【ASEAN+3フォーラム記】 ② 5感で楽しむ文化体験
・文化パフォーマンス
ASEAN+3フォーラムの開幕式では、参加国それぞれが自国の文化を披露する「文化パフォーマンス」が行われます。
ダンスや歌、伝統芸能など、各国が自慢の文化を持ち寄るこのステージ。会場全体が、まるで一日限りの世界文化祭のような雰囲気に包まれていました。
そんな中、日本からの参加者は私と京都の大学から来た学生の2人だけ。
つまり、日本代表としてステージに立つのも、この2人です。
「2人で何ができるだろう。」
そう考えた結果、私たちは音楽で日本を表現することにしました。
ただ、日本の曲なら何でもいいわけではありません。せっかくなら海外の学生にも「知ってる!」と思ってもらえる曲を演奏したい。
何曲も候補を出しながら悩んだ末に選んだのが、『紅蓮華』でした。
『鬼滅の刃』の主題歌として世界中で親しまれているこの曲なら、日本のサブカルチャーの魅力も一緒に伝えられるのではないか。そんな思いを込めて、この一曲に決めました。
私は幼い頃からピアノを習っていて、もう一人の学生はピッコロの経験者。
そこで、ピアノとピッコロによるアンサンブルに挑戦することになりました。
しかし、私たちは大学も住んでいる場所も違います。当然、日本にいる間に合わせて練習することはできません。
本番前日に現地で行われるリハーサルが、最初で最後の合わせ練習。
だからこそ、日本でできる準備はただ一つ。
それぞれが自分のパートを完璧に仕上げてくることでした。
そして迎えた本番。
ステージに上がり、客席を見渡した瞬間、胸が一気に高鳴りました。
私は幼い頃からピアノを習い、発表会にも何度も出演してきました。それでも、この「日本代表」として演奏する舞台は、これまでとはまったく違う緊張感がありました。
指先は少し震え、久しぶりに頭が真っ白になる感覚を味わいました。
それでも演奏は無事に終了。
日本のパフォーマンスは3番目で、前にはカンボジアやインドネシア、後にはマレーシアやフィリピンなど、さまざまな国の発表が続きました。
どの国も大人数で、華やかな民族衣装を身にまとい、迫力あるダンスや歌を披露していました。

それに比べると、日本はたった2人。
演奏を終えた直後は、「日本代表として、もっと豪華なパフォーマンスができたのではないか」と少し申し訳ない気持ちにもなりました。
ところが、その気持ちはすぐに吹き飛びます。
「演奏よかったよ!」
「『紅蓮華』大好き!」
そんな言葉を、本当にたくさんの参加者がかけてくれたのです。
あの瞬間、「この曲を選んでよかった」と心から思いました。

もちろん、「アニソンメドレーにしたらもっと盛り上がったかな」という反省もあります。
それでも、2人という限られた条件の中で、世界中の学生に楽しんでもらえる曲を選べたことは、私たちにとって大きな成功だったと思います。
この文化パフォーマンスを通して、他国の文化に触れられたことはもちろんですが、「日本代表としてステージに立つ」という経験は、それ以上に大きな学びになりました。
ただ披露したいものを見せるのではなく、「どうすれば観客に楽しんでもらえるか」を考えること。
その視点こそが、文化を伝えるうえで何より大切なのだと実感しました。
そして、この経験は意外な気づきも与えてくれました。
ライブやコンサートで、観客が心から楽しめる空間をつくり上げるアーティストやプロデューサーの皆さん。
その舞台の裏には、私たちが想像する以上の試行錯誤や努力があるのだと思います。
今回、自分自身が「披露する側」に立ったからこそ、その大変さと責任の重さを少しだけ実感することができました。
ステージに立つ人の姿はほんの数分でも、その数分のために積み重ねられた準備には、大きな価値がある。
そんなことを改めて感じた、忘れられない文化パフォーマンスでした。
・民族楽器体験
プログラムの一つとして、貴州の少数民族に伝わる民族音楽を体験する時間がありました。
中国は56の民族から構成される多民族国家です。その中でも貴州省は、苗族(ミャオ族)や侗族(ドン族)をはじめ、多くの少数民族が暮らす地域として知られています。
今回は、貴州大学の少数民族音楽学科の教授と学生の皆さんに、民族楽器について教えていただきました。
まずは学生の皆さんによる演奏を鑑賞。
初めて耳にする音色ばかりでしたが、どこか懐かしさも感じられ、不思議と耳を傾けたくなる演奏でした。
演奏を楽しんだ後は、実際に楽器に触れ、演奏にも挑戦させていただきました。
特に印象に残っているのは、芦笙(ルーシェン)という管楽器です。
竹の管を何本も束ねたフリーリード式の楽器で、大きさは手に持てるものから人の身長ほどあるものまでさまざま。約2,000年以上の歴史を持つとされ、中国では演奏技術や製作技術が無形文化遺産として受け継がれています。
芦笙は単なる楽器ではありません。
苗族の人々にとっては文化そのものを象徴する存在であり、お祭りや年中行事には欠かせない大切な楽器です。
特に、男性が芦笙を吹きながら軽快に踊る「芦笙舞」は有名で、昔は演奏や踊りの上手さが結婚相手を選ぶ基準の一つになっていた地域もあったそうです。
実際に演奏を聴いてみると、高音から低音まで幅広い音域を奏でられるだけでなく、ハーモニカのように和音を響かせられることに驚きました。
伝統的な楽器というイメージが強かったのですが、21世紀に入ってからは電子化された芦笙も開発されていると知り、長い歴史を持つ文化が現代に合わせて進化し続けていることにも興味を惹かれました。

