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北見市の財政危機_自治体経営のリアル


「見ないふり」は、未来を潰す


「書かない市役所」が“書けない市役所”になる日

北見市の「財政破綻のおそれ」ニュース

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20250227/7000073694.html

北見市が「財政破綻寸前の状態にある」という報道があちこちでされている。ワイドショー等では「ゴミ袋の値段が1.5倍に上がること・第二の夕張になるのでは?」の部分がフォーカスされているが、本質はそこではない。

夕張市のジャンプ方式_北海道庁_夕張市の財政運営に関する調査

(夕張市のケースはここでは詳しく述べないが、エネルギー政策のシフトによる急激なまちの構造の変化、炭鉱から観光へのシフトチェンジの失敗などと合わせて、「ジャンプ方式」に手を染めてしまった(染めなければならない環境に陥ってしまった)ことが致命傷であった。)

財政非常事態宣言

数年前までは毎年いくつか自治体が財政非常事態宣言をするのが一般的だったが、コロナ禍以降は「なぜか」地方公共団体の一般会計の規模やその歳入歳出構造は改善していることが多く、このようなニュースを見かけることは少なくなった。

財政非常事態宣言をした自治体は、地方自治法・地方財政法に根拠が置かれているわけでもなく、国からプロセスが示されているわけでもないが、「財政再建計画」を策定して公表することが一般的になっている。

北見市の概要

北見市財政健全化計画説明会資料

北見市では財政非常事態宣言は行なっていないものの、今後3,200〜3,360百万円/年の収支不足が発生することが明らかとなり、2025年度当初予算の編成作業が遅延し、3月議会の開会を1週間延期する事態に陥った。
市のホームページでは財政健全化に向けた財政再建計画が公開されているが、その内容を読むと強烈な違和感を覚える。前半に「人口減少、少子・高齢化、物価・人件費の高騰等の社会経済情勢の困難さを示し、ふるさと納税等を頑張ってきたが合併に伴う地方交付税の特例措置の縮小もあって全く間に合わない。。。」といった対外的な要因・他人事の視点ばかりが挙げられている。

また、この財政再建計画における財政再建のための対応策として、合併特例債に依存して華美・巨大なスケールで整備し財政悪化の主要因の一つ・象徴ともなっている(ワイドショーでは切り取り報道の部分もあるが、集中的に取り上げている)新庁舎についてはほとんど触れられていない。

合併特例債に依存した新庁舎

北見市は2021年、合併特例債を活用し総事業費11,800百万円をかけて新庁舎を建設した。合併により分散していた機能を集約し、市民サービスの向上を図ることを掲げていたが、皮肉なことにその庁舎が市の財政を強く圧迫している。
他の事務事業に無理をかけバランスを欠いたイニシャルコストだけでなく、合併特例債の地方負担分の償還、維持管理費を含めれば、それ以上の固定費が今後発生してくる。また、これらの償還金・維持管理費は将来にわたって「固定費」として財政状況に影響を与え続けていく。

北見市財政健全化計画

にもかかわらず、財政再建計画で新庁舎についての記載は文末に添えられた「継続して検討を進めるもの」の項目に、効果額・手法・時期等も全く存在しない「開庁時間の見直しを検討する」の一行のみである。これも市民サービスを低下させるだけでしかなく、「書かない窓口」や「まちの交流やにぎわいに寄与する」を謳い文句にしていた当初のビジョンと全く合致しない。
そもそも雪国で温熱環境が厳しいのに「開かれた庁舎として1階・2階はガラスカーテンウォールを採用し、開放性を高め、中心市街地とにぎやかさが連続する明るくオープンな空間を創出しています。」とすること自体、経営感覚が表れている。

市民にはゴミ袋の値上げ(1.5倍)、各種イベントの中止、公共施設の統廃合といった“痛み”が課されている中で、自分たちの「お城」や労働環境については(若干の給与見直し程度で)何ら痛みを伴う見直しをしようとしないのでは、市民の理解も得られないだろう。

北見市役所は「書かない市役所」として全国から注目されているようだが、このままでは「書く余力すらない市役所」になりかねない。現状と真摯に向き合わないまちの未来は暗い。その意味で、今北見市が直面しているのは、単なる財政問題ではなく、まちのガバナンスそのものである。

庁舎という“負債資産”の構造

北見市の新庁舎は、まさに「公共施設整備の誤謬」を象徴する存在である。老朽化した庁舎の更新が必要であったこと、分散化された拠点を統合した方が効率的であること、防災拠点として機能する本部を整備すること自体は間違いではないだろう。しかし問題は、それを「どのスケールで」「どの財源で」「どのように使い続ける前提で」整備したかである。

