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生活費の上昇とメンタルヘルスの関係…

お米が2000円前後→5000円前後へ
ガソリンは150円前後→200円前後へ

いや〜高いですね。そしてどんどん高くなる…。
ここ数年、私たちの生活を直撃する物価高騰の波は、凄まじいですよね。
このような経済の変化は、私たちのメンタルヘルスにどう影響しているのでしょうか?
今回はその関係を示した2つの研究を簡単にご紹介します。

1つ目の研究は、コロナ禍後の「物価上昇」と「メンタルヘルス」の関係について分析したものです。

元論文はこちら↓なお本文中の[   ]の番号は、元論文の引用文献番号です。元論文をご参照ください。



1.  イギリスの研究:インフレとメンタルヘルスサービス利用の関連

この研究では、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック後のイギリス(イングランド)において、「物価の上昇」が人々のメンタルヘルス状態にどのような影響を与えているかを調査しました。
 

調査の内容と手法

調査対象: イングランドの全人口を対象とし、年齢層別(0–18歳、19–64歳、65歳以上)に分析しました。

使用データ: 英国国家統計局(ONS)の「持家居住者の住居費を含む消費者物価指数(CPIH)」と、国民保健サービス(NHS)の「メンタルヘルスサービス利用者数」の月次データを使用しました。

比較期間: パンデミック前の安定期(2016年8月〜2020年2月)と、パンデミック後のインフレ加速期(2022年4月以降)を比較しました。

分析: 失業率、季節変動(月・年)の影響を統計的に取り除き、物価上昇そのものがメンタルヘルス相談件数に与える影響を算出しました。

2.  やっぱり…主要な結果


パンデミック前と比較して、パンデミック後のインフレ期には、特定の品目の物価上昇がメンタルヘルスサービスの利用を有意に増加させていることが判明しました。

  1. 最も影響の大きい品目

    • 住居・水・燃料: この指数の1%の上昇は、19–64歳の大人のサービス利用者数を約3万5,880人増加させることに関連していました。

    • 食料・非アルコール飲料: 1%の上昇につき、大人の利用者が約8,890人増加しました。

    • 雑多な物品・サービス(個人ケア用品や金融手数料など): 1%の上昇で、大人の利用者が約2万4,430人増加しました。

  2. 年齢層による違い

    • 19–64歳の成人: 最も広範に影響を受けており、食料、住居、雑多な物品のすべてが相談件数の増加に直結していました。

    • 65歳以上の高齢者: 全体的な物価指数(CPIH)のほか、特に食料(1%上昇で約3,580人増)や雑多な物品(1%上昇で約7,330人増)の上昇が影響を与えていました。

    • 0–18歳の子供: 物価上昇とサービス利用の間に、現時点では統計的に有意な関連は見られませんでした。

  3. 意外な「負の相関」

アルコール・タバコ・麻薬の価格が上昇すると、大人のメンタルヘルス相談件数は逆に減少するという結果が出ました。
→これについて研究者は、有害物質の価格高騰で購入が抑制された可能性や、贅沢ができなくなった代わりに運動やオンラインフォーラムなどの安価な対処法に切り替えた可能性、あるいは生活が苦しすぎて正規の受診を控えている可能性を指摘しています。
他にやホテル・カフェ・レストランの価格上昇でもメンタルヘルス相談件数が減少していました。
 
 



次は1つ目の研究とは対照的にカナダの高齢者を対象に、「物価が上がっている」という本人の「感じ方(主観)」が、心理にどう影響するかを調べたものです。

2つ目の研究の、元論文はこちら↓なお本文中の(Bierman ,2024)などの表記は、元論文の引用文献です。元論文をご参照ください。

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/08982643231195924?url_ver=Z39.882003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed

3.  カナダの研究: 『将来への不安』と心のお守り


 この研究で重要なキーワードは、「将来への不安」です。これは、「まだ起きていないけれど、将来自分の生活が脅かされるのではないか」という心配のことを指します(Grace, 2021)。
 
高齢者は、現役世代とは支出のパターンが異なります。インフレ率などの経済指標は、個人の認識を適切に反映しているわけではないため、本人が「生活費がすごく上がった」と感じることの方が本質的にストレスとなり(Bierman, 2014年)、メンタルヘルスにはダメージを与える(Hyun et al., 2019)のではないかと考え、研究者らは生活費上昇への「主観」に着目しました。

調査の内容と手法

調査対象: カナダの65歳から85歳の高齢者4,010名(W2 は2420名回答)。

調査方法: 2021年(W1)9−10月と2022年(W2)9−10月ほぼ1年間隔の2回にわたる縦断的調査(パネル調査)

評価指標:

  • 生活費上昇の認知: この1年で生活費がどう変わったか(「非常に悪化した」から「非常に良くなった」まで)を3つに区分。

  • 心理的苦痛: 抑うつ症状、不安、怒りの3つの側面(それぞれ既存尺度に基づく短縮版スケールでアセスメント)。

  • マスタリー(万能感): 自分の人生を自分でコントロールできているという感覚(こちらも既存尺度に基づく短縮版スケールでアセスメント)。

4.  「不安」と「怒り」が湧き上がる?


