軽率に単焦点レンズの魅力を語る
何で好きなのかと言われても困るのですが、単焦点レンズが好きです。
単焦点レンズとは、焦点距離が固定されていて、ズーム機能を持たないレンズのことです。
分かり易く説明すると、レンズの力を使って手元で被写体に接近するのではなく、自分が被写体に近づかないとダメなレンズ、とでも言いましょうか?
明るさと画質がキープされている意味でも、特にポートレイトで単焦点レンズを多用してきましたが、カメラに興味がない人に渡すと、だいたい「これどうやってズームするの?」って訊かれました。
「これどうやってズームするの?」って言葉を聞いたのは一度や二度ではないので、そこまで詳しくない人にとっては、ズームレンズがカメラとして、普通の人が考える、当たり前の機能なのかもしれません。
ぼくはズームレンズアンチという訳ではなく、ズームにはズームの良さがあることを理解しています。
実際仕事で撮る時は、屋外でのポートレイトが多かったので、一台には50mm単焦点を付けていましたが、他のカメラにはズームの24-105mmと70-300mmを付けるのが基本装備でした。
そんな機会はありませんでしたが、もし戦場や災害現場で撮れと言われたら、ズームレンズしか選択しないような気がします。
そういう場合に単焦点を選択しないのは、ズームの方が一見すると便利で実用的なレンズだと、ぼく自身が思っているからでしょう。
しかし、もっと寄りたいとか、全体を入れたいと思った瞬間に感じるもどかしさこそが、単焦点レンズの魅力だとも思います。
誤解を恐れずに言うと、ズームレンズはとにかくその瞬間を切り取る時に有効な道具で、単焦点レンズは構図や空間を把握思考した上で、シャッターを切るタイプの道具のような気がします。
どちらが美しいとか優れているといったレベルではないのです。
何で撮るかよりも、何を撮るかの方が重要だと思うんで。
その上でぼくが単焦点レンズを好きなのは、先に書いたように、構図や空間を把握思考する時間が、自分の性格に合っているからだと分析しています。
時間といっても冗長な時間ではなく、一瞬を切り取るための、刹那の思考です。
もちろん長考することもありますが、ほとんどの場合、被写体を目にしてからシャッターを切るまでの、ほんの一瞬です。
ただほんの一瞬ですが、必ず思考するのです。
もしかしたらそれはぼくの個人的な癖かもしれません。なので思考時間が単焦点の普遍的な魅力とは言い切れません。言い切れませんが、持ち味の一つだと伝えたい気持ちはあります。
ポートレイト撮影は、被写体との距離を、如何にして詰めるかがテーマだと思います。
特に初めてお目にかかる被写体では、その想いは顕著です。
そのテーマに寄り添えるレンズは、やはり単焦点な気がします。
もちろん関係性が出来た後でも、単焦点レンズは距離の詰め方で有効ですが、特に初対面のモデルさん相手では効果的なように思えます。
どこまで近づいて良いのか、その距離を掴むためには、ズームではなく単焦点が有効なのですよ。
被写体がプロではなく、普通の女の子だった場合は尚更です。
一般的な人間関係でも、いきなり距離を詰めることってないというか、それって困難ですよね?
人と人、撮影者と被写体の精神的な隔たりを計る装置としても、単焦点レンズは有効なのです。
その場から動かず被写体を引き寄せるズームでは、本当の意味での間隔は近くならないように思えるのです。
これはポートレイトに限ったことではなく、街や自然を対象にしても、同じ事が言える気がします。
自分と対象との対話。あるいは対象と自分との会話。
その時間を紡いでくれるのが、単焦点レンズだと思います。
レンズキットのカメラを買って、次どんなレンズにしようかと迷っている方は、単焦点を候補にしてみてはどうでしょうか?
ズームレンズにない不便さが、きっと新しい写真を連れてくれる気がします。


左側にテキストやロゴなどを載せるために、背景をボカした。このボカしができるのも、単焦点の魅力の一つです。



