AIには首がない。──痛覚と身体を持つ人間にしかできない仕事、「共感力」の話。
表題の件で、ふと気付いた事があり記事にしてみました。
私は日頃、結構肩凝りして首が痛くなるのですが、現代の親世代もそうだろうなあ、ちょっとハードすぎるなあ、ほんの少し楽しく、ほんの少し楽にならないかなあ、等と考えており。
友人達は皆、仕事でも、家庭でも、毎日忙しく、常に気を使っている状態。
保育園のお迎え時間、洗濯、掃除、今日の夕飯、寝かしつけ、明日朝一番の会議のアジェンダ、「父親であり管理職」「母親であり教師」と、一個人が複数のペルソナを持ち、タスクの数が多いのに加え、気を使う事が多くリラックス出来る瞬間が少ない。
日本だと、「いっそ夜中5分、子供が寝た後一瞬の一人時間として、自宅を出て音楽を聴き踊ってしまえ!」がしづらい。不審者として通報されかねない(笑)
満員電車を乗り切り、自宅までの帰路を自転車に乗りながら肩をぐるぐる回しながら帰っても、保育園までの道をダンスしてスキップしながら移動するお母さんがいても良いと思うんですけど、実際は最寄り駅で買った食材が腕のトレーニングになるくらい。
まず教師や親自身が自分を労る方法が何かないかなあ、と。
そんな中例えば、人工知能は「夜寝る前にストレッチしましょう」「深呼吸をしましょう」と言えます。
知識で寄り添うこと。24時間応答すること。感情を認識して適切な言葉を返すこと。最近の調査では、10代の中にはAIを「恋人にしたい」と思う子すらいるそうです。
でもAIには首がありません(笑)
「首が痛いんですね。こういうストレッチが効果的ですよ」とは言えます。
でも「分かる、私も今日首が痛いんだよね」とは言えません。
これは技術の問題ではなくて、原理の問題です。
今の10代にはAIの共感で足りるかもしれない。でも親世代には足りないかもしれない。
最近、面白いデータが共有されていました。
10代にとって、AIは感情に寄り添う「パートナー」。
40代にとって、AIは仕事を効率化する「ツール」。
同じAIなのに、「関係性」の前提が世代で傾向が違うんです。
10代はAIに「今日つらかった」と話しかけて、人工知能による感情の寄り添いが欲しい。
でも、30代〜40代の共働き世帯は傾向が違う。
例えば一人の人間が、朝は「管理職」、昼は「夕食の献立を考える父親、母親」、夜は「首が痛い一人の人間」。一人の人間が、複数のペルソナを持っている。
人工知能は朝のペルソナにはかなり対応できます。会議の議事録も、メールの下書きも、データ分析も。
でも夜の「首が痛い」に本当に共感できるのは、同じように首が痛い人間だけです。
今、台湾ではAIが購買を自動予測して接客したり、AI占いが個人向けコンテンツを作ってSNSシェアを促したりしています。日本でも、AIエージェントが一人ひとりに合わせたメッセージを届ける時代になっています。
※ただ消費者としては、まだAIの自動応答プログラムによるサポートは、人間によるカスタマーサポートのホスピタリティ、臨機応変さには勝てないなあと個人的に思う機会はまだ結構あります。
これらは全て「認知的共感の自動化」です。効率はすごく上がります。でもロイヤルティの一番深いところ──「この人は同じ経験、痛みを共有している」という感覚──には恐らく届かない。
何故なら、人工知能には首がないから。
次世代のロイヤルティプログラム(クレジットカードのポイントの使い道など)のトレンドは、「値引き」から「参加・共有・共感・社会貢献」に移行しています。ポイントを「お金で買えない体験」に使う設計。
※マルイ×へラルボニーの取り組み等。
だとしたら、最も人工知能が代替不可能な体験って何だろう?