調査の結果、生活費が「非常に悪化した」と感じている高齢者は、不安感や怒りを強く感じていることがわかりました。

「この先、必要なものが買えなくなるかもしれない」といった不安を覚え、自分ではコントロールできない経済システムや、それに対処しないリーダーたちへの憤りや怒りを感じていると考えられます。

一方で、うつ症状(気分の落ち込み)については、不安や怒りほど顕著な影響は見られませんでした。
 

5.   心のお守り:「マスタリー」の重要性


同じように物価高に直面しても、心が折れてしまう人と、平穏を保てる人がいます。その違いは「マスタリー」に影響されているかもしれません。
マスタリーとは、「自分の人生を自分でコントロールできている」という制御感、自己効力感優位性などの感覚のことです。今回の結果からするとマスタリーの高い低いによって、生活費が上昇したことで感じられる不安感に違いがありそうだということがわかりました。
下の図1をご覧ください。

Figure 1. Adjusted differences in symptoms of anxiety at low and high levels of mastery.
Bierman A, Upenieks L, Lee Y. Perceptions of Increases in Cost of Living and Psychological Distress Among Older Adults. J Aging Health. 2023 Aug 16;36(7-8):8982643231195924. doi: 10.1177/08982643231195924.CCBY/改変あり

生活費の上昇を感じている人は、感じていない人と比べて不安症状が高い傾向がありました。
しかしその影響は、心理的マスタリー(自分の人生をコントロールできるという感覚)の高さによって異なりました。
マスタリーが高い人では、物価上昇による不安の増加が小さく、いわば「ストレス緩衝効果」がみられました。
一方、マスタリーが低い人では、生活費上昇がより強い不安症状と関連していました。

6.  社会的背景が「心のお守り」を左右する?


悲しいことに、この「心のお守り(マスタリー)」は個人の努力だけで決まるものではありません。 過去の研究では、社会的な地位や権力、名声を持っている人ほどマスタリーが高まりやすいことが示されています(Mirowsky &Ross, 2007; Pearlin, 2010; Thomas Tobin et al., 2021)。つまり、経済的に不安定な立場にある人は、物価高という直撃を受けるだけでなく、それを防ぐ「心の盾」も持ちにくいという二重の苦境に立たされている可能性があります。
 

7. 筆者のつぶやき


この研究の結果、いかがでしたでしょうか?
身も蓋もない話…かもしれませんが、物を買って消費することで生活している私たちにとって、物価高に代表される経済状況は日々の行動や心理状態に当然ながら影響している…そりゃそうだよね、というところでした。
 
一つ目の研究で、気になったのは、タバコやアルコール、薬物などの言わば「嗜好品」が高いことと、メンタルヘルスサービスの利用が減少することに関連があるという結果でした研究者らは、高価なので購入が抑制される(なくても生活は困らない嗜好品なので)こと、より安価な代替品(行動)で埋め合わせをしている、または生活が苦しすぎて正規の受診を控えているという可能性などを考察していましたが、購買が抑制されることで、これらの嗜好品自体がもたらすマイナスの健康状態や心理状態が落ち着いて(改善傾向?)サービスの利用が減少したという可能性もあるのでは?などと考えたりしています🤔 まあ、理由を想像することは大事ですが、その理由を解き明かすような次の研究がないと何も言えないんですけどね…😅
また食料品よりも住居、水、燃料代が切実なんですね。確かに、食事はある程度切り詰めることができますが、特に住居は切り詰めようがないので厳しいですよね😭
 
2つの目の研究で気になったのは、マスタリーの高低によって生活費の上昇からくる不安感に違いがありそう…という結果でした。マスタリーが高い人は、自分に自信があって、置かれた状況をうまく内面化したり、切り抜けたりできる経験が多く、そんなに悲観的にならなくてもすむという説明は納得できるものです。しかしその経験もこれまでの社会的地位や経済力などに依存している…と言われる(という研究結果があると示される)と、これまでの成功がなければ将来的に不安にならざるを得ない、とも解釈でき、なんだかちょっと寂しい結果と言わざるを得ないです😔

物価高に負けない!悲観しない!そういうメンタルを手に入れるには、どうしたらいいんでしょうか?大きな課題…です。

1つ目の研究
タイトル:Investigating inflation, living costs and mental health service utilization in post-COVID-19 England.
著者:Chen, S., Yang, M. & Kuper, H.
出典:Nat. Mental Health 2, 712–716 (2024)./Publisher: Springer Nature(Nature Portfolio)
DOI:https://doi.org/10.1038/s44220-024-00250-0
ライセンス:Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)— https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
改変:[改変なし]


2つ目の研究
タイトル:Perceptions of Increases in Cost of Living and Psychological Distress Among Older Adults.
著者:Bierman A, Upenieks L, Lee Y.
出典:J Aging Health. 2023 Aug 16;36(7-8):8982643231195924./Publisher: SAGE Publications Ltd (SAGE Publications Inc.)
DOI:10.1177/08982643231195924.
ライセンス:Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)— https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
改変:[改変あり]

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