食品減税をめぐって――問われているのは「1%か0%か」ではない
うちのチャッティーさんと話し合い、こんな風にまとめてみました。
高市政権が打ち出した食料品の消費税減税は、物価高に苦しむ家計を支えるという目的自体は理解できる。食料品は誰もが購入するため、減税による効果が分かりやすく、緊急対策として一定の意味もある。
しかし、今回の政策を「減税だから良い」「財政規律を損なうから悪い」という二択で評価するのは適切ではないと思う。
問題は、食料品の税率を0%にするのか1%にするのかではない。
本来、物価高対策として中低所得者の生活を支えることが目的なら、一律減税よりも、対象を絞った給付や給付付き税額控除のほうが効率的である可能性が高い。今回の「1%減税+1%給付」という仕組みは、公約で掲げた「食料品ゼロ」と実務上の制約を両立させるための、いわば政治的な折衷案にも見える。
また、消費税は社会保障を支える重要な財源である。少子高齢化が進む日本において、その財源をどう確保するかという問題を避けることはできない。
ただし、「社会保障費が増えるから消費税を上げるべきだ」というだけでも十分ではない。社会保障の給付と負担を、年齢だけでなく所得や資産、現役世代と高齢世代のバランスまで含めて再設計する必要がある。
その意味では、食品減税そのものよりも、その先に高市政権が掲げる「給付付き税額控除」がどのような制度として設計されるのかのほうが重要だろう。
そして、今回の政策について私が最も懸念するのは、実は「1%か0%か」ではない。
「2029年4月1日に、誰が首相であっても困らないような出口戦略が、今の時点で存在しているのか」
ということである。
現在の政権が「2年間だけ」と約束しても、2年後に同じ政権が続いているとは限らない。
むしろ、次の政権が食品の消費税を1%から8%へ戻すことになれば、それは国民から見れば「7ポイントの増税」と受け止められる。物価高が続いていれば、なおさら政治的な抵抗は強いだろう。
その結果、次の政権が「もう少し延長する」と判断すれば、当初は時限措置だった減税が恒久化する可能性もある。そうなれば、現在の政権が負うはずだった財政上の負担を、将来の政権と将来の世代へ先送りすることになる。
だからこそ、本当に必要なのは「2年後に元に戻します」という政治家の約束ではない。
政権が交代しても機能する制度として、2年後の出口を今の時点で設計しておくことである。
食品減税を実施するのであれば、その間に給付付き税額控除を制度化し、食品減税が終了しても中低所得者の可処分所得が急激に落ち込まない仕組みを整えておく必要がある。そして、その制度については、できれば政権の枠を超えた合意を形成しておくべきだろう。
ここで、もう一つ忘れてはならないことがある。
現在の政権が、2年後も続いているとは限らないということである。
高市政権に政策を立案するブレインがいて、一定の時間軸をもって制度設計を考えていること自体は、当然想定してよいだろう。実際、食品減税を単独の政策としてではなく、その先の給付付き税額控除への「つなぎ」と位置づけていることからも、何らかの中長期的な構想があることはうかがえる。
しかし、その構想を考える際に、過去の長期政権の感覚をそのまま当てはめるなら、それは危うい。
安倍晋三元首相の政権は長期にわたって続いた。その経験から、政権が数年先まで政策を継続し、段階的に制度を完成させていくことを当然の前提として考えてしまうとすれば、それは現在の政治環境に対する認識として甘いと言わざるを得ない。
前回の選挙で大勝したからといって、次の選挙でも同じ結果になる保証はない。それ以前に、選挙を待つまでもなく、党内事情、連立関係、政治情勢、あるいは予期せぬ出来事によって、政権の枠組みそのものが変わる可能性もある。
だから政策は、「自分たちが政権を維持できる」という前提ではなく、「明日、自分たちが政権を失っても制度として成立する」という前提で設計されるべきなのだと思う。
「2年後には私が責任をもって元に戻す」という政治家の意思よりも重要なのは、「2年後に誰が政権を担っていても、無理なく出口へ移行できる制度を今から作っておく」ことである。
民主政治では、政権は変わる。
しかし、税制や社会保障制度は、政権交代よりはるかに長い時間を国民の生活に影響し続ける。
だから政策を評価するときに問うべきなのは、
「今の政権にとって都合のよい政策なのか」ではなく、
「政権が変わっても破綻しない制度なのか」
ということではないだろうか。
今回の食品減税について本当に問われているのは、1%か0%かではない。
2029年4月1日に、誰が首相であっても困らないような出口戦略が、今の時点で存在しているのか。
そこにこそ、この政策が「責任ある時限的な物価高対策」なのか、それとも「将来の政権と世代への先送り」なのかを分ける、本当の分岐点があると思う。
https://jp.reuters.com/world/japan/GKYJBWW2SVKJ7DAYLHFE7DOX4Q-2026-07-30/
