【切ない恋愛】明日、君に会いたい | すれ違いの恋
1. 最後の電話
「明日、会える?」
スマホの画面に表示された彼からのメッセージを見つめながら、私は返信する指が震えていた。
もう二週間も会っていない。いや、正確には会えていない。
大学三年生の秋。就活が本格化し始めた頃、私たちの関係は少しずつすれ違い始めていた。
彼は理系で研究室に籠もりきり。私は文系でインターンやセミナーに明け暮れる日々。
「明日なら、夕方から空いてる」
そう返信すると、すぐに既読がついた。でも、返事は来ない。
五分、十分。画面を見つめたまま、時間だけが過ぎていく。
やがて、電話がかかってきた。
「もしもし」
「あ、うん。ごめん、明日は無理かも」
彼の声は疲れていた。
「そっか...」
「来週の土曜日は? 絶対に時間作るから」
「うん、わかった」
電話を切った後、部屋の窓から外を見た。秋の夕暮れは早くて、もう薄暗くなっていた。
いつからだろう。彼の「また今度」が、こんなに重く感じるようになったのは。
2. カフェでの約束
翌週の土曜日。久しぶりのデートは、駅前のカフェで待ち合わせだった。
十分前に着いた私は、窓際の席に座って彼を待った。
約束の時間になっても、彼は来ない。
五分、十分。
「ごめん、電車遅れてる。あと十五分くらいで着く」
メッセージが届いた時、私は少しだけ安心した。来てくれるんだと。
でも実際に彼が到着したのは、約束の時間から三十分後だった。
「本当にごめん」
息を切らせながら入ってきた彼は、いつもより痩せて見えた。
「大丈夫。お疲れ様」
そう言いながら笑顔を作ったけれど、胸の奥がチクリと痛んだ。
「最近、研究室がめちゃくちゃ忙しくて。教授からのプレッシャーもすごいし」
彼はコーヒーを飲みながら、研究の話を始めた。
私も就活の話をした。面接で失敗した話。内定がもらえない不安。
でも、なぜか会話がかみ合わない。
お互いに自分のことで精一杯で、相手の話を本当の意味では聞けていない気がした。
「そういえば、君の誕生日来月だよね」
彼がふと思い出したように言った。
「うん、そうだよ」
「何か欲しいものある?」
「会えるなら、それだけでいい」
そう答えた瞬間、彼の表情が曇った。
「ごめん...最近、時間作れなくて」
「わかってる。お互い忙しいもんね」
カフェを出た後、駅まで一緒に歩いた。
手を繋ごうとしたけれど、彼はポケットに手を入れていた。
寒いからかな。それとも...
「じゃあ、また連絡するね」
改札の前で、彼はそう言って去っていった。
振り返ることもなく。
3. すれ違う気持ち
それから、彼からの連絡は徐々に減っていった。
「おはよう」のメッセージもなくなり、既読スルーも増えた。
私も最初は理解しようとした。忙しいんだと。余裕がないんだと。
でも、SNSを見ると、彼は研究室の友達と楽しそうに飲み会に行っている写真を投稿していた。
「時間がない」って言っていたのに。
その写真を見た夜、私は初めて彼に強めのメッセージを送った。
「最近、私のこと避けてる? 何かあったなら言ってほしい」
既読はすぐについた。でも、返信は翌日の昼だった。
「避けてないよ。ただ本当に忙しくて。ごめん」
その一言だけ。
私が求めていたのは、謝罪じゃなくて、私を優先してほしいという気持ちだった。
でも、それを言葉にするのは、わがままな気がした。
友達に相談した。
「それ、もう終わりかけてるんじゃない?」
そう言われて、認めたくない現実を突きつけられた気がした。
「でも、まだ好きなんだよね」
「好きだけじゃ、どうにもならないこともあるよ」
友達の言葉は優しかったけれど、胸に刺さった。
4. 誕生日の夜
誕生日当日。彼から連絡は来なかった。
朝起きてすぐにスマホを確認したけれど、何もない。
「もしかしたら、サプライズかも」
そう期待して、一日中スマホを握りしめていた。
でも、夜になっても何も来ない。
午後十時を過ぎた頃、諦めてベッドに入った。
すると、午後十一時五十分にメッセージが届いた。
「誕生日おめでとう。ごめん、今日は本当に忙しくて」
日付が変わる十分前。
