを適切に活用し、取組を進めていただきますようお願いします。
あわせて、各地方公共団体におかれては、「経済財政運営と改革の基本方針2014」において公営企業の徹底した効率化・経営健全化を図ることや民間の資金・ノウハウを活用すること等が必要とされていることも踏まえ、 必要な住民サービスを将来にわたり安定的に提供していくことが可能となるよう、 これまで以上に中長期的な視点に立った効率化・経営健全化に取り組んでいただきますようお願いします。
総務省は2014年に公営企業法を適用していない簡易水道・下水道等に対して、同法の適用を行いフルコストベースで経営するよう求めている。(ここがセンスのないところで「自分たちで考えて覚悟・決断・行動すること」を阻害してしまっているが、)経費に対する地方財政措置・アドバイザー派遣等を支援措置として位置付けている。(国は「やってます感」「あとは自治事務なので自治体の問題感」を出したいのかもしれないが・・・)
こうした趣旨を鑑みても、上下水道は企業会計≒フルコストベースでイニシャルだけではなく必要な更新経費等も含めた独立採算で成立させることが大原則であり、人口減少(や大型商業施設・工場等の地下水利用等)に伴い給水人口・給水量が減少するなかでは積極的にコスト削減や必要なコストから算定した上下水道料金の値上げなどをやっていかなければいけない。


国土交通省の資料によると給水原価が供給単価を上回っている(≒赤字前提の)事業体が全体の約40%、総務省の資料によると下水道事業では全事業の平均で経費回収率が75.7%に留まり、必要な汚水処理費用が使用料収入で賄われていない実態が浮かび上がっている。

水道法施行規則§17-4において「30年以上の期間を定めて、その事業に係る長期的な収支を試算」したうえで「当該算定に基づき料金算定」することや、「10年以上を基準とした収支見通しの公表」、更には「収支の見通しを概ね3〜5年ごとに見直す」ことが規定されているにもかかわらず、水道料金の見直しをしている事業者数は約40〜80事業体しかない。
そして、こうした赤字体質の上下水道事業では「一般会計からの繰り出し」が経常的に行われており、ただでさえ苦しい自治体の財政に拍車をかけている。
こうしたリアルな統計データはきちんと公表されており、それぞれの事業体・行政・議会は認識しようと思えばそのヤバさを数字から5秒で認識できる。しかし、実際には「誰が犠牲にならないと」国も手を打とうとしない(本気で対策を講じようとしない)し、ジャーナリズムが欠如したオールドメディアは数字が取れないからなのかアホなのかわからないが報道しないし、社会問題化しようとしない。
行政・議会はこのような目の前にある危機から目を逸らし、短絡的なイベントや見栄えの良い無償化などで市民や既得権益の顔色を伺ったり、表面的に取り繕っていたり、自らの保身に走ったり、まちの規模からスケールアウトしたハコモノを整備している場合ではない。
老朽化対策(施設や管路の更新)すらまともにできていないのだから、怪しげな「基幹管路の耐震化率」ではなく本当の意味での「上下水道インフラ全体の耐震化」は全くなされていない、そこに向けて本格的な舵を日本全体で切っていない恐ろしさ、どれだけお気楽なままでいるのだろうか。
ウォーターPPP云々ではない


