劇団群青
劇団群青の事務所に、一枚の履歴書が届いた。
開けた瞬間、空気が少しだけ湿度を持った。
職業欄:「悪女」
趣味:「夜」
事務の青年は、三度見したあと、そっと主宰に回した。
主宰はしばらく黙ってから言った。
「……役者志望か」
「いや、普通は会社員とか書くはずです」
「普通のやつは、うちに来ない」
そのまま面接に呼ぶことになった。
当日。
面接室のドアが開いた瞬間、照明が少しだけ暗く感じられた。
現れた本人は、特に派手でもなく、静かだった。
ただ一つだけ、履歴書と同じ匂いがした。
主宰は質問した。
「職業が悪女とは?」
彼女は少し考えて言った。
「夜になると、そう呼ばれることがあるので」
沈黙。
隣のスタッフが咳をした。
主宰は続けた。
「趣味の夜とは」
「昼より正直なので」
さらに沈黙。
採用会議は5分で終わった。
満場一致で「保留」。
その夜、主宰はこう言った。
「こういうのは、たいてい“本物”じゃない」
「だが稀に、“舞台そのもの”が来る」

翌朝、もう一度履歴書を見たら、そこに追記があった。
——「※悪女は時間帯により営業形態が変わります」
主宰はペンを置いて言った。
「内定だな」