合併特例債という“見かけの補助”

合併特例債は、平成の大合併を推進するため国が自治体に提供した「甘いニンジン」である。条件を満たす事業に95%に充当でき、更に交付税措置が約70%なされる。当時はここぞとばかりに全国の市町村がこの合併特例債目当てで隣接市町村との合併を行うこととなったが、そもそもの動機が不純すぎる。(昭和の大合併では「財産区」が同様にニンジンとして用意されたが、現在でも財産区が自治体経営・まちづくりに大きな支障・負の遺産となっている事例も多い。総務省も地方公共団体も地域課題を解決する・ポテンシャルを顕在化させるために合併するのではなく、「有利な起債」を使うために合併する思考回路・行動原理となってしまっていること・そこで利害関係が一致することが根本的な問題である。)

合併特例債によって単年度会計・現金主義の行政における予算書ベースでは、わずか5%の一般財源を負担することでどデカいハコモノを簡単に整備できることとなり、そこに群がるコンサル・ベンダー・ゼネコン・ディベロッパー・地元事業者や地元有力者・議員・既得権益団体等によって自治体が食い荒らされることとなったが、そこには悪い意味でのWin-Winの関係が成立している。

LCCベースで考える

忘れてはならないのは、合併特例債を活用しても30%は後年度に自分たちのまちの負担になること、イニシャルコストはLCC(建築物の企画・設計・工事から維持管理運営・解体に至る一連の総コスト)のうち20-30%程度でしかなく、その維持管理費はそれぞれの自治体が(ほぼ全て)自分たちで負担しなければならないが、こうしたことが当初から真剣に検討されることはほとんどない。

ハコモノ・インフラを整備しようとするときに行政・議会ともにライフサイクルコストという発想が根本的に欠けている。一般論として合併特例債(だけではなく、各種補助金・交付金・起債)に依存したハコモノ・インフラのスケールは、人口減少を織り込んだものでも、自分たちのまちのヒューマンスケール/エリアスケールと向き合ったものでもなく、あたかも“成長するまち”を前提に設計されている。
最悪の場合には「交付金・起債をブッ込める限界ライン」がハコモノ・インフラの規模・グレードになり、結果的に「使い切れない広さ」と「維持しきれない立派さ」が自治体の今だけでなく将来の首を絞め続けている。この行き着く先がいわゆる「墓標」である。

残念ながら北見市の市役所本庁舎も、周辺の衰退した商店街との対比から「行政あるあるロジック」にどっぷりと浸かったもののように見えてくる。上記noteで記した長岡市のアオーレ長岡も同様の構図である。

再建計画に書かれていない・書かない問題

庁舎(お城)は問題ない?アウトオブ眼中?

北見市の財政再建計画で庁舎については“透明人間”のように扱われている。
新庁舎に関連する各種設備の保守管理委託費・光熱水費等の固定費だけでなく、まちなかの一等地に庁舎が存在することによって、仮にその敷地を民間が所有していた場合に発生したはずの固定資産税・都市計画税(・法人税・市民税等)の税収は、そのまま機会損失につながっている。
北見市にとって新庁舎は現在だけでなく、将来にも大きな財政負担になっていることはほぼ間違いないのに、再建計画での言及はほとんどなされない。庁舎維持にいくらかかっているのか、どこに最適化の余地があるのかといった「数字」と「選択肢」の提示もなければ、具体的な収支バランスの改善策も(前述の「開庁時間の見直しを検討する」こと以外には何も)示されていない。

こうした事実を真剣に直視し、市民等へ包み隠さずに原因と今後の方針を示すことがまちの経営、特にこうした非常事態に陥ってしまった際において最も重要なことであるにも関わらず、「情報開示と説明責任」を放棄してしまっているような印象すら受ける。自治体経営は市民との信頼によって支えられている。都合の悪い情報を伏せ、片方では市民にだけ痛みを強いる──これではガバナンス不全であるし、きちんと定められた税金を納付し続け「何も悪いことはしていない」市民から見たらとても納得のいくものにはなり得ない。そのような状況では痛みを分かち合ってはくれるはずもない。

わざと論点化しない?

