見出し画像

最後の恋になればいい 第14話


#創作大賞2024 #恋愛小説部門

テレビから明日からの山梨の天気を憂いている声が聞こえる。
「山梨の方では今日の夜から雪が降り始め、朝には積雪30cmを超える大雪となる見込みです。また、強い風も伴い、交通機関に影響が出る可能性があります」
私はそんなアナウンサーの声をBGMに、壁に掛けたドレスを眺めていた。
並んでいるのは青とピンクのドレス。『Bar OLIFANT』で行った投票では圧倒的に青が人気だった。
「青の方が良いってわかってるんだけどなあ……」
別に、自分がピンクが好きでも似合う色がピンクじゃないことに、今更悲しさを覚えるような年齢じゃない。なのにどうして、そこまで人気でもなかったピンクのドレスとで迷っているのかと言うと、このクシャクシャの紙が原因だ。私はその紙を開いてまたポケットに入れると、また二着のドレスを交互に見て、頭を悩ませた。

昨日は結婚式前ラストの『Bar OLIFANT』を訪れ、決戦へと赴く私を、さおちゃん、里見さん、マスターが見送ってくれた。
「ということで行って来ます!」
「頑張ってね芽生!」
「元カレめろめろにしてやれ~!」
それぞれ激励の言葉をくれる里見さんとさおちゃんを余所に、マスターは無言でグラスを磨いている。
「確か結婚式の次の日だっけ。元カレと会うの」
「はい。帰る前にごはんでもって」
「そっか」
「ほら。マスターもなんか一言」
「別になんもねえよ。……あ、帰りやべえかもな。雪」
何を言うのかと思えば、帰りの心配をされたから面食らう。私もマスターにだけは何を言えばいいかわからなかったから、違う話題にしてくれたのはありがたかった。
「そうなんですよね~。まあいざとなったら有給使います」
「おい晃、話変えんな!」
「そうだそうだ!」
「ほんとうるせえ」
しかし目敏い里見さんとさおちゃんは話題が変わったのに気づいてしまい、マスターは今日もいじられている。普段と変わらないこの店の様子を見ていると、緊張もほぐれていくような気がした。
「マスター、いっぱいお世話になりました! ではでは」
「え~なんか卒業みたい。芽生ちゃん、帰ってきたら一番にこの店に来るんだよ!」
「いやお前の店じゃねえから」
今日も里見さんのボケとマスターのツッコミは健在だ。そのやりとりに軽く笑わせてもらうと、私はめいっぱい店の空気を吸う。
「それじゃ、また今度」
カランコロンと、いつもは出迎えてくれる呼び鈴が今日は励ましてくれているように聞こえた。

「……本当にいいの? マスター」
「いいの?」
「何が」
私が店を去った後、さおちゃんと里見さんに迫られて目線を逸らすマスターがいたことを、私は知らなかった。

いいなと思ったら応援しよう!