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なぜ自治体の市民参加ワークショップや市民対話は上手くいかないのか?

私の前職である川崎市では「自治基本条例」というのがありまして、市民参加みたいな領域では先駆的だったのではないかと思います。というかよく知っている先輩方にも制定に携わっていらっしゃった方々がいるわけで、ある意味レジェンドでもあります。そしてこの条例自体、かなりの市民との対話を経て制定されたものですね。

とはいえそこから干支一周どころか、そろそろ二周目というほどの時が経っているのも事実です。今は各自治体でも色々なシーンで市民との話し合う場をセッティングされています。中にはWS(ワークショップ)という名目で開かれ、ファシリテーターが対話をまとめたりもしています。

私は自治体の実務としても結構WS、市民対話的なことをやってきました。そして大幅にキャリアチェンジした今となっては、組織開発や人材開発、チームコーチングなどの文脈で、ある種の”ガチ対話”をサポートしてきています。

一方、改めて自分の過去の反省や、また全国各地の仲間と話したりもしていて、必ずしも自治体と市民との対話は機能していないな、という面も大いにあると感じています。そして口に出すか出さないかを問わず、それに気付いている行政職員、市民、民間プレイヤーの方々も結構いらっしゃるのではないかと思います。

ある種の「ワークショップアレルギー」みたいなものも出てきていて、ファシリテーションという手法自体に汚名が着せられているなぁ・・・と感じることも無きにしもあらずです。

ということで、以下ではファシリテーションなどの手法を念頭に置き、「市民対話がなぜ上手くいかないのか?」について書いてみます。


原因1:行政が答えを固めてしまっている

まず行政サイドのスタンスに致命的な問題があるケースです。そもそもファシリテーションはグループに「都合のいい落としどころ」に着地してもらう手法ではありません。むしろグループの創造的な話し合いを促進する(fasilitate="促進する"という英単語)わけで、基本的には話し合いのゴール地点がどこになるかは不明瞭な手法です。

それにも関わらず、行政が既に政策について答えを決めている状態で、「市民の意見を聞いた」というアリバイ作りのための市民参加WSと対話もどきが横行してしまっている、というのが悲しい現実でもあります。

ちなみに、「行政が既に政策について答えを決めている状態」においては、どのように対話をすればいいのでしょうか?これはもう、「理にかなった説明をし続ける」ということに尽きると思います。

その中で、例えば「疑問点を抽出するために対話型のワークショップをする」といった目的であれば部分的にファシリテーションの手法を活用する余地はあると思います。ただ繰り返しですが、答えを誘導するためにファシリテーションをするのは根本的な手法の選択の間違いです。

原因2:必要な前提知識が共有されていない

さて一定の幅広く市民の意見も受け入れながら対話をしていきたいということであれば、WS形式でファシリテーションの手法を用いながら対話を進めることも有効かもしれません。

ただここでよく起こるのが、「言いたい放題の要望投げまくり合戦」になってしまうということです。〇〇人収容できるホールがほしい。有名チェーンの〇〇を誘致してほしい。あの施設がほしい。この施設がほしい・・・

このやり取りが不毛であることは、なんとなくイメージがつくのではないかと思います。そして過去にこのような市民要望ベースで実現した施設というのは、閑古鳥が鳴くという現象すらよく見られるのです。(信じられないことに、要望しておいて使われないということが起こりうる!

これは色々な原因が考えられます。

  • コスト、費用対効果が無視されている。

  • 要望を言うだけなら当事者感が無いので、その場の思いつきが出てくる。

  • 集団規範と同調圧力の中で実態と乖離した要望になる。(例:お年寄りを大切にするのは大事です!だから〇〇が必要です!など)

特にコスト面の問題は深刻です。アメリカなどと違い、日本では行政サービスと税負担があまり紐づいているという感覚がありません。なので要求して作らせたもの勝ち・・・みたいなスタンスになってしまいやすいのです。

ところが、費用の大きなハコモノなどは借金をして建てるのが通常です。さらに年間の維持費も大量にかかります。ということは、意思決定した人々だけで費用を負担するものですらないのです。

「あなたが要望している施設を作った場合に、およそ〇〇億円をあなたの子や孫が負担することになりますが、それでも公正だと思いますか?」

という問いが必要なのです。そのためには、特にお金回りを中心とした不都合な前提知識の共有が必要になります。そういった普遍的な知識や客観的なファクトを共有することは、前述の誘導とは異なり、対話の前提として必要なことなのです。

