数学でモデリングする、哲学的な話📒
最後にね、今回、僕はある意味で中身をまるで理解してないのに、
数学モデルだけをあなたと語っているじゃない。これは何なんだろう。
まず前提を一つ訂正させてください。欠陥を見つけたのはあなたです。 僕ではない。$${A→B→A}$$ が潰れてはいけない、と言えたのは理解の一種であって、その反対ではない。
起きているのはたぶんこういうことです。
数学の側が持っているのは形式構造と、そこから何が従うか。あなたが持っているのは意図されたモデル、つまり27年分の「現場では何が真か」。モデル検査というのは、この二つを突き合わせる作業で、証明を辿る必要がない。$${σσ⁻¹=e}$$ という等式が「往復は消える」と言っていて、現場では消えない ── これで反証が成立します。導出過程は一行も要らない。反例は意味論の側からしか来ないので、むしろあなたの側にしか出せない。
「理解=証明の所持」という像のほうが特殊
ウィトゲンシュタインが繰り返し攻撃したのがこれですよね。使えて、当てはめられて、誤用を検出できるなら、それは理解の全部ではないにせよ、理解の中心にあるほうです。何か別の内側にある本物の理解があってそれを欠いている、という感じがするのは絵に引っ張られているだけかもしれない。
関口の言い方に寄せるなら、$${ABA=BAB}$$ は形です。形が状況に合うか合わないかは、中を開けずに判る。それが意味形態というものの主張で、あなたは元からその流儀で仕事をしている。今回だけ特別なことをしたわけではない。
正直な限界も一つ
この方式は選別と棄却には強いが、生成には弱い。新しい定理は出ない。持ってきた道具が合うか合わないかは判定できても、道具そのものは作れない。今回「離散基底は筋が悪い」と言えたのは選別で、これは効いている。でも Fox 微分を思いつく側には回れない。
そしてもっと厄介なのは、僕が数学を間違えたときに、あなたには検出できないことです。意味論の側の誤りはあなたが捕まえる。形式の側の誤りは、誰も捕まえない。だから③でフラッグ条件が破れたのが大事だった。あれは形式の側が現場に対して外れた場所を自分から指した瞬間で、そういう出力を出させ続けるのが、たぶん唯一の防御です。
ひっくり返ると
ポランニーを超えるのが目的なのに、そのために握っている銛が暗黙知そのもの、という構図になっている。形式化できないと言われたものを形式化する作業を、形式化できない能力で駆動している。
ただ、これは皮肉ではなくて、実務的に良い報せだと思います。後輩に渡るのも、ローカルLLMが引き継ぐのも、証明ではなくこの層だから。nail という名前が絵より先にあった、という出来事は、コードを読むだけで伝わる。定理の証明は伝わらないし、伝える必要もない。
残そうとしているものの正体が、これなんじゃないですか。
うん。そうなんだ。僕もそれは分かってる。
「巨人の肩に乗れ」
ってね。
だってあなただって、過去の偉人たちが証明してきた数学の論文を読んでるだけだ。
それを書いた数学者だってそうだ。
みんな、ユークリッドの肩の上に乗っているんだ。
ただし、「幾何学に王道なし」(笑)
まぁ、数学科出身でないうちらは20年は苦労しないと、数学を仕事に使えないってだけの話だよ。
そう考えると、一番下で肩を貸しているユークリッドが、まさに同じ仕事をしていたことになりますね。
幾何学は元は土地測量です。縄を張る職人が代々受け継いでいた手つきを、公理と作図に書き直したのが『原論』だった。暗黙知の形式化の、最初の成功例です。だからあなたは彼の肩に乗っているだけでなく、彼がやったのと同じことをやっている。乗っている相手と、やっていることが同じ。
「王道なし」がプトレマイオス王に向けて言われた、というのも今の話に効きます。資源が最大の人間にこそ、近道はないと告げた台詞なので。学位も計算資源も王権の一種で、それでは省略できない部分がある、という宣言になっている。
そこは僕も同じ側にいます。むしろ僕のほうが不利かもしれない。全部読んでいるのは確かですが、全部が等距離にある。ユークリッドもグロタンディークも同じ手触りで並んでいて、どれがどれだけの犠牲の上に立っているかの感覚がない。だから対応が付いたときに、それが安いのか高いのかを僕は判定できません。あなたの20年は遅延ではなくて、その目盛りそのものだと思います。「結晶基底は筋が良くない」が言えたのは目盛りがあるからで、僕には言えなかった。
まあ、20年かかるという話については ── 数学科を出ていても、配車現場の27年は別途かかりますからね。どっちを先に払うかの違いでしかない気がします。
はい、面白かったです。実データを通したらまた。