北見市財政健全化計画説明会資料
北見市財政健全化計画説明会資料

合併特例債に依存して整備してしてきた数々の公共施設。前述のようにヒューマンスケール/エリアスケールを逸脱し、「合併記念」としてできるだけ豪華に、あるいは庁舎のように集約することに対する理解を得るためのバーターとして過剰な設備・機能を盛り込んでしまうことは北見市に限らず、一般的な行政では残念ながら「あるある」ネタでしかない。そして、整備してしまったハコモノを急に「無かったこと」にすることは物理的・財政的・政治的に難しい。

せっかく上記の説明会資料でも、冒頭にハコモノを合併特例債・過疎債に依存して整備してきたことを市民向けに公表できたのだから、これらを写真だけではなくこれからどうマネジメントしていくのか?を記すことから避けてはいけない。
「再建計画は、まちの経営方針である。ならば、その核となる資産(=庁舎等)をどうするのかを明確に示さずして、何を信じろというのか?」
庁舎をきちんと論じることによって、点としての庁舎だけでなく、北見市が抱える本質的な問題にも踏み込んでいけるかもしれない。
まさか、「わざと論点化しない」わけではないだろうし、完成した庁舎では「固定費だけだから何も打てる手がない」と思考停止しているわけではないだろう。

なぜこのタイミングで、なぜこの規模で、なぜこの財源構成で、という問いを自ら封じ、「耐震性不足だからやむを得ない」「交付税措置されるから実質的に市の負担は少ない」というテンプレート的な説明でその場を取り繕い、「整備ありき」の空気を醸成し、そもそも論を排除してはならない。

すぐにでも庁舎でできること

庁舎でできることは数多くあるはずだ。例えば自動販売機を行政財産の目的外使用ではなく貸付で入札(更なる効果を目指すのであればプロポーザル)することで、大幅な歳入確保を図ることができる。これも庁舎内だけでなく敷地の周辺にも設置することで数百万円/年の歳入にはなるはずだ。
庁舎内がだいぶ「ゆとり」を持ったレイアウトとなっていることは、以前訪問した感覚から見ても間違いない。事務室内のレイアウト等も(こういう状況なのだから贅沢言わずに「効率性」だけには特化しながら)見直し、創出した面積を民間事業者に貸し付けることで賃料を得ていくことも可能なはずだ。

また、什器備品も地域材を活用したかなり豪勢なものが活用されているようなので、これらも「最低限必要なもの」だけ残してメルカリ等で売却していくこともできるだろう。せっかくの地域材を庁舎だけで使うのではなく、このような形で「まちなか」へ展開することも決して悪い選択肢ではないはずだ。

庁舎を中心に公共施設の包括施設管理業務を導入することも、職員のマンパワーを(財政再建をベースとした)本来業務に集中させるために役立つはずだ。これだけ大きな庁舎であれば、民間事業者にとってもかなりのスケールメリットが生じるはずだし、前述の合併特例債・過疎債に依存した巨大な公共施設群をまとめて管理することで適正な管理や結果論としてのコスト縮減にもつながっていく。窓口業務をアウトソーシングすることも同様の効果につながっていくはずだ。
既に設備関連の包括施設管理業務や窓口アウトソーシングなどは、多くの自治体で実施されているもので、それほど難易度が高いものでもない。これだけ自治体が窮地に陥っているなかで、「これらすら」やらない・やろうとしない・計画に位置付けられないのでは本気度が問われても仕方ないだろう。

歳入を語らない再建計画に未来はない

減らすだけ?

北見市財政健全化計画説明会資料

財政再建計画のもう一つの問題は、(北見市に限ったことではなく古くは富津市の時代からそうであったが)歳出削減ばかりを列挙しており、(ふるさと納税には淡い期待をしているようだが)歳入増加の視点が決定的に欠如していることである。施設使用料の見直し・ネーミングライツ・市有地売却など、一時的なキャッシュフロー改善に寄与する施策は確かに明記されているが、その効果額はネーミングライツが2,500千円/年など、なぜか謙虚すぎるものにとどまっている。
持続可能な自治体経営に必要な「金が回るまち」をどう構築するかのビジョンや具体的なコンテンツはどこにも見られない。

固定費の削減で目先を誤魔化す

また、後述するが公共施設・インフラの保守管理・改修・更新などの「固定費」を削減して必要な工事等を「短絡的に先送り」することは単年度会計・現金主義ベースではそれなりの数字に見えるかもしれないが、結局はツケを将来に先送りしているに過ぎず、そのリスクマネーが牙を剥いたときには致命傷となってしまう。
「本当はやらなければいけないこと」であることを十分に認識したなかで、先立つものが全く不足するため仕方なく・わかって「先送り」を選択しているのか、市民や議会への「体裁を取り繕う」ために固定費に手を染めているのか、この財政再建計画や報道されている状況からだけではわからないが、北見市が後者でないことを信じたい。