原因3:実は行政職員が排除された対話になっている

最後に地味に見過ごされがちな重要な問題を。市民対話というと市民が主役のようですが、実際は担当の行政職員というのも非常に重要なステークホルダーだということです。

というのも、「じゃあこれをしよう」ということになった時に、企画化、役所内の根回し、地域コミュニティの説得、クレーム対応(場合によっては訴訟対応なども含む)、事業者との契約など、結構な実務を行政職員が実行することになるからです。

今は公共分野における民間主導の動きも多々ありますが、それでも行政職員が動かないとプロジェクトが進まない、というのも実態です。(行政職員が動かなくてもプロジェクトが問題なく進むのであれば、行政職員はステークホルダーではないので、そもそも公民であえて対話プロセスが必要なのかという問いに立ち返ります。)

行政職員というと黒子になって中立的に物事を処理する・・・というステレオタイプもありますが、リアルな話として行政職員も人間なんですね。しかも上記のように、結構精神的な負荷の高い仕事が行政職員にアサインされざるを得ないことが多いです。

行政職員を黒子のように、要は人間性を認めず歯車のように捉えてしまうと、精神的なパワーが生み出さてきません。なので、アサインされた精神的な負荷のかかる仕事へのエンゲージメントは低下していき、結果的にボトルネックになってしまいやすい構造になっていきます。

市民との対話の場で、関係する行政職員に心理的安全性(リスクを取って発言できる環境)はありますか?ぶっちゃけ難しいですよね。ここも市民対話の難易度を上げてしまう要因でもあります。

対話に必要な行政職員の人材育成は?

ということで、ここからは市民対話を有効に進めるための行政職員の人材育成について書いてみます。

必要な前提知識をプレゼンテーションするスキル

行政職員は公文書的な内部での説明資料を作るのに慣れています。いわゆるポンチ絵と呼ばれるようなものです。大切なことが網羅的に書かれているので、何を合意形成したのかが後からも分かります。

ところが、これは通常のシーンでは情報伝達にまったく使えません。なぜなら人間の処理能力には限度があり、その場でドバっと情報を流し込まれるような説明をされても記憶に残らないからです。

そのため、対話の場において必要な前提知識を共有していくには、情報を絞って要点を簡潔に伝えていくことが大事になります。これは行政職員が通常職場内で訓練される説明手法(網羅して抜け漏れのない説明をする)とは異なるため、意識的にトレーニングをしたりギアを切り替える必要があります。

ファシリテーションやチームコーチングのスキル

WSなどで市民対話をするなら、当たり前ですがファシリテーションのスキルが必要です。外部のファシリテーターを呼んで部分的に任せるということもありますが、そもそもファシリテーションが何か、みたいな知識が全くまっさらだと有効なWS設計をするのが難しいかもしれません。

特にゴールの不明瞭な対話の場においては、不確実なものを受容する力、いわゆるネガティブケイパビリティも求められてきます。「話がどこにたどり着くか分からない」という自分自身の不安に対処するためです。

もちろんスタンダードなファシリテーションのトレーニングというのも有効ですが(といっても色々なスタンスの流派がありそうですが)、対集団のネガティブケイパビリティへの対処も含めると、チームコーチングのトレーニングがものすごく効くな・・・という印象です。

なんにせよ、ここは前述のプレゼンテーションなども含めてトレーニングによって獲得できるものだと考えています。

自己効力感の獲得

最後にですが、行政職員自身の自己効力感(私には目標を達成する力がある!という確信)はとても大事です。「自分に対話の場が仕切れるかどうか分からない・・・」という不安な気持ちで対話の場を仕切るのは、やっぱりちょっと難易度が上がってしまいます。不安感情が参加者にも伝染してしまうからです。そしてリスクを取って必要な発言をする勇気の源泉にもなりますね。

自己効力感を獲得するには、少しずつ成功体験を積んだり、「こんな人みたいにできたらいい!」というロールモデルを獲得するとか、フィードバックや励ましを受けたり、あるいは情緒的な動機付け(自分にとってこの仕事をすることはどんな意味があるんだろう?)をつくっていくことが有効です。まあ実践しながらメンタリングやコーチングを受けるのが一番早い気もします。

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こうしてみると、やっぱり一朝一夕で良い市民対話をデザインしていくことは難しいんですね。いくつかの能力やスキルなどが複合的に合わさって有効に機能していくものだからです。

少し長い目で見た人材育成の方向性があると、より市民対話は進化していくだろうなと感じています。


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鈴木 真 | 対話による組織開発とリーダーシップ開発 いつもお読みくださりありがとうございます✨ チップをいただけると励みになります☺️ 本代や学習費用に当てさせていただきます!