反省は必要。でも、自分を壊す必要はない―長く臨床を続けるためのメタ認知― 理学療法士
呼吸器や循環器疾患の患者さんを担当していると、日々さまざまな判断を求められます。
離床のタイミングは適切だっただろうか。
あの時、もう少し早く異変に気付けなかっただろうか。
もっと良い介入があったのではないだろうか。
真面目な人ほど、自分自身に厳しくなります。
そして時に、その厳しさは成長のためではなく、自分を傷つける刃になってしまいます。
ある日、同僚が患者さんの移乗介助中に脛を擦ってしまい、表皮剥離を起こしたとします。
落ち込む同僚に、あなたなら何と声をかけるでしょうか。
「辛かったね」
「患者さんの状態や環境も含めて原因を整理してみよう」
「次に活かせば大丈夫だよ」
そんな言葉をかける人が多いのではないでしょうか。
では、同じことを自分が起こした時はどうでしょう。
「なんであんなミスをしたんだ」
「自分は理学療法士に向いていない」
「また同じことを繰り返すかもしれない」
そんな言葉を、自分自身に浴びせてはいないでしょうか。
不思議なことに、私たちは他人には優しくなれるのに、自分にはとても厳しくなってしまうことがあります。
エピクテトスの言葉
古代ギリシャ・ローマ時代のストア派哲学者エピクテトスは、次のような趣旨の言葉を残しています。
「他人の杯(さかずき)が壊れた時と同じ態度を、自分の杯が壊れた時にも取らなければならない」
他人の杯が壊れた時、私たちは冷静です。
「残念だったね」
「仕方ないこともある」
「次は気をつけよう」
そう考えることができます。
しかし自分の杯が壊れると、途端に感情が大きく揺れます。
これは医療現場でも同じです。
同僚のミスには原因分析ができるのに、自分のミスになると人格否定に近い考え方になってしまう。
本来は別の問題なのに、いつの間にか
「失敗した」
から
「自分は駄目な人間だ」
へと話が飛躍してしまうのです。
人は当事者になると視野が狭くなる
私自身、ある程度臨床を続けてきましたが、経験年数が増えても失敗はあります。
もちろん落ち込みます。
しかし振り返ると、落ち込んでいる最中は視野が極端に狭くなっています。
目の前の失敗だけが大きく見えます。
患者さんに感謝されたことも。
これまで積み重ねてきた経験も。
今回うまくできたことも。
全部見えなくなってしまいます。
当事者になると、一時的に視点が凍り付くのです。
今の感情からしか世界を見られなくなる。
だからこそ必要になるのが「メタ認知」です。
メタ認知とは何か
メタ認知という言葉は、1970年代に発達心理学者の John H. Flavell が提唱した概念です。
Flavellはメタ認知を、
「認知についての認知(thinking about thinking)」
と表現しました。
少し難しく聞こえますが、簡単に言えば、
「今、自分が何を考え、何を感じ、どのように判断しているかを客観的に把握する能力」
「自分の考えや感情を、一歩外側から眺める力」
のことです。
簡単に言えば、
「今、自分は落ち込んでいるな」
「自分は失敗を必要以上に大きく捉えているかもしれない」
「もし同僚だったら、何と言葉をかけるだろう」
と考える力です。
感情を消すことではありません。
感情に飲み込まれないための視点です。
臨床でも同じです。
SpO₂が下がった。
血圧が変動した。
患者さんの反応が悪かった。
そんな時も、感情だけで判断するのではなく、
「何が起きているのか」
「他の可能性はないか」
「客観的な情報はどうか」
を整理します。
私たちは患者さんに対しては自然に行っています。
ところが、自分自身に対しては意外とできません。
だからこそ、自分自身にも理学療法評価をするような視点が必要なのです。
自分を甘やかすことと、自分を労ることは違う
ここで誤解してほしくないのは、自分を責めるなという話ではありません。
失敗から学ぶことは大切です。
原因分析も必要です。
再発防止も必要です。
しかし、
「失敗を分析すること」
と
「自分を否定すること」
は全く別です。
患者さんの転倒が起きた時、
私たちは環境要因、身体機能、認知機能、介助方法を分析します。
「患者さんが駄目だから転倒した」
とは考えません。
ならば自分に対しても同じです。
何が起きたのかを分析する。
必要な改善点を見つける。
そして次に活かす。
それで十分なのです。
明日からできるメタ認知
もし失敗した時は、自分に一つだけ質問してみてください。
「これが同僚だったら、私は何と言葉をかけるだろう」
です。
驚くほど優しい言葉が出てきます。
その言葉を、自分にも向けてください。
それは甘えではありません。
客観性です。
適切な自己理解です。
そして、それこそが次の成長につながります。
最後に
医療や介護の仕事は、人の人生に関わる仕事です。
だからこそ責任感が強くなります。
だからこそ失敗した時に深く傷付きます。
しかし、あなたが自分を責め続けて消耗してしまえば、助けられるはずだった患者さんや利用者さんに向ける力まで失われてしまいます。
成長するために振り返ることは大切です。
でも、自分を壊すために振り返る必要はありません。
適切に反省し、適切に学び、適切に自分を労る。
それが長く医療に携わるための技術だと私は思います。
今日も病棟や施設のどこかで、あなたの関わりを待っている人がいます。
あなたが積み重ねてきた経験も、悩みも、失敗も、その人を支える力になります。
どうか自分自身にも、患者さんに向けるのと同じくらい温かい視線を向けてください。
その視線が、明日のあなたを支え、さらに良い医療へとつながっていくはずです。
参考文献
1.Epictetus.
Enchiridion (The Handbook).
Translated by Elizabeth Carter.
London: J.M. Dent & Sons, 1910.
第26節付近。
2.Flavell JH.
“Metacognition and Cognitive Monitoring: A New Area of Cognitive–Developmental Inquiry.”
American Psychologist.
1979;34(10):906-911.
3.Neff KD.
“Self-Compassion: An Alternative Conceptualization of a Healthy Attitude Toward Oneself.”
Self and Identity.
2003;2(2):85-101.
4.Neff KD, Germer CK.
“A Pilot Study and Randomized Controlled Trial of the Mindful Self-Compassion Program.”
Journal of Clinical Psychology.
2013;69(1):28-44.
5.Shapiro SL, Carlson LE.
The Art and Science of Mindfulness.
Washington DC: American Psychological Association.
2009.
第3章「Meta-awareness and Self-regulation」。