続いて体験したのは、牛腿琴(ニョウトゥイチン)という弦楽器です。
「牛腿」とは文字どおり「牛の脚」という意味で、棹(ネック)の形が牛の脚に似ていることから、この名前が付けられたそうです。
この楽器は侗族の伝統音楽や民謡、祭りなどで演奏され、特に歌の伴奏として親しまれています。侗族の文化を語るうえで欠かせない代表的な楽器の一つです。
もちろん、私も演奏に挑戦。
しかし、ギターをはじめ弦楽器にほとんど触れたことがない私にとっては想像以上に難しく、きれいな音を出すどころか、一音鳴らすだけでも一苦労でした。
演奏している学生の姿はとても簡単そうに見えていたのですが、実際に体験してみると、その技術の高さを身をもって実感しました。

今回の体験で特に印象に残ったのは、貴州大学に「少数民族音楽学科」があるということです。
貴州大学は、中国政府が進める「Double First-Class(世界一流大学・一流学科建設)」に選ばれている大学で、国際教育や科学技術協力の拠点としても位置づけられています。そんな大学の中に、地域に受け継がれてきた少数民族の音楽を専門的に学ぶ環境があることに、とても驚きました。
中国は人口が約14億人と世界有数の人口を誇りますが、少数民族は55も存在します。そのため、一つひとつの民族だけを見ると、決して人口が多いわけではありません。人口の少ない民族にとっては、こうした文化をどのように次の世代へ残していくかということも重要なのだと思います。
そうした民族の音楽や楽器を専門的に学び、研究し、次の世代へ受け継ぐ学科が大学に設けられていることに、とても感銘を受けました。
民族楽器は、単に「昔からある楽器」ではなく、その民族の歴史や暮らし、価値観が詰まった文化そのものです。
実際に今回、教授や学生の皆さんから楽器の歴史や演奏方法を教えていただき、こうした文化を「知る」「研究する」「伝える」人たちがいるからこそ、何百年、何千年と続いてきた音色が今も残っているのだと感じました。
普段の生活ではなかなか触れることのできない民族楽器だからこそ、今回実際に見て、聴いて、触れることができたことは、とても貴重な経験でした。
これからも、こうした文化が失われることなく、次の世代へと受け継がれていってほしいと思います。
・民族舞踊体験
民族音楽を体験した後は、続いて民族ダンスにも挑戦しました。
貴州で暮らす苗族や侗族に伝わる踊りを、貴州大学の学生の皆さんに教えていただき、実際に一緒に踊ります。
最初は「見よう見まねで何とかなるかな」と思っていたのですが、その考えはすぐに甘かったと気づきました。
民族舞踊は、腕や足だけではなく、腰や首の動きまで細かく決まっています。
つまり、体のあちこちを同時に動かさなければならないのです。
ダンスは体育の授業くらいでしか経験のない私にとっては、一つひとつの振りを覚えるだけでも一苦労。
足に集中すると手が止まり、手に集中すると腰が動かない。
ようやく全身を動かせたと思って鏡を見ると、そこに映っていたのは優雅に舞う自分ではなく、どこかぎこちないニワトリのような姿でした(笑)。
それでも、先生や学生の皆さんは何度も笑顔で教えてくださり、少しずつ振りがつながっていきます。
約1時間、汗だくになりながら練習を重ね、最後に音楽に合わせて最初から最後まで踊り切ったときは、大きな達成感が込み上げてきました。
普段なら「ダンスは苦手だから…」と避けてしまいそうな私ですが、民族音楽に合わせて体を動かしているうちに、いつの間にか夢中になっていました。

その土地の文化は、本や映像で知ることもできます。
でも、実際に音楽に合わせて踊り、同じリズムを共有することでしか味わえない一体感があることを、この体験を通して実感しました。
うまく踊れたとは言えませんが、それ以上に「文化を体で感じる楽しさ」を知ることができた、忘れられない時間になりました。
文化を「見る側」ではなく「体験する側」になれたことは、このフォーラムで得たかけがえのない財産です。これからも世界には、まだ知らない文化がたくさんあると思うと、とてもワクワクします。