ひとつは、「同じ身体の痛みを共感する事」「共感力」かもしれません。
「AIが持ちうる身体」とは──
AIが「身体」を持つ未来は来ます。
世界モデル(World Model)という技術があります。
AIがテキスト・画像・動画・物理データから現実世界の法則を学習して、「コップを押したら落ちる」「人間の腕はこう曲がる」「自動運転で、こうしたら事故を起こすかもしれない(確率論)」と予測する内部モデルを作る技術です。
TeslaのOptimus、GEN-0のようなロボットは、ポテトの皮むきからボルトの締め付けまで、数百万の操作タスクを実際のデータで学習しています。
でも、これは「物理法則の理解」であって、「痛みの体験」ではありません。
ロボットにセンサーをつければ、「首にこの角度で力がかかると損傷する」と検知できます。でもそれは信号処理であって、「首が痛い」という主観的な体験──哲学ではクオリア(qualia)と呼ばれるもの──ではないんです。
2021年の学術論文「In principle obstacles for empathic AI」(PMC掲載)は、AIの共感には「原理的な障壁」があると論じています。AIは感情を認識する認知的共感は可能になる。でも、感情を体験として共有する感情的共感と、本気で相手を心配する動機的共感は、原理的に持てないと。
2024年の別の論文「Considering the Role of Human Empathy in AI-Driven Therapy」(PMC掲載)はもっとはっきり言っています。AIは感情体験に参加しない。喜びも悲しみも共有しない。だから、どれほど巧みに共感的な応答を作っても、それは本質的に「不真実」(untruthful)であると。
さらに面白い研究があります。同じ文章でも、「お医者さんが書いた」と思って読むのと「AIが書いた」と知って読むのとでは、患者さんの共感評価が変わるんです。人間は、相手が「体験を持つ存在」かどうかを、無意識に感じ取っているんですね。
つまり、AIが将来持つ「身体」は、物理法則に従って世界と関わるロボットの身体です。「首が痛い」という経験を持つ身体ではありません。
以前の記事で、「AIは今は感性そのもの、心理そのものは持ちません。でも赤ちゃんが学習したら、いずれ感情すら持ち出すかもしれない?」と書きました。あの問いは今も有効です。でも少なくとも2026年時点で、世界モデルが予測するのは物理法則であって、痛覚体験ではない。ここは区別できます。
理解と体験は、別物です。
共感されるだけで、痛みが減る。
つまり、人間に残る仕事のひとつは、「共感力」こそが重要になるかもしれない。
では「共感力」とは何か? - 恐らくは、「仲間や友人の感情を考えた試行錯誤数」
あの子今日何か元気ないな、どうしたのかなと考える(興味)
→ 自分とは違う人間、他人の感情を考える
→ コミュニケーションを取る
→ 相手の感情を読み間違えコミュニケーションを間違える
→ FBを貰い勘違いに気付き、また考える
→ PDCAを回した数の積み重ね
=「察する力」「共感力の育成」
だと思います。
ここで私の体験値としては、コミュニケーションや想定は「最初は絶対に間違える」という事です。
同じ日本人ですら、価値観、文化、背景が違う。これが人種が違えばなおさらです。
身近な人間ですら、「10年後に、あれは勘違いだった」と「本人から話を聞いたから分かった」なんて良くあります。
マエの問いかけチャンネルでは、「共感力」も育成するように設計をしています。
▽ マエの問いかけチャンネル
感性育成プログラム(クラス単位ライセンス)
https://note.com/mae_toikake/m/m841a89e6955c
ここからエビデンスの話をさせてください。調べてみて、私も驚きました。
48組のカップルを対象にした研究があります(Duschek et al., 2019)。パートナーがそばにいるだけで──言葉を交わさなくても、身体に触れなくても──痛みの閾値と耐性が上がって、痛みの感覚的・感情的な評価が下がったそうです。さらに大事なのは、パートナーの共感性が高いほど、鎮痛効果も大きかったこと。
つまり、「共感的な人がそばにいる」というだけで、身体の痛みが生理的に軽くなる。
別の研究(Roberts et al., 2015)では、76名の方に冷水に手を浸ける痛み刺激を与えました。社会的サポートを受けた群は、血圧・心拍数・コルチゾール(ストレスホルモン)反応が下がって、痛みの評価も下がった。大事なのは、単に「隣に誰かいる」だけでは効果がなかったこと。「サポートしてくれている」と感じられることが鍵でした。
慢性腰痛の患者さん182名を対象にした研究(Ferreira et al., 2013)では、治療者との信頼関係の質が高いほど、痛みが減って、身体の機能が良くなった。この効果は6ヶ月後も続いていました。
