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AIは、キャリコンの万能感まで拡張する〜「人間にしかできない」を手放した先に〜

すっかり、AIとの協働が当たり前になりました。
僕も結構な比率で、AIと対話していますし、仕事でのサポートもかなり役に立ってます。
もはや手放せない存在にすらなっているかもしれません。

ただその反面、キャリコンが担う相談支援の場面においては、(競合相手として)気になる存在になっているのも間違いありません。

そんな中、キャリアコンサルティング協議会などが今後のキャリコン像を描き始めており、僕たち自身が考えていかなければいけない視点が広がってきたこともあり、自分自身の頭の中を整理してみたいと思います。


「人間にしかできないこと」を守る、その先へ

「キャリアコンサルタントの仕事って、AIに奪われるんちゃうか」
最近、そんな話を耳にすることが増えました。

それに対して、「傾聴や共感は人間にしかできへん」「人の心を扱う仕事は、AIには代替できへん」と語られることがあります。
その気持ちは分かります。僕も、人と人が直接向き合うことの価値がなくなるとは思っていません。

ただ、それだけで安心していてよいのでしょうか。

キャリアコンサルティング協議会の『キャリアコンサルタントの質向上に関する報告書』は、15分程度の限定的な面談や、知識・テクニックの提供を主とする対応であれば、現在のAIでも十分に対応可能な水準に達していると指摘しています。

実際、学生はすでにAIを使って自己分析をし、エントリーシートを作り、面接対策までしています。
迷ったときに、まず相談する相手が人間ではなくAI、という時代はもう始まっています。

僕自身も、AIを使っています。
情報を集め、考えを整理し、自分にはなかった視点を得る。
学生支援や授業、講座を考えるときにも、AIによって見える範囲が広がったと感じることが何度もあります。
だから、この文章は、AIを安易に使う誰かへの警告ではありません。
AIの便利さを享受している僕自身への問いでもあります。

AIの進化は速いです。
「今のAIにできないこと」を探し、それを人間の存在価値にしても、そこがいつまで安全地帯であり続けるかは分かりません。

僕は、「AIにできなくて、人間にだけできることは何か」という問いだけでは足りないと思っています。

僕たちが一緒に考えなければならないのは、こちらではないでしょうか。

「AIが当たり前に使われる時代に、僕たちは、どのような役割を引き受ける専門職になるのか。」


AIは、間違った答えを出したわけではありません

以前、ある学生がAIを使って自己分析をしていました。

AIがその学生の経験から抽出した強みは、「達成に向けての行動力」でした。
そして、その強みを高く評価してくれそうな企業として、成果を重視し、若いうちから昇進を目指せる会社を候補に挙げていました。

出力だけを見れば、筋は通っています。

ところが、面談で話を聴いていくと、その学生が大切にしたいものは少し違っていました。
仕事に全力を注ぎ、早く昇進したいというより、仕事を終えた後には趣味を楽しみ、自分の生活も大切にしたいと考えていたのです。

AIが間違えたのではありません。
学生がAIに渡した材料の中に、「どのように働きたいか」「どのように生きたいか」という情報が十分に入っていなかったのです。

AIは、与えられた情報をもとに、もっともらしい答えを組み立てました。
しかし、その答えが本人の生活や価値観と合っているかどうかは、別の問題でした。

このとき僕がしたのは、AIにはできない魔法のような面談ではありません。僕が最初から正しい答えを持っていたわけでもありません。

AIが示した答えと、本人が語る生き方とのずれに一緒に立ち止まりました
企業が求める人物像と、本人が望む働き方を照らし合わせました。
そして、一度できあがった「自分に向いている企業」という答えを、学生と一緒に組み直しました。

もし僕が、AIの分析を「よくできている」と受け止め、そのまま就職活動を後押ししていたらどうなっていたでしょう。
あるいは、自分の経験を信じて「この企業が合う」と早々に結論づけていたら、AIとは別の形で、同じように学生の生き方を狭めていたかもしれません。

