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405(フォーオーファイブ)のシュガー・コート

90年代のロサンゼルス。
男は男らしく見せる必要があった。
少なくとも、多くの男はそう信じていた。
そんな少し面倒な時代だった。


午後のI-405フリーウェイは、だいたい機能していない。

車は流れているというより、並んでいる。
速度は時速20マイル前後で、加速と減速を繰り返す。
そのリズムに一貫性はない。誰も全体を見ていないからだ。

僕はカープールレーンから二つ離れた車線にいた。
理由はない。ただ、その位置が一番「平均」に近い気がした。

トラックの窓は少しだけ開いている。
乾いた空気に、排気ガスと、甘く腐りかけたような匂いが混ざっていた。どこかで事故があったらしく、遠くにサイレンの残響が薄く残っている。



隣の車線に、白いAcura Integraが滑り込んできた。

無駄のない形だった。意図的に整えられたもののように見える。

運転している男は白人。サングラス。髪は整っているが、整えた痕跡を隠すように乱してある。腕は細くも太くもない。筋肉はあるが、誇示はしない。

窓は半分だけ開いていた。

そこから煙が流れてくる。

マリファナの匂いだった。



渋滞はさらに遅くなる。

前の車のナンバープレートは近すぎて、もはや読めない。

ラジオから音楽が流れた。

柔らかいシンセと、遅れて入るドラム。
空気をなぞるような高い声。

男はすぐに笑った。

肩をすくめる。

「うわ、なんだよこれ」

独り言だが、聞こえる距離だった。

「Fuck。エア・サプライかよ」

Air Supply。

小さく鼻で笑う。

「ウィンピーだな」



そう言いながらも、チャンネルは変えない。

指はダイヤルの近くにあるが、動かない。



車はほとんど止まっている。

エンジンの振動だけが続く。

男はステアリングに指を置き、リズムを刻み始めた。

最初はばらつきがあった。

だが数秒後、その動きは音楽と重なり始める。

完全ではない。だがズレは小さい。



彼は一度だけこちらを見た。

目はサングラスの奥で見えない。それでも、視線が交差した気がした。

指の動きが止まる。

一瞬の静止。

「くだらないな」

誰に向けたものでもない声。



曲はサビに入る。

甘さが強くなる。

男は小さく口を動かした。

音は出ていない。

"Eager to be what you wanted"




渋滞がわずかに動く。

また止まる。

その繰り返し。



Integraが少し前に出て、僕のトラックの前に半分だけ入る。

男はグローブボックスを開け、カセットを取り出す。

ラジオが途切れる。

無音。

数秒後、また音楽。

同じ曲。

Lost in Love。



彼は一瞬だけ周囲を気にする。

だが誰も見ていない。

当然だ。

テープを回したまま、彼は前を向く。

煙がさらに濃くなる。

甘い匂いに、焦げたようなニュアンスが混じる。
ルートビアのようで、もっと現実的な匂い。

今度ははっきりと歌っていた。

小さな声。

"You want to carry on, carry on…"



僕は前を見る。

車列は終わらない。

出口はまだ遠い。



しばらくして曲が終わる。

男は停止ボタンを押し、テープを抜く。

グローブボックスに戻す動作は妙に丁寧だった。



のろのろと車列が動き出す。

今度は少しだけ速い。



彼はアクセルを踏み、ラジオをつけ直す。

別の曲。

ドラムが強く、ギターが前に出ている。

わかりやすい音。

彼はそれに合わせて頭を揺らす。

今度ははっきりと。誰かに見せつけるように。

だがわずかに遅れている。

ほんの一拍にも満たない遅延。

気づく人は少ない。



トラックの窓を閉めた。

外の音が消える。

エンジン音だけが残る。



しばらくして、彼の車は出口で右に消えた。

僕は直進する。

サンペドロに向かう途中で、渋滞は終わる。

速度は安定する。

計算できる世界に戻る。



トラックを停めてドアを開けると、金属が軋んで同じ音を立てた。

さっきと同じ音だった。

ズレはない。

ルートビアの缶を開ける。

泡が静かに立ち上がる。

甘い匂い。

どこか薬の匂いにも似ていた。

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