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最後の恋になればいい 第4話


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

* * *
私の直感が当たっていればいいのだけれど。
会社の給湯室で、同僚の女性社員と休憩のコーヒーを飲む。
「あんたたちもよく行くよね~。これで何回目?」
「ん~月に1回は行くようになってもう3年だから……何回だろ」
「げ。芽生、そんだけ行ってダメなの?」
「芽生は一途なんだよ。よく言うでしょ? 男は名前を付けて保存、女は上書き保存って」
前にひどく芽生が酔っぱらった時、堰止めていた水がポロポロと零れるように元カレの話をしてくれたことを覚えている。あの時の芽生の顔が、今でも忘れられない。
「あれって嘘だよ。少なくとも、芽生にとっては」
だって、愛しくてたまらないって顔だった。
普段見られる芽生の表情は、限られている。いつも明るく振る舞ってはいるけれど、一度あの苦しそうな表情を見てしまっているから、心の中では色んな葛藤があるのだろうと想像せずにはいられない。
そんな芽生の初めて見る表情、声色、態度を引き出したのが、あのバーのマスターだ。
この先どうなるのかはわからないけれど、芽生にとって何か新しい風を引き起こしてくれる存在になればいい。
そんなことを思いながら、私は一口、コーヒーのお供に甘いチョコレートを頬張った。

*     * *
仕事をばっちり定時で終わらせて、朝出勤前に駆け込んだクリーニング店にもう一度赴く。
「こちらになります」
朝は少しクタッとなっていたマスターのジャケットが新品同様の綺麗さで戻ってくる。クリーニングってすごい。
「ありがとうございました。お世話になりました!」
キビキビと、酔っていない時の私はこんなにちゃんとしてるんだぞ! と、誰が見ているわけでもないのにきっちりとお辞儀をする。
ちゃんと、私の地元の山梨の銘菓もアンテナショップで手に入れたし、準備は完璧だと、背筋をピシッと伸ばしてクリーニング店を出たところで、残っていた二日酔いが襲ってくる。
「うう……頭いた……」
その場にしゃがみ込み、改めて昨日飲み過ぎたことを反省する。
そもそもどうしてあんなに飲んでしまったのだろうと思い返すと、さおちゃんに相手が出来たのが寂しいと言う気持ちが最初にあったことを思い出す。
思えば、私はいつも”寂しさ”に気持ちを持っていかれがちだったかもしれない。卓也との始まりだってそうだった。

卓也と出会ったのは大学一年生の頃。同じ学部で同じサークルだった卓也とは会えばたまに話す程度の仲だった。
大学生になると皆、サークル、バイト、学部、そこから生まれる飲み会なりであっという間に彼氏が出来ていく。大学に入学したばかりの頃は「この4人でずっと遊ぼうね」なんて言っていた友達も、2年生になる頃には私以外の3人とも、きっちり彼氏が出来ていた。
「はあ……。ミカちゃんにも彼氏出来ちゃった」
5コマ目まで授業を終えて、私以外の3人は皆この後彼氏との予定があるらしく、私はなんとなくまだ家に帰る気になれなくて学食に来ていた。レジに並んでいるときに出くわした卓也となんとなく向かい合わせの席に座って、卓也はラーメンを、私はヨーグルトを食べていた。
「これであの4人の中で彼氏いないの、綿貫さんだけ?」
「……そうですけど」
ヨーグルトの中のミカンをつぶしながら、唇を尖らせる。話せば皆彼氏の話題だし、学校終わりも、土日も、皆彼氏との予定があって、全員で会えることなんてほぼなくなった。
寂しい。めちゃくちゃ寂しい。
彼氏が出来ることに文句を言うつもりはないし、幸せそうな皆を見ていると嬉しい気持ちになるけれど、それとは別に、寂しいと思う気持ちや、羨ましいと思う気持ちはどうしたって湧いてくる。
「でも俺、綿貫さんに彼氏出来たら嫌だなあ」
「へ」
突然の言葉に、私はスプーンで掬ったばかりのミカンを落とす。目の前には顔を赤くした卓也がいて、どうやらドッキリではないらしい。
「俺とか、どうですか」
卓也のはにかんだ顔にキュンとしたのは、私たちが付き合う少しだけ前、もう8年も前のことだ。

『Bar OLIFANT』の前まで着く。
もしも私が、友達の幸せを羨ましがらず、寂しくならず、もっと自立した人間だったなら、卓也との別れも、昨日みたいなお酒の失敗も、なかったんだろうか。
とどのつまり、私はあの頃から全く成長出来ていない。情けなくてため息が出る。しかしここでシャンとしなければ、もっと私は自分を許せなくなる。
「……よし!」
気合いを入れ直して『Bar OLIFANT』のドアノブに手を伸ばす。低めのカランコロンと言う音が、今日も私を出迎えてくれた。

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