イカ焼き狂助 ルーツ
イカ焼き狂助は、山形と福島の県境で生まれた。
家の裏の沢は山形、表の畑は福島。
子どもの頃、どっちの方言で泣いていたかは、本人も覚えていない。
小学四年まで山形で育ち、芋煮の鍋を囲んで秋を覚えた。
里芋が煮崩れるころ、話は必ず長くなる。
「もう一杯だけ」が三杯になるのが、山形の流儀だった。
高校に入って福島へ移ると、今度は冬が少し鋭くなった。
弁当箱を開けると、いか人参。
細く刻んだ人参とイカが、醤油の海で仲良くしている。
境界線など、最初からなかった顔をして。
大人になった狂助は、屋台でたこ焼きを焼く。
芋煮の話をすれば山形の客が笑い、
いか人参を出せば福島の客が黙って頷く。
「どっちの人間だ?」と聞かれると、
狂助はひっくり返したイカを見ながら言う。
「焼いてみれば、同じ匂いですよ」
煙は県境を越え、
今日も故郷は、少し甘辛い。