国は「ウォーターPPP」を掲げ、内閣府のPPP/PFI推進アクションプラン(令和6年度改定版)ではトップセールス・国費支援の重点配分などを記している。

国土交通省では将来的なコンセッションへの移行のため管路・更新一体マネジメント方式(≒ウォーターPPP_レベル3.5)を掲げ、すべての事業体にこの検討を求めるとともに、検討をすることを社会資本整備総合交付金の交付要件に課している。
その前段でも上記noteに記したようにPPP/PFIの相談窓口を設置することを同様に交付金の交付要件としたことから、ほぼすべての自治体が「一言一句違わぬ表面的な相談窓口のホームページ」を作ることとなった。今回のレベル3.5についても契約期間が「原則10年」で8年や15年を基本的に許容しない形であったり、あらゆる内容・仕様がマニュアルで位置付けられたものになっている。
PPP/PFIの原理原則は対等・信頼の関係、オーダーメイド型、性能発注であり、民間事業者の知的財産と行政の政策を駆使する力を掛け合わせ、お互いの持つリソースを足し算・掛け算しながら試行錯誤していくことであるが、残念ながらガチガチのウォーターPPPを取り巻く各種方針・やり方等は「従来型発注」をベースに「なんとなく表面的にPPP/PFI要素を盛り込んだ」に過ぎない。これでは、コンサルが主導してきたPFI法に基づくPFI(BTO方式かつサービス購入型)のインフラ版にしかなり得ない。
八潮市の事故を受けて、改めて「何のためにやるのか」「自分たちにできること・やらなければいけないことは何なのか」を考えて覚悟・決断・行動しなければいけないことは明白なのに、なぜか地域のそれぞれの事情も考慮せず全国画一的なザ・PPP/PFIに流れてしまうのだろうか。今変わらなくて、いつ変わるのか。
八潮市の事故を「自分のまちではないこと」として、国交付金を取るために、言われたとおりにやっておけば(短絡的な自己保身で)リスクヘッジできるからなどと心のどこかで思っていないだろうか。
手を尽くすこと
八潮市の事故を契機に本気でこの問題に取り組もうと改心するのであれば、まずはこれまで有耶無耶にしてきた上下水道料金の見直し、つまり自分たちの襟元を正すことを今すぐにでもやるはずだ。
これまで何とか誤魔化したり表面上だけを取り繕い続け、適正な見直しをしてこなかった事業体では、料金が何倍にも跳ね上がることもありうるだろう。上下水道のサービスを享受してきて「言われたとおりに」提示された料金を支払ってきた市民から、この物価高と実質的な賃金上昇が追いつかない官製スタグフレーションとも言える状況下で猛反発されることは想像に難くない。でも、もう逃げ続けることなどできないはずだし、そんなことをしていたらあっという間に全国のどこかで同様の事故、いや今回以上の「人災」が発生することは間違いない。
上下水道については、浄水場・ポンプ場等の施設において「将来的な建て替え用地」として未利用となっている広大な用地を確保していることも多い。これらを暫定利用して民間事業者に貸し付けることで一時的な歳入確保につなげていくことも、真剣に取り組めばそれほど難しいことではないはずだ。
(追記2025.2.5)
柏市等の一部の自治体で行われている下水道管路の包括委託なども、やろうと思えば「性能発注」によって、それほどの手間をかけずともできるはずである。(追記ここまで)
下水道の排熱を活用した発電事業、上水道における落差や給水圧力を活用した小水力発電なども優れたノウハウ・ビジネスモデルを持つ民間事業者と必死になって研究していけば、安全性を確保しながら安定的にマネタイズできるモデルも十分に構築できる余地があるはずだ。八潮市の事故によって「当たり前の安全」すら確保できなかった、これまで適正な料金値上げすら目の前の反対を恐れて避けてきた人たちは今更、民間とビジネスベースで連携したら上下水道の安全な提供ができないなどと言える立場ではない。
もっと小さいことで言えば24時間365日フルパワーで回っている各種ポンプ類にインバーターをつけて省エネ化・エネルギーコスト削減・脱炭素を同時に図るチューニングESCOなどもできるはずだ。まちなかのポンプ場用地の周囲への自動販売機の設置による歳入確保、不要備品等のメルカリでの売却などもやろうと思えば今すぐできることである。
これから、それぞれの事業体がどのような生き方をしていくのか、大きな差が生まれてくるだろう。事業体単位だけではなく、自治体も一般会計から上下水道に莫大な繰出金を出しているにも関わらず今回のような事故が発生したことを受けて、どのように市民生活の根幹的なインフラである上下水道と向き合うのかが問われており、それぞれのまちで「どれだけ真剣にまちと向き合っているのか」、その差は如実に現れてくるはずだ。
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来年度に予定する次期入門講座までの間、アーカイブ配信をしています。お申し込みいただいた方にはYouTubeのアドレスをご案内しますので、今からでもお申し込み可能です。
実践!PPP/PFIを成功させる本
2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本
2021年に発売した初の単著。2024年12月現在6刷となっており、多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。
まちみらい案内
まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2025年度の業務の見積依頼受付中です。
投げ銭募集中
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