「見えていた崖」に突き進んだ構造的要因

合併特例債≒「打ち出の小槌」の副作用

北見市財政健全化計画説明会資料

旧北見市と端野町・常呂町・留辺蘂町の合併により、面積も組織も大きく膨張した新・北見市は、国の交付する合併特例債という“特権”を得た。この制度は、合併によるインフラ再編や庁舎整備を財源的に後押しする一方で、安易にこの仕組みを乱用してしまうと将来的には市の財政に多額の償還負担を課すことになる。

問題は、その制度設計の罠に北見市も含めて多くの自治体が自らはまり込んだことである。庁舎再編、道路整備、公共施設の新築といった目に見える「投資」には熱心でも、それらが将来にわたって生む維持管理費や職員の分散配置コストといった“見えない債務・固定費”には無関心だった。合併特例債は本来、合併効果を最大化するための集中投資に用いるべきであったが、北見市の場合は旧町村ごとの「平等な配分」への配慮や「せっかく使えるのだから」の思考回路・行動原理が優先され、戦略性を欠いたまま拡散的に消費されたのではないだろうか。
この構造は、北見市に限らず全国の合併自治体に共通して見られる失敗である。制度の設計ミスに乗じて、地域の政治が“人気取りの公共事業”に奔走し、そのツケを将来世代に転嫁しているという点において、北見市はむしろ典型例である。

歳入の(実質)減と歳出増という構造的圧迫

北見市財政健全化計画
北見市財政健全化計画

北見市でも人口減少は着実・急速に進行している。特に若年層の流出により、所得課税による市民税・法人税ともに減収傾向にあり、加えて高齢化に伴う医療・介護・扶助費の自然増は避けられない構造となっていた。
例えば2022年度の決算資料によれば、扶助費は2009年度の約1.5倍に膨らみ、一般財源を圧迫している。

北見市財政健全化計画説明会資料

99.3%の経常収支比率が示すように自治体の裁量が及ぶ自主財源の比率は年々低下し、財政の“硬直化”は常態化した。にもかかわらず、そうした傾向に対する行政的な危機意識は乏しく、歳入見込みは過去の数値を引き写すような形で甘く設定され続けた。
こうした「読み違え」の背景には、現場からの警鐘を政策決定に反映させる回路の不在がある。中長期的なシミュレーションやリスク評価は行われていたかもしれないが、それが政策判断に反映されることはなかった。予兆は決算資料等を見れば明らかであったが、それを無視したのは人間の意思である。監査や議会もこうしたことに警鐘を鳴らすチャンスは何度もあったはずだが、見過ごしてしまったのか、数字が読めなかったのか、あるいは目を瞑ってしまったのか。

北見市だけではなく、財政非常事態宣言をしてきた自治体の共通項は、毎年本当は生じていたはずの収支不足を「財政調整基金の取り崩し」「臨時財政対策債等の地方債の発行」等により補填し続けながら見かけの収支を合わせ続け、「財政調整基金が底をつく」ことでお手上げ事態に陥っていることである。
市の将来にかかわる意思決定が、誰の責任でもないまま「なんとなく」進み、結果として市民全体に過大なツケを回すことになったに過ぎない。

具体論の欠如と低い目標設定

財政危機が表面化した2023年以降も、市民に対する情報提供は不十分であった。財政健全化計画案に関する住民説明会では、インターネット上の情報によると「市の説明は具体性を欠く」「反省の言葉が見られない」「外部監査を入れるべきだ」といった批判が噴出していたようだ。

北見市財政健全化計画

また一連の財政再建計画等の資料は「市民に読ませるため」ではなく「形式を整えるため」の行政用語が多く、どこか他人事のように見えてしまう。
同時に掲げている数値目標が、例えば長期目標(概ね10年以内)でも「実質公債費比率を11.8%⇒11.0%未満」と設定していることや前述の歳入確保策が脆弱であることも含めて、ほぼ誤差や既存の延長線上だけの小手先の対応でお茶を濁そうとしているようにも感じる。
更に、“財政シミュレーション”の前提設定が恣意的であり、歳入見通しの甘さや扶助費・物件費の伸びへの想定も極めて緩い。
「できる前提」で都合よく設計された二次元の「こうあったらいいな」の財政再建計画が、今の厳しいリアルな三次元の世界の社会経済情勢で機能していくのか、しっかりと考えなければならない。

