【7章】step29 サービスをしっかりテストして手応えを掴む
この話は、ささいなキッカケから、「新しいこと」をはじめることになった高校生の2人組が、経営者や起業家、ユーザーの声をききながら、サービスをつくりあげていく物語です。
■ 主な登場人物
■ 前回のストーリー
第7章 実行できるか「試す」
「ありがとう」と言ってもらえるものを提供できるか試してみよう!
step29 サービスをしっかりテストして手応えを掴む
いよいよ本格テストを行う週末になった。暑すぎる夏が過ぎ去り、秋を通り越して寒さすら感じる冬模様を感じられる天気となっていた。空の向こうには晴れ渡る澄み切った空が見える。
爽太は不安から少しだけドキドキしていたが、それ以上にこの日を迎えることをワクワクしていた。
昨晩、舜からアプリの試作品の連絡が届いた。お兄さんや会社の人たち、お姉さんの力も借りて見事にこの短期間でアプリが完成していた。この10日間、寝不足になりながら頑張り続けてくれた舜に感謝だ。もともとのセンスがいいのに加えて好きという情熱が一気に舜の才能を爆発させたのかもしれない。
AIを活用したとはいえ、素人が作ったとは思えないような素敵なサイトが出来上がっていた。
爽太はキッチンでのジュースの下準備が終わり、ふぅ、と一息つくと、ふいにテラスへと出てみた。
今日は玄関ではなく、小さな庭があるテラス側で販売することになっている。ウッドデッキの一部に机を並べて販売をする。
このスペースでジュースを買ったらその後、デッキでゆっくり飲んでもらおうという予定だ。
この机は家にあった使っていなかった棚を、父さんが気合を入れて今日の仕様にDIYしてくれたものだった。こうやって改めて眺めてみると、ウッドデッキは我が家ではないような立派な販売ブースと軽食スペースに生まれ変わっていた。

机を準備している健人はK-POPアイドルCSUのヒット曲を鼻歌で奏でながら「今日だけ特別!ミックスジュース 550円」と書かれた大きな値札を貼り付けていた。
健人「や〜、まさかお金をいただいてしまうようなところまでくるなんてね。」
爽太「本当だよねー。もちろん僕らに材料費を払えるお金が十分にあるわけではないんだけど、いざお客さんからお金をいただくと考えると、ドキドキするよね。」
健人「本当。それに、今日の価格はモニター料金。本来ならもっと値段を上げるんだもんね。」
准一「いや、それだけの価値があると思うぞ」
どこから現れたのか、爽太の父、准一が急に話に入ってきたので爽太と健人はびっくりして一瞬二人ともビクッと肩を上げた。
准一「今日の金額だって15名分くらい用意してあるけど、ジュースの材料のほかにカップやストロー等の金額を考えたら、ほとんど原価くらいだよなぁ。ここに本来は君たちが働く分の費用も考えていかなきゃならないんだから。でも逆に考えれば、そういったコストをかけてでもユーザーが欲しい!と思えるものを提供できるなら販売する意味がある。ユーザーにかけがえがない、と思ってもらってジュースを買ってもらい『ありがとう』と言ってもらえたらそれはビジネスの証だ。ありがとうの大きさと深さ、言ってくれる人の量に比例してお金が入ってくる。これを対価って言うんだけどね。」

爽太「対価、かぁ。そうだよな〜そう考えると、商品とかサービスを作っている企業ってすごいよなぁ・・なんか、今まで身の回りで触れてきた商品とかサービスを見る目が変わるよね。」
健人「本当そうだな。今まで父さんや兄ちゃんをちゃんと見てきたようで、やっぱりやってみないと何もわかってなかったんだな〜、見てるだけじゃ全然分かったことにならないんだなって思うよ」
舜「爽太、健人、もう11時になるぞー。みんなやってくるみたいだ。詩からLINEが入ってるし。」
ふぃー!と言って舜は手に持ったノートPCを机の上に置いた。朝からアプリの最終調整をしてくれていた。なんか、舜の背中は、もう映画を撮影しているベテランの撮影班の親分みたいなオーラと緊張感が出ていた。
詩「こんにちは〜〜〜。あれ?ここでいいのかな?あ、すごい、すごい!」
そういって声が聞こえると、詩とその友達がやってきた。みんな朝ヨガをした後でうちに寄ってくれているそうだ。この後は、さらに移動して駅前で甘いものを食べながら少しおしゃべりをするんだという。
友達「わぁ〜すごい!みんな私たちと同年代なのよね。小さいお店みたい、すごく立派ねぇー。ナニコレ、この机の色、可愛い!」
その言葉を聞いて、配膳係として黒子のようにものを運んでいた爽太パパの准一が小さく、爽太と健人をみてニカっと笑った。詩が販売側に回り接客をして、舜が説明をして いよいよテストが始まった。
キッチンにいる爽太と健人のところには、タブレット端末が置いてあった。源人の部屋で眠っていた使わない端末だ。
ジュース / 控えめ / Mサイズ / 1
ついに我々のビジネスで、ちゃんとテストしたジュースビジネスに初めてのオーダーが入った!なーーんてジーンとしながら静かに想いを噛み締める暇もなく、続々と注文が入ってくる。
入った注文を見ながら 爽太がせっせとジュースをつくりはじめ、健人がカップを置いて次々と注文内容を確認していく。

