小説|夏日影に消ゆる君 #13
十三、
灰色の空に打ち付ける白波、というのが冬の海の印象だが、太平洋は今日も快晴。青い空と海が広がっている。夏の空と違うのはやはり空模様だろうか。空の高いところにはすじ雲が薄い線を描いており、太陽も南側の低い位置で優しい光を放っていた。
木枯らしが冬枯れの庭を通り過ぎる。
庭掃除をしていた詩音は肌を刺すような冷たい風に肩をすくめた。
緩んだマフラーを結びなおして、それから空を見上げ、はあ、と息を吐いた。
白い息が冬の冷たい空気の中に溶けていく。
身体も冷えてきたことだしそろそろ家の中に戻ろうかと思った矢先、ぱたぱたと騒々しい足音がこちらに向かって近づいてきた。
「詩音くーん! 銀賞!! 銀賞!!!」
近くの山に反射するほどの元気な声の主は、庭の詩音めがけて突進する。
「おおっと、湊。元気が良すぎるちや」
「詩音くん聞いて、銀賞! 銀賞とった! コンクール!」
「うお! やったやいか!」
「もうホームページにも載ってるよ! 見て! 今!」
詩音は「わかったわかった」と興奮ぎみの湊をなんとか宥め、彼を縁側から家の中に招き入れた。
居間のテーブルにあったタブレットを開き、コンクールのページ検索する。
湊は早く早くとずっと隣でそわそわしていた。
メニュータブから入賞作品、社会化部門と辿っていき、表示されたページの中で湊の名前を見つけると、名前に張られたリンクをタップした。
「おぉ! 湊のレポートが載っちゅう!」
「ね! ね! すごいでしょ!」
詩音は掲載用にわかりやすくまとめられているテキストに軽く目を通すと「ほういやこがなこと調べよったにゃあ」と懐かしそうに笑った。
審査員のコメントではたくさんの賞賛の言葉が並べられていて、それらを読み上げると湊は嬉しそうな照れたような顔をして喜んだ。
客人は褒められるだけ褒められて、風のように去っていった。塾の時間が迫っているのだとか。
賑やかだった家の中が急に静まり返ってなんだか少し寂しい。それに、やっぱり夏の日々をありありと思い出してしまって胸がぎゅっと苦しい。
ずっと夏に閉じ込められているようでは、琉生を悲しませてしまうだろうか。
だって彼が終わらせた夏の物語の外側はこんなにも寒いではないか。
だが、小さく冷えていく夏の面影に縋っていても、進み続ける時間を無視することはできないのだ。
捜せないほど遠くの空で光り輝く一機の飛行機に手を伸ばすよりも、もっと大きな太陽に向かって歩もう。
この世界の最果てで再び邂逅する奇跡を信じて。
【完】
