【小説・ヴィーナス症候群】(739)シブがき隊の隊長と隊員
大里ひかりは、久しぶりに祖父の家を訪れた。
生まれつき両腕のないヴィーナス児に多い職業として、アパレル産業で着用モデル――いわゆる「トルソーさん」として吉祥寺のダンスウェアブランドConfeitoで働いている。
しかし今日は、単なる「孫」だった。
居間のソファーに並んで座る。
祖父はすでにテレビの方を向いていて、ひかりが来たことにも気づいているのかいないのか、曖昧なままだ。
「ほら、お小遣いだ。ちゃんと勉強しろよ」
ひかりは少しだけ笑って、「うん」とだけ返した。
祖父の中での自分が、まだ小学生くらいで止まっているのは、もう分かっている。
テレビでは、古い歌番組の再放送らしきものが流れていた。派手な衣装の三人組が踊っている。
祖父が目を細める。
「……シブがき隊、か」
ひかりはぼんやり画面を見ながら「うん」と相槌を打つ。
「ということはシブがき隊長がいて、シブがき隊員がいるのか」
「さぁ」
「シブがき隊員の階級はどうなってるんだ。佐官か尉官か」
「知らないよ」
窓から差し込む午後の光の中、テレビの音だけが部屋に流れる。

