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【ちいかわ考察】島編は三幕構成である

【警告:本ブログにはX(旧Twitter)にて掲載されたちいかわ島編(2023年3月14日〜2023年11月26日)、及び漫画本第8巻、及び「映画ちいかわ 人魚の島のひみつ」のネタバレが含まれます。
ご精読には十分ご注意ください。
なお、本ブログにて行う考察は筆者個人の考えであり、内容の正しさを必ずしも保証するものではありません。
十分ご留意ください。】


〜はじめに①:三幕構成とは何か〜

三幕構成とは、映画や小説、アニメ、演劇などの媒体を問わず、物語を構成する脚本についての考え方を言います。
物語は3つの幕に分けられ、それぞれの幕は設定、対立、解決の役割を持つとされます。
設定とは、わかりやすく言うと物語開始時点での世界観やキャラクター、問題の紹介。
対立とは、わかりやすく言うと最もメインとして取り扱われる内容。ここは物語の内容によって異なりますが、主人公の戦いや変化が描かれるケースが主です。
解決とは、わかりやすく言うと結末、終わり方であり、同時に主人公が本当に変化したのかを試す最後のテストが行われ、最も危険度が高まる瞬間でもあります。
この三幕構成は、アメリカの脚本家であるシド・フィールド氏によって現代映画の理論として体系化され、以降あらゆる物語に応用、検証されています。
具体例を紹介します。
ショーシャンクの空に、バック・トゥ・ザ・フューチャー、君の名は。など邦画洋画問わず幾多の名作映画に三幕構成が使われており、なぜこれらの映画が今なお多くの人を惹きつけるのかを解析するとなったときに、三幕構成がどのように使われているか分析されることも多いです。
もちろん、三幕構成が使われているから必ず面白いというわけでも、三幕構成があるから面白いんだ、ということでもないということは明記しておきます。
しかしそれであっても、多様性が謳われる現代においても、三幕構成を知ることは基本を知ることとされており、活用するにせよ崩すにせよ、学んでおくことが推奨されることに変わりありません。
言うまでもなく、観客である我々が知る必要はありませんが、今回は【映画ちいかわ 人魚の島のひみつ】の公開を記念して、原作であるX(旧Twitter)にて掲載された漫画作品のページから、三幕構成が使われてるということを証明してみたいと思います。

〜はじめに②:検証について〜

第一に、今回の検証で参照させていただく三幕構成はK.M.ワイランド氏のものを採用させていただきます。シド氏が考察したそれと比較して、ピンチポイントと呼ばれる、次の転換をもたらすための危機について考察していることが特徴です。
第二に、今回の検証では、X(旧Twitter)のちいかわ公式アカウント(@ngnchiikawa)にて投稿された漫画のうち、2023年3月14日から2023年11月26日に更新された内容までを「島編」とし、上げられた画像1枚を1ページとカウントします。
その結果、島編は合計で130ページ存在するのですが、そのうち、例えば50%は130×0.5で65ページ目、25%は130×0.25で32.5ページだと判断し、今回の考察に活かさせていただきます。
最後に、非常に重要な事実なのですが、三幕構成とは「%が合っているから絶対正しい」というものではありません。
構成がストーリーを決めるのではなく、ストーリーが構成を決めるのであり、%に当てはまらないながらも三幕構成的な展開を持ち、名作とされた作品はたくさんあります。
ですので、今後の考察での%の見方というのは過信するものではなく、あくまで一つの目安や考え方として読んでいただければ幸いです。

〜検証:第1幕〜

第1幕には、どのような登場人物がどのような状況で生きているか、課題や欠落とは何か、この物語のジャンルとは何なのかを観客へと伝える助け舟を出す役割があります。

・1% ▶ フック 

フックとは、物語が始まったタイミングで観客や読者の興味を引く、続きが気になる!と思わせる役割を持ちます。
島編における、フック、それは……
130×0.01=1.3ページ。

四捨五入して1ページとし、実際に読んでみると、1ページの内容はちいかわとハチワレが脱力し休憩している内容です。では、次のページはどうでしょう。

2ページ目となると、顔面にチラシを乗せたうさぎが現れ、「島でのカンタンな討伐で100倍の報酬をもらおう」 という内容が読まれます。このチラシをきっかけに、ちいかわたちが島へと赴く直接の理由のうち1つになるとともに、読者にとっても「そんな話信用して大丈夫か?」「騙されてるんじゃないのか?」といった内容で読者の目を今後へと向ける、まさしくフック(引っ掛ける)の役割を果たしていると言えます。

・12% ▶ きっかけの出来事

ここでの役割は、それまで描かれていた主人公の日常を壊し、主人公がこの物語で何を解決しなければならないのか、という大目標を明らかにすることです。
島編では……130×0.12=15.6ページ。  
四捨五入して16ページと考えます。