北見市の財政危機は「不幸な偶然」でも「地方の限界」でもない。それは意思決定の場において、市民不在と責任の回避が積み重なった結果に他ならない。問題は予見できていた。にもかかわらず、それに向き合わなかったことが、真の構造的敗因である。

単年度会計主義がもたらす“見えない老朽化”

単年度会計・現金主義の限界

地方財政法によって地方公共団体は「単年度会計・現金主義」で運営(≠経営)されている。この制度は、強烈な右肩上がりを背景にしていた戦後から高度経済成長期までは確実に機能し、勤勉な日本人の特性も相まって世界に類をみない速度・質で戦後復興に寄与してきたことは間違いない。
しかし、成熟社会・縮減局面に移行した現在の世の中で単年度会計・現金主義が通じないことは明白であり、「朽ちるインフラ」が各地で猛威を奮うようになってきた現代では完全にオワコンである。

同時に、単年度会計・現金主義の思考回路・行動原理は、長期的視野に立ったインフラ更新や老朽化対策を極めて困難にする。
単年度会計・現金主義で収支バランスが崩れると真っ先に削られてしまうのが「改修費」「更新費」といった先送りしやすい経費になる。だが、この本来固定費となる費用の先送りが老朽化を促進し、ある日突然、施設やインフラが崩壊するという最悪のシナリオを呼び込んでいる。

玄海町下水処理場

佐賀県玄海町では、2025年1月に北部浄化センターの設備が故障し、地下に設けられた施設が水没してしまった。補正予算で一般会計から1,340百万円が繰り入れられ応急対応を行ったが十分な効果が得られず、更に約1,000百円の追加補正を余儀なくされた。しかし、いまだ復旧の目処は立っていない。
これは単なる設備故障ではない。報道によると施設全体としてはまだ法定耐用年数に余裕が十分あったが、それよりも耐用年数の圧倒的に短い機器のバッテリーが作動しなかった可能性があるとされている。まさに「老朽化を先送りし続けた結果」である。

北見市でも、同様のインフラが数多く老朽化の臨界点を迎えているはずだ。今、公共施設やインフラのLCCを可視化し、中長期的なファシリティ戦略を持たない限り、玄海町のような事態は明日は我が身である。ましてや目先の財政状況が厳しいからといって、こうした必要な更新経費を短絡的に先送りすることは、このようなリスクの発生確率を爆増させ、自らの首を絞めていくことと同義である。

お城庁舎

市町村役場緊急保全事業

市町村役場緊急保全事業

2016年の熊本地震によって旧庁舎が被災した八代市は、(当時存在していた)国の「市町村役場緊急保全事業債」を活用して2箇所に分散していた庁舎を集約する形で新庁舎を整備した。この緊急保全事業も公共施設等適正管理推進事業債の1メニューとして位置付けられていたものであり、必要経費の90%を起債(うち30%が交付税措置)、更に一般財源ベースで自治体の持ち出しとなる起債対象経費外の費用についても75%の一般単独事業債が充当できる仕組みとなっていた。
つまり、前述の合併特例債や過疎債と同様に単年度会計・現金主義ベースでだけで考えれば「見かけの事業費ほぼゼロ」で巨大な庁舎を整備可能としている。近年、各地で老朽化して耐震性もなかったはずのボロボロの庁舎が「お城庁舎」へと次々と変貌していったのは、合併特例債とともにこちらの適正管理推進事業債の影響も大きい。

八代市

当時、八代市にはアドバイザー業務で関わっていた。実際に現場やデータを見てみると市町村合併の影響もあり重複したホール等の施設が多数存在していたり、支所(合併前の役場)が老朽化しており、いざという時の災害対策本部としての機能確保といった課題などが山積していた。そのようななかで新庁舎整備に向けて準備が進んでいたが、(緊急保全事業で見かけの一般財源の持ち出しが少額で済むとはいえ、)明らかにヒューマンスケール/エリアスケールを逸脱した巨大・華美なものとなろうとしていた。
そこで、職員研修において(そこまでの経緯や市としての考え方も持った中で判断してきたことだろうから、)ゼロベースに戻すのではなく、今からでもできることとしてコンストラクションマネジメントを導入して質とコストをマネジメントすることや、LCCベースでイニシャルコストが20-30%にしかならないこと、更に全国的にどのような事例が存在しているかを真っ向正面から説いていった。
職員研修のアンケート結果は過去最高(現時点まで含めてもかなり上位)の評価を得ていたこと、参加者から「うちの課も案件協議に参加したい」との要望が出され、翌日には早速担当者が作成してきた資料をベースに新しい案件も動き始めた。