ここに、AI時代のキャリアコンサルタントを考える一つのヒントがあるように思います。
問われているのは、AIより正しい答えを出せるかどうかではありません。

AIの答えも、自分の見立ても、いったん立ち止まって問い直せるかどうかです


「人の内面を扱う人」から、「人と社会の関係を扱う人」へ

キャリアコンサルティングは、自己理解を深めることだけでは完結しません。

その人が何を大切にしているのか。
どのような仕事があるのか。
その企業では、どのような働き方が求められるのか。
労働市場はどう変化しているのか。
生活、家族、健康、経済状況、制度などが、選択にどのような影響を与えるのか。

人は、社会から切り離されてキャリアをつくっているわけではありません。

『経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書』でも、自己理解・仕事理解・環境理解を統合した支援の必要性が示されています。
さらに、1対1の面談だけでなく、組織・環境・社会への働きかけ、複数の専門家との連携、適切なリファー、AIが提示する情報の正確性や妥当性を見極める力まで、キャリアコンサルタントの役割として挙げられています。

ここだけを読むと、「これからのキャリコンは、そんなことまで全部できなあかんの?」と思うかもしれません。
僕も、身につけるべき能力の一覧として受け取ると、正直しんどさを感じます。

けれども、これは、キャリアコンサルタントが何でもできるようになれ、という話ではないはずです。
むしろ逆だと捉えました。

自分だけでは扱えない問題があると分かること。
必要な情報を調べること。
別の専門家に相談すること。
適切な機関につなぐこと。
相談者本人に変化を求めるだけでなく、企業や学校などの環境側へ働きかけること。

専門家とは、一人で答えを出せる人ではありません
その人にとって必要な支援を、自分の外にある人・情報・制度・環境まで含めて組み立てられる人なのだと思います。

僕は、このように「人と環境との間」を支援の対象として捉えることを、キャリアソーシャルワークと呼んでいます。
僕自身の職業もキャリアソーシャルワーカーと命名しています。
これは、キャリアコンサルタントに福祉の知識を付け足す話ではありません。
個人の悩みを、個人の内面だけに閉じ込めず、その人と組織、制度、社会との関係から捉え直すということです。
もちろん、僕も企業、教育、福祉、医療、法律、制度のすべてを知っているわけではありません。
知っている範囲が広がれば、支援の可能性も広がります。

しかし、知識が増えたことと、一人で支援を完結できることは同じではありません。

AIによって個別相談の一部が効率化されるほど、僕たちは面談室の内側だけではなく、その外側に目を向けられるようになります。

同時に、自分だけでは届かない場所があることも、これまで以上に自覚する必要があるのだと思います。


AIは、能力だけでなく万能感も拡張します

AIは、僕たちのできることを大きく広げてくれます。

知らなかった制度を調べ、業界情報を整理し、相談者の経験から複数の可能性を見つけることもできます。
経験の浅いキャリアコンサルタントにとっても、学びを加速する強力な道具になります。
僕自身、以前なら時間がかかった情報収集や整理を、AIに助けてもらっています。
異なる領域の知識を結びつけ、自分一人では思いつかなかった問いに出会うこともあります。

一方で、そこで得た情報や視点を、いつの間にか自分の知識や見立てのように感じてしまう危うさもあります。

AIに尋ねれば、よく知らない領域でも、それらしい答えが返ってきます。
その答えを自分の専門性と取り違えれば、僕も相談者を傷つける側になり得ます。

つまりAIは、能力だけでなく、僕たちの”万能感”まで拡張してしまうように感じます。

これは、一部のキャリアコンサルタントだけの問題ではありません。
むしろ、相談者の役に立ちたいと思い、熱心に学び、AIも積極的に使う人ほど、「ここまで分かるようになった」「ここまで支援できるようになった」と感じやすいのかもしれません。

僕も、その外側にはいません。
『キャリアコンサルタントの質向上に関する報告書』が、支援者自身のバイアスや限界を自覚する自己理解と、他者を安易に分かったつもりにならない謙虚さを重視しているのは、この点でも重要だと思います。

必要なのは、何でも疑って自信を失うことではありません。
分からないことを、すぐに他者へ回すことでもありません。
自分には何ができ、何が分かっていないのか。
どこまでは自分が関わり、どこからは他者の力が必要なのか。

