英国庭師修行日記(17) 藤からはじまるエトセトラ
キルクルスメルマガNo.76
<2025年5月4日配信>
5 月の中ごろから咲き始める藤。私の苗字にも使われているからか、昔からこの花が好きだった。
着物姿に藤の花のかんざしは体の動きに合わせて房状になった一つ一つの小さな花が揺れ、とても美しい。
藤棚の下をくぐるときはいつもなんだか神聖な気分になったし、夏はその下で夕涼みをす
るのも気持ちが良かった。
日本では「ふじいろ」と言うと誰もが藤の色であるこの薄紫色を思い浮かべる。
イギリス人に伝えるときは「ライラック」と言うと似たような紫色を思い浮かべてもらえる。
生活や文化に根差した言葉の表現は興味深い。
日本では棚を作って育てられる藤だが、イギリスでは家や敷地の境界である壁などを蔦のように這っているのが一般的だ。
その様子は天に向かって登っていくけれども、真っ直ぐには上れず、右へ行ったり左へ寄ったりと不器用で苦労が多い分、綺麗に咲き、そして人に優しさと優雅さを振り舞いてくれるような気がする植物だ。
英語では藤をウィステリアと呼ぶ。
ウォデスドン·マナーにいたころ、ガタガタと揺れるトラクターの荷台に座って移動しているときに、黄色い藤のような花を見つけた。
「あれはウィステリア?」と問いかけた私に、隣にいた体の大きなスーは「ラバーナムよ。毒があるから気をつけて」と教えてくれた。
「似たような紫色の花が日本にはあって、それを藤と呼ぶの。藤は私のファミリーネームなの」と話が弾んだ。
この話を聞いた小柄で優しいおばあちゃんガーデナーのジルは私を「ジャパニーズ·スモール·ウィステリア」と呼んだ。
ウエスト·ディーンの見所でもあるパーゴラ(pergola)には花が 1 メートル近くにもなる藤があった。
パーゴラはツルバラやクレマティス、藤などを這わせた全長 100 メートルの長い棚のことで、夏になると花で覆われとても美しい。
足元は、春先はクリスマスローズに始まり秋まで、次々に色とりどりの花が咲く花壇になっている。
ここは写真を撮るベストスポットで、結婚式の記念写真にもよく使われる。
また結婚式の話に戻ってしまうが、イギリスの結婚式はホテルで行うことも多いが、お城やお庭を貸し切るのも人気が高い。
キラキラ輝く太陽の下、緑の中で花々に囲まれた結婚式は本当に美しく、開放的で楽しく、イギリス人にかぎらず日本の女の子たちの憧れでもあると思う。
とは言え、雨が多く、昼と夜の気温の変化が大きいイギリスでは、庭に大きなテントを張るのが一般的。
数日間組まれていたテントが無くなった後、日が当たらず四角く黄色くなった芝生のメンテナンスに悩まされていたのを思い出す。
それでも私たちは何もできず、太陽と水分を浴び自然の力で再生するのを待つのみだ。
春の花が咲き始め、藤を含むたくさんの蕾を見て「今年は花の付きが良いから楽しみだ」と言っていた矢先、霜が下り蕾が全滅してがっかりしたことがあった。
それでも、植物は自ら再生して新しく蕾を作り美しい花々を咲かせた。
人間の力ではできないことがたくさんある。
自然にまかせ、寄り添い、その恩恵を毎日感謝しながら生活したい。
そして、自然をお手本にどんな困難も乗り越えて花を咲かせたいと思う。
(第4話 春の訪れ おわり)

連載「英国庭師修行日記」第4話 春の訪れ(アロマトピアNo.124 2014年)より一部改訂
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