その内容は、モモンガが暴れたことでセイレーンの棲まう洞窟の『立入禁止』看板が倒れてしまう回です。後にちいかわたちがその看板に気づかず洞窟へ入ってしまう(=セイレーンと遭遇する)直接の引き金を作る出来事となっています。
これ自体が大目標、というわけではもちろんありませんが、これによってちいかわたちはセイレーン相手にどう立ち回るか、という目的が求められ、また島編全体を通しても、それまでの賑やかで楽しげなリゾート気分から、「立入禁止」という不穏な言葉によって一気に雲行きが怪しくなる、という意味ではまさに「きっかけの出来事」と言えます。

〜検証:第2幕〜

第2幕は、第1幕によって主人公が放り込まれた非日常(島編の場合はセイレーンとの遭遇)シチュエーションがより激化し、より対立や葛藤が明確となる、主人公を変化させ成長させる役割があります。

・25% ▶ 第1プロットポイント

第1プロットポイントの役割は、主人公をこれまでの日常から完全に切り離し、もう後戻りできない非日常へと突入させることにあります。
島編では……130×0.25=32.5ぺージ。
四捨五入して33ページと考えます。

その内容は、セイレーンが島へと上陸し、島民たちに対して直接攻撃を加えている場面をちいかわ一行が目撃するというものです。これまではセイレーンや島民たちの口から語れるのみだった泥沼の対立、それが現実のものであることを突きつけられたちいかわ達は、逃げ出した他の旅行者たちと違い傍観者でいられなくなるという決定打を突きつけられることとなります。

・37% ▶ 第1ピンチポイント

第1ピンチポイントの役割は、敵対勢力(ヴィラン、アンタゴニスト)の圧倒的な強さを直接見せつけ、物語の緊迫感とリスクを一気に跳ね上げることにあります。
島編では……130×0.37=48.1ページ。

四捨五入して48ページと考えた場合、その内容はセイレーンが捕えたラッコに対し、人魚を食べたものを見つけ次第、オリに入れて永遠のいのちを味わってもらうと語り、かつ人魚の報告により、ちいかわ達が探して追いかけてきていることを知り、見に行こうと外に出る、というものです。
このページにおいてセイレーンという存在が如何に恐ろしい考えを持っているかが描かれ、そんなセイレーンが再びちいかわ達の前に姿を現す、その前段階が描かれています。

参考までに、続く49ページでは、逆探知したセイレーンが一行を発見し、いよいよ一触即発という緊迫した場面が描かれることからも、ピンチポイントとして機能していることは明らかでしょう。

・50% ▶ ミッドポイント

ミッドポイント、物語のちょうど折り返し地点に求められる役割とは、もちろん物語によって異なりますが、共通して言えることは「劇的な変化をもたらす」ことです。それにより、物語が更に佳境へと移行し、ミッドポイント以前/ミッドポイント以後と明確に区切りをつけられるほどにまで方針や内容が変わることも珍しくはありません。
同時に、一般的な解釈として、主人公が「受動的(リアクション)」から「能動的(アクション)」の姿勢へと変化することを求めるものもあります。
島編では……130×0.5=65ページ。


65ページの内容は、ちいかわが攻撃として投げたのど飴がかえってセイレーンを強化してしまい、仲間が全員捕らえられるというものです。


続く66ページでは、太刀打ちできないちいかわは、目の前でセイレーンによって仲間たちが攫われていく光景をただ見届けることしかできず、唖然とした表情で放心状態となる様子が描かれています。
これを契機にちいかわは1人で能動的に行動することを求められます。その結果、島二郎と遭遇し、物語はいよいよちいかわ達の反撃という方向性へと舵を切ることからも、まさしくここは完璧なミッドポイントと呼べるでしょう。

・62% ▶ 第2ピンチポイント

第2ピンチポイントの役割は、ミッドポイントを契機として始まった主人公たちによる進撃を、敵対勢力の本気の総攻撃により力づくで止めることにあります。
島編では……130×0.62=80.6ページ。


四捨五入して81ページを読むと、ちいかわが島二郎と協力して仲間たちの救出に成功したものの、セイレーンが目覚めたため島二郎がひとりで殿を務めたシーンであることがわかります。
島二郎はちいかわ一行と比較しても、海に波を引き起こす超人的な力を持っていますから、物理的な戦闘能力としては味方陣営の中で最強クラス。よって、ここでセイレーンと島二郎が激突し、後にセイレーンが再び島に上陸して最終決戦が始まるというプロセスも含めて、まさしく第2ピンチポイントとして機能しているわけです。

〜検証:第3幕〜

第3幕の最大の役割は、解決、つまり提示されたすべての問題や謎に決着をつけ、圧倒的なカタルシスを与えることを求められる、物語の総仕上げパートです。

・75% ▶ 第2プロットポイント

三幕構成における75%とは、2つの側面を持つとされています。1つは最大のピンチ。もう1つは、最大のピンチの直後に訪れる解決の糸口の発見。
つまり、底という底に叩き落とされた主人公が、同時に最後の挑戦を始め、最大の障壁へと立ち向かい始めるその瞬間という役割を求められるのです。
では、島編ではどうでしょうか。
130×0.75=97.5ぺージ。