反応はおおむね良さそうだった。ジュースを提供後は、詩や舜を中心にフィードバックを受け取っていた。舜が飲んでくれたユーザーさんのお話を聞き、それを詩がスマホで録音しながら必死にメモしていた。
しばらくすると 結愛の声が聞こえてきた。
結愛「こんにちは〜!って自宅だけどね。もう準備はいいのかな?え?え?うちの自宅だけど全然、いつもの自宅じゃない!ちゃんとカウンターとかあるじゃん。」
結愛は、大学やサークルの友人たち数人と一緒にテラスへ入ってきた。そのタイミングで詩の友達は、駅前に戻って行った。
すぐにもう一度注文の波がきた。
爽太と健人は初回よりもだいぶ動きが良くなっていることに気づいた。こういうものは量をこなすことが一番なんだな、と爽太は思った。
慣れることで心配ごとや不安ごとは少しずつ解消されていくことも多い。何事もやってみることがとても重要なんだと言うことはいろんな本や先輩に聞いていたけれど、自分たちが実践してそのことを実感することがどれほど大事なのかを今、ものすごく身に染みて痛感している。
最後のジュースの提供が終わると、用意してたカップが2つだけ残ったのが見えた。今日は2組合わせて23のジュースを提供したことになる。嬉しかったのは、実は想定していない予想外のお客さんとして、近所の知り合いの方がたまたま通りかかって、「楽しそう!」と言って買っていってくれたことだ。
そしてその人たちが一様に「美味しい!」「毎週ここで販売して!」なんて言ってくれた。
テラスに出てみると 最終的にウッドデッキで残っている人たちのジュースへの満足度はとても高そうだったと感じることができた。
「QRコードについては要見直しだけど、最高だった!」と結愛が言い、友人たちと一緒に帰って行った。
爽太「ふ〜〜っ、みんなお疲れ様。どうだった?」
舜「ハラハラしたな〜〜。アプリの動きや注文のプロセスは 一応問題なかったよ。でも・・」
舜は詩に目をやった。詩が話を続けた。
詩「今回、一気に7人・6人って注文をいただいたじゃない。今回はグループだったからいいのだけど、予約と支払いを先にして、その後 オプションを選択して注文、って出来ると効率が良さそうでありがたいかなぁ、なんて話しが出てたわ。」
舜「それから、今日は このジュースの成分表や材料のこだわりを記載したページをつくってカップに貼り付けたデザインの中にQRコードを入れてたのだけど、それになかなか気づけなかったって言ってもらって。気づいてもらえるようにもっとデザインを見直したほうがいいかなと。オシャレさや格好良さに気を取られて気づいてもらう工夫をしていないなんて、ありがちなんだけどやってみないとなかなか気づかなかったかも。」

そんな細かい微調整のための改善アイデアを10 個、20個と積み上げて、改善案を話し合い、昼下がりまでチームは議論を続けた。
手応えを感じた四人は、翌週、もう一度 試飲会を開催したのだった。詩や結愛も呼びかけてくれたが、初日に購入してくれた人たちに通知ができるよう案内してくれていた。これも舜のおかげだ。
ジュースの感想をいただけるようにとメッセージ配信システムに登録してくれたため、メルマガのように告知ができたのだ。
第2回開催に向けて、舜は予約方法を修正して、QRコードも刷り直して準備を整えた。
それだけでなく、猛勉強してくれてアプリもかなり良い感じになっていた。
そうして2週間で43人の人にジュースを飲んでもらえたことを経て、爽太と健人はもう十分にこのジュース販売をビジネスとしてもやっていける自信を身に纏っているような状態になっている。
詩や舜もどのような変更もなんとかやれるんじゃないか、というオーラを身に纏っているように見える。
源人や健人も入ったグループLINEでこの情報を共有すると、2人から「いいね!」「すごい!」というスタンプが届いた。
ーこのステップのポイントー
・製品やサービスは単にそのものがあればよい、ということではありません。前後の関係を意識してどうすれば流れができるのかを考える必要があります。
・製品やサービスだけを見ているとユーザーがそれを手に取る前に諦めてしまうような重大なサインを見逃してしまう可能性があります。
・ユーザーの声を味方にすることで改善のヒントも得られますが、何より自分たちのこだわりを信じて自信と確信を得て次に進むことも時には重要になります。
ー考えてみようー
・目の前のことだけをみていていざ大事な局面で想定しておかなければならなかったのに対応をしていなかったことはありませか?それはどんな時でしたか?
・「準備は充分」と思っていていざ本番を迎えた際に想定している範囲が狭すぎた経験はありませんか?それはどんな状況だったでしょうか?次に活かせることはありましたか?
・段取りを組んで、実際に試行をしてみたことはありますか?大きな本番の前に小さな試行を行うことで得た気づきはどんなものだったでしょうか?
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