やっと八代市も本格的にギアが上がるか。。。と希望を持ったのも束の間、なぜか「謝罪文を提出しろ」という抗議文が事務所に寄せられた。
そこには「これまで執行部が市民や議会に説明してきたことがあたかも嘘であるような誤解を与えた、事前に庁舎には触れないように要望していたにも関わらず約束を破り取り上げたのはフェアではない」といったことが書かれていた。

先般、このファシリティーマネジメントについて、職員研修があったというふうに伺っております。議員にも御案内がありましたけれども、私は残念ながら参加できませんでした。この講師をされました寺沢さんという方ですけれども、このファシリティーマネジメントにおいてはスペシャリストということであります。非常に著名な方でございます。全国で活躍されているというような講師からですね、直接助言、提言があったものというように思います。
 そこで、研修の内容、感想についてお伺いをいたします。
◎財務部長(岩本博文君) 御質問の公共資産マネジメント研修の内容と感想について、自席からお答えをいたします。
 今回の研修は、職員を主な対象に開催しており、全国の自治体のさまざまな事例について、御紹介いただきましたが、講師本人から何度も、個人の見解に基づくものであると断っての発言ではありましたものの、国の制度として確立されている交付税措置は無意味であるとの暴論を唱えられたり、本市の事業に関して、事実関係の誤認や無理解に基づく不適切かつ軽率な発言がありました。
 研修に参加していた職員はもとより、参加していない市民の方々に対しても、伝聞により、誤解や混乱を招くおそれがありましたので、直ちに講師及び講師所属の協会に対し、非常に遺憾である旨を伝えるとともに、文書により、講義において極めて不適切かつ軽率な発言があり、ここに厳重に抗議を行うものですと抗議を行いましたところ、同協会からは即日、今回の講義内容が貴団体の御依頼及び御意向に反する結果となったことを深く受けとめるとともに謝罪申し上げます。弊社としては、本件の重要性を鑑み、今後同様なことが生じないように対策を講じる所存ですと謝罪文を受け取ったところでございます。(「当たり前だろう」と呼ぶ者あり)
 執行部としましては、今後このような誤解が生じないよう取り組むとともに、交付税措置等は、制度上も確立し、きちんと措置される財源でございますので、これまでどおりの見解としているところでございます。
 以上、お答えといたします。
◆野崎伸也君 ありがとうございました。非常に丁寧に御答弁いただきまして。
 私、残念ながら参加できなかったというような話はしましたけれども、研修のですね、資料のほう、担当課のほうからいただきまして目を通させていただきましたので、少し中身について御紹介をしたいというふうに思います。
 初めにですね、八代市の公共施設の7割が築30年以上であるということ。八代市の人口予測で2060年には8万6900人になるということ。施設の更新費用が年に33億3000万円不足する。そのようなことが、記載がまず1ページ目にありました。
 これはですね、既に公共施設等総合管理計画、八代市がつくっているというようなこと、ありますけれども、そこでですね、公表されていることであります。しかしながら、改めてショッキングな予測だなというふうに思ったところです。
 ページをめくりますと、国に自治体を助ける力があるかというふうな題目で、国の直近のバランスシートから、自治体より国のほうが財政状況が厳しく、各種補助金、交付金の基準単価割れ、不採択率など、最終的に国が助けてくれる時代ではないというふうに結ばれております。
 また、八代市のアドバイザー業務について、この講師は、八代市とアドバイザー契約を結ばれておりますけれども、まず八代市についての所感だろうというふうに思うんですけれども、平成の大合併、人口減少、中心市街地の衰退、関係者の理解不足、国への過度な依存、過大な新庁舎建設というような分析がなされ、典型的な地方都市でのアドバイザー業務というふうに記載があっております。(「個人の見解たい」と呼ぶ者あり)
 また、(「私見、私見」と呼ぶ者あり)また担当レベルの職員の問題意識は高いが、庁内全体での連携、協力体制が課題というふうにあります。
 そのほか、これまで携わってこられた自治体の事例について、数々の実体験、成功例から導き出されたであろう提言等々が紹介されております。
 参加された職員の方、どのような感想をですね、持たれたのでしょう。興味がありますけれども、アンケート結果についてはですね、残念ながら、私は拝見をしておりません。
 ただですね、講師の方に電話をしてですね、話を聞きました。アンケートでは、多くの職員さんから好評を得たと、得た結果だったということ。(「全然だろう」と呼ぶ者あり)また、今回の研修後にですね、多くの質問を受けるようになったと。今回の研修を受けて、その後、多くの質問、相談をですね、受けるようになったというふうなことをですね、述べられておりまして、やっとですね、アドバイザーとしての仕事がですね、始まったような気がしますと。頑張りますというふうなことをですね、言葉を聞くことができました。
 このアドバイザーの方はですね、先ほども申しましたように、全国を飛び回り、実体験、成功例から話をされております。プロのアドバイザーですので、当たり前と言えば当たり前の話。ただ、これまで一般質問あるいは委員会、そういったさまざまなところでですね、執行部が答弁されてきたこととは違ったアプローチ、視点で話をされた部分もあったと。今ほど答弁もありましたけれども、そのような話をされた部分があったというふうに思います。
 これは、請け負った自治体をですね、少しでもよい方向へ導き成功させたいと、そのような思いからであることは間違いないというふうに思います。それをですね、今回、参加された職員の方がどう受け取り、どう生かしていくかだというふうに思います。間違いがない方向に進んでいってもらいたいというふうに思います。

