師走に想う4

「ぐえ」
左の睾丸に数回激痛が走り
条件反射的に前屈みになりました
即座に首を極められ身動き出来なくなったかと思ったら
口と鼻に何回も激痛が走りました
前歯はグラグラになり
滝の様な鼻血で白い空手道着の前が全面真っ赤に染まりました
転がされると間髪入れず勢いを付けて腹を踏み付けに来る師が見えました

「先輩ここだけ何で床に板が貼ってあるんですか?」
前から
(危ないなあ)
と思っていたのです
「俺の前に師範と組み手した奴が踏みつけられてゲロ吐いちゃってさ
俺はそれ見てたから必死に避けたんだよ
そしたら師範が足の形に床を踏み抜いちゃって」

聞いてなかったら踏み付けられて
私もゲロを吐く羽目になっていたことでしょう
恥も外聞もなく必死でゴロゴロ転がって何とか避けました
後にも先にも
(56される)
リアルに4を感じたのはこの時だけです

(何も通用しない)

(何も出来ない)

(何もしたくない)

(……)

(でも)

(戦って生き残らなければ)

私は中学時代に1年間ほど毎日暴力による
”””いじめ”””
に遭っていました
長い長い間私を縛り付けていた
”””真っ黒な恐怖”””
を時間を掛けて克服して
反撃に出る事で
自由を勝ち取りました

私は学習性無力感からのサバイバーなのです

私はなけなしの勇気を振り絞り
今や山の様に大きく見える師に
反撃のローキックをスピーディーに繰り出しました
どれほど微力であっても
出来ることをするしかないのです
師が少し嬉しそうに驚いています
「やめ」

後で聞いた話では
金的を潰されてから反撃に出た弟子は
後にも先にも私だけだった様です



………………………………………………………………….



10分ほど遡ります

いつも気さくな師範が言いました
「ちょっと残って次の稽古にも出てもらえるかな?
次の時間の稽古生いつも一人きりで可哀想だから」
「押忍!大丈夫です」
にこやかに答えました
「今日は俺も稽古しちゃおっかな」
師範がジャージを脱いで道着に着替え始めました
「お先に失礼します」
「お先に失礼します」
「お先に失礼します」
「お疲れ様です」
いつも溌剌とした快活な強い先輩方が
みんな真っ青な顔をしてうつむき加減でお通夜の様に帰ります
みんな私と目を合わせません
みんな師範と目を合わせません
この時
嫌な予感
がしたのは正しかった訳ですね

「目ん玉突いてもキンタ*蹴っても何やってもいいから
56すつもりで思いっきり全力でかかって来てください
私の方からは攻撃しないから安心して攻撃するように
世界最高峰の組手だから
よく目に焼き付けておくと良いよ
では
始め!」

始めって
そんな事言われても
師の目ん玉を突ける胆力など私にはありません
 得意のローキックを何発か出しました
師は簡単にスネで受けました
ミドルを出しました
天井が見えました
(!?!?
円受けでひっくり返されたんだ)
慌てて自ら勢いを加えて転がって
遠くに逃げ
すぐ立ち上がり構えると
師が少し意外そうな顔で
でもどうやら感心してくれている様です
私は自慢ではありませんが
中学時代のイジメで毎日毎日廊下で転がされていたので
危機管理能力だけはあったのです
(ミドルはやばい
ハイも尚更ダメだろう
素早いローで行くしかない!)
天井が見えました
何をされたかさっぱり分かりませんが
兎にも角にも転がって遠くへ逃げ
すぐ立ち上がり構えます
師 と向き合いましたが
(何をしたら良い?)
思いつきません
というか
(何もしない方が安全)
私の無意識がそう判断したのかも
少なくとも
師は
いつまでも動かない私を観て
私が楽を選んだ
と感じ取った様です
次の瞬間




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