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【小説・ヴィーナス症候群】[778]狭き門をこじ開けろ!

原宿のガーリーブランド「Ria」。

昼休みになると、スタッフたちはバックヤードの休憩スペースに集まり、それぞれ弁当を広げ始める。

「見てくださいよ〜、今日これです。新宿駅で限定って書いてあったんで」
「うわ、絶対うまいやつ」

韓国風のり巻き、サラダボウル、コンビニのパスタ。テーブルの上には色とりどりの昼食が並んでいた。

そんな中、「トルソーさん」の躑躅森風花だけは、机の上に半透明のプラスチックボトルを一本置いていた。
中には、ベージュ色のどろっとした液体。
風花は、金属の肩義手でボトルを持ち上げると、ストローで静かに飲み始めた。

デザイナーの愛子が思わず目を丸くする。

「ちょっと、風花ちゃんのお昼ってそれだけ?」
「はい。これは完全食で栄養のバランスも取れてますんで」
「大丈夫なの?」
「YouTubeなんか見てればこれだけで暮らしてる人いますよ」

さらりと言って、またストローを咥える。

愛子は苦笑した。

「せっかく岩手から東京に出てきたんだから、グルメ楽しみたいとか無いの?」
「まあ……それもありますけど」

風花は少しだけ視線を落とした。

「私、将来は億り人になってFIREしたいんですよね」
「ええ?」
「だから、何食べるかとか考えるのも無駄だと思ってるんです」

愛子は完全に引いた顔になった。

「えええ……」

周囲のスタッフも、サラダを食べる手を止めている。
風花はそんな空気を気にする様子もなく、淡々と続けた。

「でも実際、FIREできる人って一握りじゃないですか」
「まあ……そりゃそうだけど」
「だから、狭き門をこじ開けろ!って感じです」

休憩室に変な沈黙が落ちる。

その時、パタンナーの史恵がぼそっと言った。

「……いや、その前に胃をこじ開けてちゃんとご飯食べなさいよ」

一瞬静まり返ったあと、休憩室に笑い声が広がった。
風花も、少しだけ吹き出した。

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