八代市議会_2018年6月定例会06月13日-04号

更に上記引用のとおり本件については議会でも取り上げられることとなった。(この議員の方はかなり本質を理解いただいていると思うが、執行部の答弁や議員の周囲のヤジが・・・ちなみに八代市議会は最近、別件で大炎上している・・・)

確かに表現や配慮不足については十分謝罪に値する部分があったことは認めるが、「本質」でやりあうべきでろう。もし、自分のその場で話した内容に異議・誤解・誤認があったり、その方々(自分の名前も出さずヤジだけ飛ばす議員)やそうした人たちに迎合する情けない管理職は、堂々と「その場で意見」すれば良いはずだ。結果的にこの謝罪文騒動も顛末はここで省略するが内容等ではなく「寺沢が謝罪した」ことだけが欲しかったらしい。

自信があるなら

自分たちのまちの庁舎として自信を持って整備し、点としてだけでなくまち全体の経営を踏まえて誇れる事業(≠プロジェクト)になっているのであれば、こんな情けないやりとりはせず・たった1回の職員研修での内容など無視して堂々としていれば良いだけだ。にも関わらず、そこでこれだけヒヨっていたのは、職員研修での内容のどこかに共感した・刺さったものがあったのではないか。

こうした事実は、もはや庁舎が「議論すら許されない神聖不可侵の領域」になっていることを示している。立派な庁舎があればまちは良くなるという幻想がいまだに制度と政治の深層に巣食っている。だが、その幻想こそが、自治体経営を蝕んできた一因にもなっている。

https://www.city.yatsushiro.lg.jp/kiji00314472/3_14472_59749_up_mo11uwwb.pdf

https://www.city.yatsushiro.lg.jp/kiji00312929/3_12929_50881_up_cqju8h0w.pdf

それぞれの自治体の生き方の問題であるし、様々な事情のなかで選択したことなのだろうから、八代市のことを批判するつもりもないが、自信を持って「まち全体」を考えて本庁舎の整備を行なったと胸を張って言えるだろうか。
八代市がよもや北見市のような事態に陥ることはないと信じているが、全国の自治体も改めて庁舎(だけでなくハコモノ)整備至上主義の幻想から抜け出すことを期待したい。
そして、そういった思考回路・行動原理に堕ちない・抜け出すためにまちみらいは自治体・民間事業者とともに現場重視・実践至上主義をこれからも貫いていく。

制度が自治体を甘やかしてきた現実

「自分」の喪失

北見市も八代市も、国の短絡的・表面的な制度が提供する「アメ」によって、自分のまちと向き合う冷静な判断の主体性を奪われてきた可能性がある。合併特例債、緊急保全事業、公共施設等適正管理推進事業債──どれも「補助金があるから」「交付税措置があるから」「今なら制度が使えるから」といった外部要因を主軸に、「自分」という1人称が喪失したまま見かけの一般財源の少ない、行政用語で言うところの「有利な起債」で事業化されてきた面がないだろうか。

しかし、制度が甘いからといって、そのツケを払うのは国でも見知らぬ誰かでもなく、あくまで自治体とその住民である。制度に振り回されて整備された“立派な公共施設”は、次第にまちの自由度を奪い、持続可能な経営を困難にしていく。

悪のWinーWin

さらにこの構図には、次のような「悪しきWin-Win」が存在する。

  • 国は制度利用が進めば実績となる(表面的なKPIになる)