その境界を、その都度考えることだと思います。

僕の好きな言葉で、支援で大切にしている信条でもあります。
河合隼雄先生は、『カウンセリングの実際問題』(誠信書房)の中で、次のように述べています。

「私がこの人のために、現在できる最善のことは何か」をまず考えよ。

この言葉は、何でもできる支援者を目指せ、と言っているのではないように思います。
今の相手、今の状況、そして限界のある今の自分を踏まえて、それでも何ができるのかを考える。
その「最善」には、自分の見立てを疑うことも含まれるはずです。

「最善」とは、自分が答えを出すこととは限りません。
AIを使うことかもしれません。
別の専門家につなぐことかもしれません。
組織や環境へ働きかけることかもしれません。
あるいは、今は答えを急がず、分からなさを抱えたまま一緒に考えることかもしれません

相談者のためなら、自分が一番役に立つ人であろうとすることさえ手放せる。それも、専門性の一つではないでしょうか。

この問いを、僕も一つひとつの支援の前に置き続けたいと思います。


経験が浅いことは、弱みだけではありません

ここまで読むと、「勉強せなあかんことが、また増えたやん」「自分にはとても無理や」と感じる人もいるかもしれません。

けれども僕は、特に経験の浅いキャリアコンサルタントにこそ、可能性があると思っています。

『今後の人材開発政策の在り方に関する研究会報告書』は、AIなどによる産業構造の変化を踏まえ、個人の状況に合わせた伴走型支援や、企業の人材開発を他の専門家と協働して支える役割の重要性を示しています。
キャリアコンサルタントの仕事は、すでに個別面談の技法だけでは捉えきれないところへ広がり始めています。
最初から、労働市場、企業経営、教育、福祉、医療、法律、制度のすべてを知る必要はありません。
そんな人は、ベテランにもいません。
僕にもできません。

経験が浅いからこそ、従来のキャリアコンサルタント像に固まりきっていないとも言えます。
分からないことを分からないと言い、AIを使って学び、自分の見立てを疑い、現場で試し、振り返り、必要な人とつながる。
そこから、自分なりの専門性や活動領域をつくっていけます。

そのための答えを、僕も持っていません。ただ、一緒に考えるための方向は、少しずつ見え始めています。

· AIに何を任せ、何を自分が引き受けるのでしょうか。
· AIや自分の見立ての前提を、問い直せているでしょうか。
· 相談者の困りごとを、本人の内面だけで説明していないでしょうか。
· 本人と、企業・組織・制度・地域を、どうつなげられるでしょうか。
· 自分一人で抱えず、誰と一緒に支援を組み立てられるでしょうか。
· 相談者を変えるだけでなく、環境側へ働きかけられないでしょうか。
· これまで身につけてきた支援観のうち、何を残し、何を手放すのでしょうか。

あえて短い言葉にするなら、「壊せる」「使える」「つながれる」でしょうか。

自分が正しいと思ってきたものを、必要に応じて壊せる。
AIを便利な答えの製造機ではなく、学びと支援の道具として使える。
そして、自分の限界を知りながら、人と組織と制度と社会をつなげられる。

これらは、完成したキャリアコンサルタントだけが持てる力ではありません(完成してるキャリコンなんていないと思いますが・・・)。
むしろ、自分はまだ完成していないと知っている人だからこそ、育てていける姿勢なのだと思います。

AI時代は、キャリアコンサルタントの終わりではありません。
個人の内面を支援する人から、人と社会との関係をともにつくり直す専門職へ
その役割を広げていく始まりなのだと思います。

ただし、その未来は、誰かが完成形を示してくれることでやってくるものではありません。
僕たちは、「人間だから価値がある」という安心材料を手放したあと、何を人間の責任として引き受けるのでしょうか。

僕自身も、まだその答えを持っていません。
だからこそ、AIに答えを出してもらうのではなく、現場で迷い、周囲を頼り、ときには自分の支援観を壊しながら、仲間と一緒に考え続けたいと思っています。

僕たちはこれから、誰と、何をつなぐキャリアコンサルタントになっていくのでしょうか。


参考資料

· 河合隼雄『カウンセリングの実際問題』誠信書房
· 『経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会 報告書』特にpp.3-5、15
· 『今後の人材開発政策の在り方に関する研究会 報告書』特にpp.2、11-12、14、17
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会『キャリアコンサルタントの質向上に関する報告書』令和8年5

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