四捨五入して98ページを読むと、そこにはちいかわ達の奮闘によってセイレーンのメインウェポンであるツタや人魚が弱体化し、切り札となるキャロライナリーパー入りカレーを食べさせるために突撃を開始するその瞬間が描かれています。
一見すると最大のピンチにはまるで見えませんが、同時にこのシーンはこの激辛カレーを外したら勝ち筋がなくなるという、文字通り最後のチャンスであることも読み取れます。
そのため、このカレーを食べさせるためにモモンガはびんよよを投げ、古本屋とラッコはツタを切り、島二郎が打ち上げ、うさぎがモモンガのしっぽで口を開けさせ、ハチワレは「なんとかなれーーーッ!!!」と叫び、ちいかわは共に突撃するという総力戦が、またそれに対して必死に抵抗するセイレーンの様子が、数ページに渡って描かれ、結果ちいかわ達はひとまず勝利を収めることに成功するのです。

・88% ▶ クライマックス

クライマックスの役割は多岐に渡ります。
主人公とラスボスの直接対決。
キャラクターアーク(主人公の成長)の最終テスト。
提示された大目標への最終回答 
観客のカタルシスの最大化、などです。

しかしお気づきの通り、既にセイレーンとの戦闘は収束しています。では、実際にここで描かれる島編のエピソードとはなんなのでしょうか。
130×0.88=114.4ぺージ。

四捨五入して114ページを読むと、そこには一葉の所業に戦慄し、身震いし、勢いよく人魚の煮漬けを一葉に食べさせる双葉の姿があります。
つまり、この島編の物語、その因縁が始まった瞬間なのです。
ここから読み解けること、それはこの物語の「大目標」「主人公への最大の試練」とはなんなのか。
改めて考えてみると、また違った景色が見えてきませんか?
詳しくは、おわりに、で考察させていただきます。

・100% ▶ 結末

結末の役割とは、クライマックスが去った後の新しい日常を提示し、読者に物語の深い余韻を残すことにあります。
それでは、この物語の結末とはなんだったのでしょうか。

130×1.00=130ページ。

ここで描かれている出来事の全貌や結末の正解を、明確に断定することは私にはできません。
セイレーンは一葉と双葉を発見したのか、そしてこれからどうするつもりなのか。
それすら、知る由はありません。


この直前には、ちいかわたちが島を後にし、本土という日常へと帰還する描写が描かれています。この結末を、いわゆるハッピーエンドと捉えるか、はたまたバッドエンドと捉えるか。それは観客次第であると言えるでしょう。

〜おわりに:島編のテーマとちいかわの成長〜

それでは、結局のところ、この島編とはどのようなテーマがあり、どのようにちいかわが成長したのか。
これから先は、あくまで私個人の考察として聞いていただければ幸いです。

なんかちいさくてかわいいやつ。それはかつて、原作者ナガノ氏が「こういう風になって暮らしたい、なんかちいさくてかわいいやつ」という自らの欲望を発散するためにスケッチされたキャラクターです。
その内容は、我々が人間である限り、決して否定しようのないものです。
しかし、ここまで読み進め、付き合い続けてきた我々は、ちいかわという主人公がそれだけではないということも、同時に知っています。

この場面で、ちいかわに一葉と双葉を断罪させることは決して不可能ではなかったはずです。
それでもちいかわは震えを見た。
そこにいるのが、自分たちと同じように、日々を懸命に生き続けている人であること。
例えそれが、結果的に多くの島民に危機をもたらし、セイレーンに喪失をもたらした、裁かれるべき罪人であったとしても……
自分にはそうする資格などあるのか。
自分にはそれができるのか。
セイレーンが「わかった」と言った。
ならば、なぜここで、ただ震え、怯える自分と同じ人を糾弾することができるのでしょうか。
セイレーンは人魚を失った。
怒りに駆られ、悲劇を起こした。
そして、また自分が同じことを繰り返すのでしょうか。
罪人だと、人魚を食べたと。
そう告発して、また疑惑と、悲しみと、絶望とをここで繰り返すのでしょうか。


ちいかわの答えは「ンーン…」でした。
「今日の日はさようなら」と言い、「また会う日まで」と祈り続けること。
その選択をしたちいかわが、私は大好きです。
その選択を見せてくれたこの作品が、私は大好きなのです。

以上です。
長きに渡りご精読いただき、ありがとうございました。

〜補足:引用・出典〜

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【引用元・参照元】
作品タイトル: 『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』
著者: ナガノ 氏
公式X(旧Twitter)アカウント: @ngnchiikawa


​公式単行本: 『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』第8巻(講談社)
関連作品: 『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』