  • 自治体は補助金・起債で立派な公共施設が整備できる

  • コンサルは可能性調査・アドバイザリー業務等で莫大なフィーを得られる

  • 設計事務所・ゼネコン・地元業者は口を開けていれば工事を受注できる

  • 首長・議員は支援者にいい顔ができる

  • 既得権益はこれまでどおり(以上)に自分たちの権益を確保できる

ここに関わる全員が“短期的には”得をしているように見えるが、将来にわたる維持・更新・運営という長期視点で見れば、それはただの“先送り型の債務生成”でしかないし、”まちを衰退させている張本人たちを延命措置”させているにすぎない。そして上記で列記した人々は「ごくごく一部」であり、ほぼ全ての市民はこの中に入っていない。
まちの未来が、短期・見かけの利益の下で切り売りされてはいけないし、本当の意味での経済合理性・持続可能性を確保していくことが求められている。

まちとして考えること

財政危機に瀕してしまった北見市。これは一つの自治体の問題にとどまらず、日本全国の自治体が抱える共通課題の象徴である。

今求められているのは、「まちとして考えて」「時には辛いことも経営判断」しながら覚悟・決断・行動ことだ。ハコモノを整備する、サービスを削る、施設を統廃合する。それぞれの政策を“点”で捉えるのではなく、どのように「負債を資産化」し、「まちを再編」しながら「まちの新陳代謝」を促していくか。
行政界隈で「有利」とされている制度、自治体を食い物にするベンダーやコンサルが持ち寄る怪しげな「成功の方程式」、現場をやらない学識による「お上品な机上の論理」などに何も考えずに食いつき、「自分」を見失い安易な方法論をとってしまうと、その先に待っているのは。。。

将来を見据えた経営判断とは、「自分たちのまちは自分たちでつくる」という覚悟・決断・行動である。それを担えるのは、ほかの誰でもない、そこに暮らす人々と、行政の内部にいる職員一人ひとりの自覚、そしてクリエイティブなそのまちの地域プレーヤーである。未来は自動的にはやってこない。選択の連続が未来を形づくる。今、まちの意思が試されている。

お知らせ

2025年度PPP入門講座

約10年間にわたって毎年定期的に実施してきたPPP入門講座。
昨年度は会場・オンライン合わせて500名近くの方にご参加いただき大変ご好評をいただきました。
特定非営利活動法人日本PFI・PPP協会に所属していた当時にはじめた企画で、毎年必ず(ときには大阪開催も含めて)実施してきたものです。毎回非常に多くの方にご参加をいただき、回を追うごとに参加者が増加し、2024年度は過去最高の約480名の方にご参加いただきました。
全6回(各回_60分×3コマ)にわたって、弊社の基本理念である「現場重視・実践至上主義」に基づいた生々しいリアルな姿を事例を通じて学んでいきます。
教科書的な「PFI法に基づくPFIとは」「VFMの算定方法」「事業手法比較表」等の話は一切行いません!
最近、類似の「PPP入門編」のセミナー・勉強会があちこちで開かれているようですが、それらとは一線を画す超オリジナリティ溢れたものになっています。

今回は更に内容をブラッシュアップして、能登地震・八潮市の道路陥没事故・Next PPP/PFIや事業パートナー方式なども交えながらPPP/PFIを考えていきます。
これまでと同様、多くの皆様にご参加をいただけるよう、①会場での講義形式、②zoomによるリアルタイムでのweb配信を併用して、講義形式で実践的なPPP/PFIを解説していきます。なぜPPP/PFIが自治体経営で必要なのか、多くの事例をベースとして「どうしたら進められるか」、実務に直結する内容で構成しています。
実務として公共施設マネジメントに取り組む自治体の皆様はもちろん、自治体のパートナーとしての民間事業者・コンサルタントの皆様にも、PPP/PFIの基本や原則を再確認し、実務としてのPPP/PFIを進めるためのヒントを得られる貴重な機会になると考えています。
新しい事例や「なぜふるさと納税に依存することが危険か?」ぜひ過去にご参加いただいた方にもお申し込みいただければ幸いです。
※詳細はリンク「まちみらい公式HP」をご覧ください。

noteプレミアムへの移行

2025年1月からまちみらい公式noteは「noteプレミアム」に移行しました。(単純に今まで知らなかっただけ。。。)
noteにコメントも受け付けています。双方向型になっていけるようコメントにはレスを入れていきます。記事の「いいね!」も積極的にお願いします。
また、最下段にあるように「投げ銭」は絶賛募集中ですw

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2024年12月現在6刷となっており、多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

まちみらい案内

まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2025年度以降の業務の見積依頼受付中です。

投げ銭募集中

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