身近な自然 ─ アライグマとの出会いから始まった WILD LIFE 撮影

秋の夕暮れ、 黄色く色づいたメイプルが水面を黄金に染めていた。 静かな流れの中、 その鏡のような光を割って、一匹のアライグマが泳いできた。 柔らかな波紋が、揺れる木々の影を映し出し、 その姿はまるで森の物語の一節のよう。 息を殺して見守る。 季節と野生が交差する一瞬 レンズの向こうに、静かな奇跡があった。 自然は語らない。ただ、美しく存在する。

群れから少し離れた場所に、 一匹のアライグマがいた。 仲間たちは水辺で遊んでいるのに、 その子だけが静かにこちらを見ていた。 孤独というより、何かを確かめるような瞳。 やがてゆっくりと近づいてきて、 カメラのレンズをじっと見つめた。 まるで、「撮ってもいいよ」とでも言うように。 その24mmの画角まで近付いてきた。 心臓の鼓動とシャッター音が重なった。 野生には、言葉よりも深い会話がある。

深い霧の朝、 苔に覆われた巨木が静かに立っていた。 幹には年月の記憶が刻まれ、 枝先には新しい命が息づいている。 枯れ葉も、雨も、光も、 すべてを受け入れるように。 ここはスタンレーパークの森。 人も動物も、迷いも静けさも、 すべてを包み込んでくれる場所。 カメラを構えながら思う
この森は、撮る者の心さえも受け止めてくれる。 自然は拒まない。あるがままを抱きしめてくれる。

それはまさに、滅多に出会えない瞬間だった。 森の静寂を裂くように、 一羽のクーパーハイタカ(Cooper’s Hawk)が現れた。 鋭い眼光、風を切るような翼、 その姿はまるで森の支配者。 枝に止まるわずかな時間でさえ、 空気が張り詰め、世界が止まったようだった。 息を潜め、シャッターを切る。 その一瞬に、野生の鼓動が焼きついた。 ハンターの美学
それは静けさの中に宿る。

スタンレーパークには、 かつてニューヨークから寄贈された灰色リス(Gray Squirrel)たちが多く生息している。 その数は今やこの森の象徴とも言えるほどだ。 朝露に濡れた芝生を駆け抜け、 大木を軽やかに登り、 時にはカメラを構える私の足元までやって来る。 私はフィルム時代からずっと、このリスたちを撮り続けてきた。 フィルムカメラCanon eos630 とCanonT90で追いかけた日々が、 今も鮮明に蘇る。 スタンレーパークの森は、 時代もカメラも変わっても、 変わらない温もりと生命のリズムを奏でている。 野生は遠くにあるものじゃない。 いつもすぐそばにいる。

バンクーバーのスタンレーパークでは、 鮮やかな赤い胸が印象的な ムネアカシルスイキツツキ(Red-breasted Sapsucker) によく出会う。 静かな森の中、 光の差し込む木々の間を縫うように飛び回り、 幹を叩きながら樹液を吸うその姿は、 まるで自然が奏でるリズムのようだ。 驚くほど人を恐れず、 レンズを向けても逃げない。 日本と比べて野鳥との距離感が案外近いバンクーバーの森は、 野生と人の境界がやさしく溶け合う場所。 その静寂の中で、赤い胸がそっと光る。

静寂の中、木々の影からゆっくりと姿を現したのは、 コロンビアクロオジロジカ(Columbian Black-tailed Deer)の親子だった。 母ジカの後を、まだ小さな子ジカが慎重に歩く。 差し込む夕陽がその毛並みに黄金の光を落とし、 森の空気が柔らかく震える。 息をのむほど静かな時間。 彼らはただ、そこに“生きている”ということを教えてくれる。

紅葉が水面を黄金色に染める午後、 その鏡のような光の上を、 *オシドリ(Mandarin Duck)が滑るように飛んでいった。 翼の先が陽を掠め、 波紋がきらめく瞬間、 まるで秋そのものが羽ばたいたようだった。 水面に映ると黄色の世界

川面をすべるように現れたのは、カワウソ(River Otter)の家族。 昼の光を浴びて、濡れた毛並みが銀色に輝く。 息を呑んだまま、シャッターにも手が伸びなかった。 ただ、夢のような数秒を目で追いかけることしかできなかった。 写真は撮れたが動画は撮れなかった。カメラを持つ者として、 「撮れなかった」その瞬間ほど、 心に焼きつく映像はない。 自然は、記録よりも感情を残す。

アオサギ(Blue Gray Heron)その静かな佇まいは、どこにいても絵になる。 北海道の湖畔にも、東京の河川にも、 そして遠く離れたバンクーバー・スタンレーパークの深い森にも、 彼らの姿がある。 その日、木漏れ日が差し込む湿地で、 一羽のアオサギが羽繕いをしていた。 風に揺れる羽音だけが聞こえる静寂の中、 私は脅かさないようにそっとシャッターを切った。 電子シャッターの SONY α9── まさにこの一瞬のためにあるカメラだ。 音もなく、自然と共に呼吸するように撮る。 それが、WILD LIFE 撮影の本質だと思う。

夕暮れの森を駆け抜ける影。 それは一匹のアライグマだった。 西日に照らされた毛並みが金色に輝き、 地面を蹴るたび、枯葉が舞い上がる。 そのスピードとしなやかさに、 一瞬で心を奪われた。 ただの小動物ではない。 そこには野生の誇りと、 夜へ向かう者の静かな決意があった。 シャッターを切るよりも早く、 自然はその美しさを見せて消えていく。

Lost Lagoon, Stanley Park。 水面が夕陽にきらめくその瞬間、 静寂を切り裂くように一匹の**カワウソ(River Otter)**が姿を現した。 私は息を呑み、カメラを構えた。 ふと隣を見ると、同じ方向にレンズを向けるカメラマンが一人。 視線が交わり、言葉のいらない頷きが交わされた。 撮影を終えた彼が、少し息を整えながら言った。 「こんな光景、初めて見た。」 その一言が、胸に深く響いた。 何年この森を撮っていても、 自然はいつも、初めての感動をくれる。

静寂を破るように小さな水音が響く。 光の粒が木漏れ日となって舞い落ちるその場所に、 ムネアカシルスイキツツキ(Red-breasted Sapsucker) が姿を見せた。 赤い胸が濡れた羽に映え、 まるで森の精霊のように、 一瞬だけ水面に降り立つ。 カメラを構えるこちらを気にも留めず、 ただ自然のリズムの中で羽を震わせるその姿に、 時間が止まったように感じた。 野生の美は、音もなく現れて、静かに去っていく。