まとめると、こういうことです。
「あなたの痛みがわかる」と感じられる、安心出来る、共感してくれる存在がそばにいると、人間の身体は痛みが軽減する。コルチゾールが下がり、オキシトシン(信頼のホルモン)が上がる。これは「気のせい」ではなくて、血液検査で測れる生理的な変化です。
そしてこの効果は、相手が「痛みを体験したことのある存在」であるほど大きい。
人工知能には、これができません。首がないから。
逆に言えば──24時間365日警戒している人は、24時間365日自分の身体を痛め続けている。
慢性ストレスの医学研究(Hannibal & Bishop, 2014)は、こう説明しています。ストレスに対する過剰な心理的反応──「どうしよう」と考え続けること、無力感──がストレスホルモンの分泌を増やし続けて、最終的にはホルモンが枯渇して、身体中に炎症と痛みが広がっていくと。
PTSDの研究はもっとはっきりしています。慢性的なストレスは、身体のストレス応答システム(HPA軸)を壊してしまう。特に首・肩・顎の広範な筋緊張は、身体が「ずっと警戒し続けている」状態の証拠で、無意識の防御姿勢として現れるそうです。
あなたの肩凝りは、姿勢のせいだけではないかもしれません。
バイブロアコースティック・セラピー(VAT)という研究領域があります。30〜120Hzの低い周波数の振動が、身体のセンサー(メカノレセプター)を通じて副交感神経を活性化して、筋肉の緊張をゆるめる。2018年の研究では、低周波振動を12週間続けた慢性肩・腰痛の方23名で、痛みが有意に下がりました。
MITのTsai教授のチームは、40Hzの光・音・触覚の刺激が脳のガンマ波を活性化して、アルツハイマーの患者さんの睡眠の質を改善することを報告しています。今、Phase IIIの臨床試験が進んでいます。
さらに、2022年のメタ分析(28研究、325名)では、就寝前の軽い運動は睡眠の質に悪影響がないことが示されています。2019年のメタ分析(23研究)では、夜の運動が深い睡眠を増やして、浅い睡眠を減らすことがわかっています。
これらのエビデンスから逆算して、肩凝り、首凝りを軽減するプレイリストを作成しました。
https://youtube.com/playlist?list=PLf2mjBFbO0q0ZHGJk0wsbLC0tCHwwEyVx
イヤホンからの音の身体への直接的な振動効果は、ライブハウスの爆音による物理的な振動よりは限定的ですが、2つの経路で効果が期待できます。
ひとつは、低いビートに身体が自然と同期して、肩を回したり首を傾けたりする動きが誘発されること(リズム同調)。
→軽く身体を揺らしたり、寝たまま出来るストレッチやヨガをしたり、そこまで出来なくともただ聴いているだけでも、私は頭がボーッとして肩凝りが減りました。
もうひとつは、重低音に包み込まれる感覚でリラックスして、ストレスホルモンが下がること。
メロディはアンビエント寄りのシンセで、あえて複雑にしていません。反復的で予測可能なフレーズにしました。
脳を「ぼーっと」させるためです。認知負荷を下げて、デフォルトモードネットワーク──脳が「何も考えていない」ときに活性化する回路──を促す設計です。
これはまだ十分なRCT(ランダム化比較試験)で確認されていない領域です。ピアサポートグループの研究では、自己効力感やウェルビーイングの改善は報告されていますが、痛みの強度そのものへの有意な効果はRCTでは確認されていません。
でもメカニズムは整合します。
人間に残る仕事。AIに代替できない仕事とは何か。
以前の記事で、「AIが代用出来ない、人間独自のものとは何でしょうか?」と考え、その時私が思ったのは「人間性」。「みんなが好きになっちゃう人」。
今回、もうひとつ見つけました。
身体を持ち、痛みを経験し、その経験に基づいて他者の痛みに共鳴すること。
「分かるよ、私も肩が凝ってる、辛いよね」──この一言が、相手のストレスホルモンを下げて、痛みの閾値を上げる。これはRCTで確認された生理的な効果であって、AIには原理的にできないことです。
人間に残る仕事は、もしかしたら「共感力」もキーワードになるかもしれません。
▽ マエの問いかけチャンネル
感性育成プログラム(クラス単位ライセンス)
このワークシートを使用したワークショップにより、
「心理的安全性が担保された空間、感想を言い合えるコミュニティ」「子供達の共感力を育てる、信頼出来る仲間のコミュニティ」を作れるといいなと思っています。
お問い合わせ → maemae.stories@gmail.com
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