十九歳の地図⑥―死んでもいい(後)―
新聞奨学生のシリーズ、最終「章」の最終「回」となります。
万引きGメンやラブホテルのエピソードに比べるとパンチは弱めだとは思うのですが、
青春の普遍性というか、そういうものを目指しリアリティを最優先して描写してきました。
概ね好評?だったようで、えがったです^^
短大の卒業を間近にひかえる購読客・亜希さんとのデートの日時も決まり、
「筋トレ」を繰り返し、「流れるような会話のテクニック?」、そしてコンドームの「自然な」装着及び脱着の練習を繰り返す。
背伸びしなくてもよいのにね、しかしこれもまた青春です。
包茎手術を受けて9ヵ月、
童貞を卒業して3ヵ月しか経ってない経験人数わずかひとりのオナニストだったわけで、
憧れのひとに、そんな背景を想像されたくないじゃないですか(^^;)
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デート1週間前の、ある日の夕刊配達時―。
路上に自転車を停め、前カゴの新聞を整理していると背後から亜希さんに声をかけられました。
「新聞屋さん!」
「あっ」
在宅時の亜希さんしか見たことがなかったものだから、軽く動揺する。
ハッとするほど美しかったのだもの。
「ごめんなさい、急なんですけど、引っ越しが早まって明後日になったんです」
「えぇ!?」
「デート行けなくなっちゃいました…」
「……」
「ほんとうにごめんなさい、あと最後の集金なんですけど、急だから、お金用意して、明日にでも私がお店に伺いましょうか」
「いえ!いえ!自分が伺います。明後日の日中は在宅ってことですか」
「えぇ、ちょうど荷造りしているところだと思います。来ていただけますか」
「分かりました、伺います」
「デート、私も楽しみにしていたんです。ごめんなさい、ごめんなさい!!」
・・・・・。
脱力……。
最初からその日に引っ越す予定だったんじゃないのか。デート潰すための策略?だったんじゃないかとまで考えたが、そのあたふた具合を見ると、ほんとうに急に決まったようだった。
デートはなくなってしまったけれど、明後日もういちど会えるじゃないか。
その場で、せめて、自分の想いだけはきちんと伝えようと決心した。
とはいえ、この脱力感はいかんともし難く…。
・・・・・。
シコって気分転換!
もういちどシコって、さらにシコって、この精神的危機を乗り越えよう!
これぞオナニストだよと。
そして、最後の集金。
自分流に表現すれば、最後の逢瀬である。
気合いを入れてエレベーターに乗りこむ―6階到着、降りると…602号室は玄関が開けっ放しになっていた。
一歩先に進んだと同時に、部屋からダンボールを抱えた若い男性が顔を出した。
業者ではない。
家族? お兄ちゃん?弟ちゃん? いや亜希さんはひとりっこだといってたじゃないか。
同級生? いやいや純心女子は「女子」という冠がついているんだぜ…ということは彼氏か?彼氏なのか!?
つづけて、亜希さんが顔を出す。
「あ、新聞屋さん!わざわざすいません、ちょっと待ってくださいね」
ダンボールを抱えた男と亜希さんはエレベーターに乗り込み、亜希さんが(たぶん)1階ボタンを押して通路に戻る。
そうして、エレベーターは閉じられた。
出鼻を挫かれた、挫かれまくった。
逢瀬だというのに、いきなり邪魔者の出現である。
たぶん彼氏なのだろう、彼は1階のエントランスにダンボールを置き再びココに戻ってくるはず。
2度は顔をあわせたくない、
つまり自分に残された時間は、長く見積もっても2分くらいか、エレベーターが6階に到着する前に非常階段で降りるしかない。
「日割りになりますかね、おいくらですか?」
「お代はけっこうです」
「えっ」
「亜希さんへの、感謝の気持ちです」
「…感謝?」
横目でエレベーターの電光表示を確認する。
よし、まだ1階のまんまだ。
急げ急げ、淀みなく気持ちを伝えるんだ!!
「新聞奨学生って、なかなかキツイんですよ」
「ですよね、お話を聞いているだけで私には出来ないんだろうなって」
「仲間も次々に辞めていきました。自分だってそうなってもおかしくなかったのに、つづけられたのは亜希さんの存在があったからなんです」
「えっ」
「気持ち悪いヤツって思われるかもだけど、毎月、集金で亜希さんに会えるから。話せるから」
「…私はなにも」
「ここは感謝させてください、迷惑かもですが」
「…」
「これ、引っ越し先で観てみてください、映画のビデオです。観てますかね、『レインマン』って。トム・クルーズが出てるんですけど」
「タイトルは知ってますけど、まだ…」
「ひとりっこだから、兄弟姉妹の映画やドラマを観ると憧れるって」
「(笑う)よく覚えてますね」
「この映画がちょうどいいかなって、これ贈ろうって買ってきました」
「いいんですか、代金も払わずプレゼントまでいただいちゃって」

エレベーター、動き出す。
「(苦笑)心残りは、デートなんですけど」
「(礼をして謝罪)ほんとうにごめんなさい」
「自分の名前、覚えておいてくださいね。『レインマン』みたいな脚本書くんで、どこかで自分の名前を目にしたら、ちゃんと劇場まで観に行ってください」
「(笑う)はい」
エレベーターの表示、「2」から「3」、そして「4」へ。
「大好きでした…いや、いまも大好きです」
「……」
エレベーター、「5」から「6」へ―。
「お元気で!」
エレベーターが開く直前に、非常階段をダッシュで下る。
一気に1階まで駆け下り、そのままエントランスを突っ切り歩道へと。
そうして、エトワール調布を振り返ることもなく帰路に着いた。
・・・・・あぁ清々しい、結果振られたけれど、すごく気持ちがよい。
トラビスがベッツィからお代を受け取らず、イエローキャブ走らせた感覚はこんな感じだったのだろうか…ちがうかっ。
さて、自分を煽った小寺先輩は、、、というと。
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恋情が爆発し、とうとう離婚届を持って人妻に迫ったそうです。
「えっ、えっ!?」
「これ旦那に渡して、俺と暮らさないか」
「………」
「いいでしょ、そのほうが幸せになるって!」
「…そういうつもりは、ぜんぜん」
「えっ」
「そりゃ、小寺君と話してると楽しいよ。身体の相性がいいっていうのも嘘じゃない。でも…」
「でも?」
「売れると思うけど、思うけど、いまの小寺君は役者の卵でしょ。あたしは、いま何不自由なく暮らせてる。それは、、、」
「…」
「やっぱり旦那のおかげだし、小寺君とは、そういうものを投げ出すような関係とはいえない」
「…」
「ごめんね」
「…」
人妻は「ごめんね」といいながら、小寺さんのズボンのチャックを下ろしたという…あぁ悪女!悪女、だよなぁ。
その日、小寺先輩は初めてセックスで泣いたのだとか。
そして「集金とはいえ会うのがつらいから」という理由で契約を切り、ふたりは二度と(文字どおり)交わることはありませんでした。
そう告白してくれた先輩、そーとー堪えているように見えた…のに、
その翌日には、べつの購読客をナンパしたようで……うーむ、モテる男ならではの切り替えの早さに感動したり呆れたりしたのでした💦
(了)…以上で、新聞奨学生のシリーズは終了です。
次週からは、「40日間で42kg落とした」ダイエットのエピソードをつづります。