私は涙が溢れてきた。
忙しいのはわかってる。でも、一日のうち、たった数分でもいいから、私のことを思い出してほしかった。
「ありがとう」
そう返信して、スマホを置いた。
もう、疲れてしまった。
彼を責めることも、自分を責めることも。
5. 冬の決断
十二月に入って、私は彼に会うことを決めた。
「話したいことがある。今週、時間作れない?」
メッセージを送ると、珍しくすぐに返信が来た。
「わかった。金曜日の夜はどう?」
約束の日、私たちは大学近くの公園で待ち合わせた。
イルミネーションがキラキラと輝いていて、周りには幸せそうなカップルがたくさんいた。
「何の話?」
彼は少し不安そうな表情をしていた。
「最近、私たち、うまくいってないよね」
その言葉を口にするのに、すごく勇気が必要だった。
「...うん」
彼も、気づいていたんだと思った。
「お互い忙しくて、会えないのは仕方ないと思ってた。でも、会えないことよりも、心が離れていくことの方が辛い」
私は震える声で続けた。
「もう、無理して続けなくてもいいんじゃないかな」
彼は黙ったまま、下を向いていた。
「ごめん」
やがて、彼がそう呟いた。
「君のこと、嫌いになったわけじゃない。ただ...余裕がなくて。自分のことで精一杯で」
「私も同じだよ。だから、誰も悪くない」
そう言いながら、涙が止まらなくなった。
「好きなのに、一緒にいられないって、こんなに辛いんだね」
彼も泣いていた。
私たちは、抱き合うこともなく、ただ並んで泣いた。
6. それぞれの道
別れてから三ヶ月が経った。
春になって、桜が咲き始めた頃、私は就活を終えていた。
第一志望ではなかったけれど、自分が納得できる会社に内定をもらえた。
彼のことは、時々思い出す。
今頃どうしているだろう。研究は順調だろうか。
SNSは、お互いにフォローを外した。
見たくないわけじゃなくて、見てしまうと前に進めない気がしたから。
ある日、大学の友達から聞いた。
「彼、大学院に進むらしいよ。推薦もらったって」
「そっか。良かった」
本当に、そう思った。
私たちは、あの時期、お互いに自分のことで精一杯だった。
だから、別れは正しい選択だったんだと思う。
でも、もし。
もし、もう少し時期が違ったら。
もし、もう少しお互いに余裕があったら。
そんな「もし」を考えることもある。
7. 明日、君に会いたい
卒業式の日。
式が終わって、キャンパスを歩いていると、向こうから彼が歩いてくるのが見えた。
三ヶ月ぶり。
心臓がドキドキした。
「久しぶり」
彼が先に声をかけてきた。
「久しぶり。卒業おめでとう」
「ありがとう。君も」
少し話した。
彼は大学院での研究について、楽しそうに語った。
私は就職先のこと、これからの抱負を話した。
「元気そうで良かった」
「うん。あなたも」
会話は途切れがちで、でも、不思議と心地よかった。
「じゃあ、私はこれで」
別れ際、彼が言った。
「もし、また落ち着いたら...」
その先は言わなかった。
私も、何も言わなかった。
「もし」は、もういいんだと思う。
今は、それぞれの道を歩く時期。
「元気でね」
「君も」
別れて数歩歩いた時、振り返りたい気持ちになった。
でも、振り返らなかった。
前を向いて歩こう。
そう決めて、桜並木を抜けていった。
スマホの画面に、未送信のメッセージが残っていた。
「明日、君に会いたい」
書いたけれど、送らなかった言葉。
いつか、また会える日が来るかもしれない。
その時は、もっとお互いに余裕がある状態で。
そう信じて、私は新しい明日へと歩き出した。
あとがき
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
すれ違ってしまった二人の物語を書きました。
恋愛って、好きだけではどうにもならないこともあって...タイミングや状況が、こんなにも大切なんだと改めて感じます。
あなたにも、こんな経験はありますか?
もし心に響くものがあったら、スキやコメントで教えていただけると嬉しいです。あなたの想いを、ぜひ聞かせてください。
これからも、心に残る物語を綴っていきます。
