【小説・ヴィーナス症候群】(4)チャンネル「Venus diary」
午前10時、夏の陽射しが照りつける中、麻帆は商店街を歩いていた。ピンクのタンクトップにデニムのショートパンツ、素足にサンダル。両肩から先には腕がないが、彼女はそれを隠すことなく堂々と歩いている。
頭上には小型のドローンが静かに飛び、彼女の一挙一動を撮影している。彼女のYouTubeチャンネル『Venus diary』は、日常の様子や特技を披露する動画で人気を博しており、今やチャンネル登録者は90万人になろうとしていた、国内のYouTuberとしてもかなりの人気チャンネルとして有名だった。
「今日はお気に入りのカフェを紹介するよ」と、麻帆はドローンに向かって微笑む。足の指で器用にカフェのドアを開け、中に入る。店内は落ち着いた雰囲気で、常連客が静かにコーヒーを楽しんでいる。
「いらっしゃい、麻帆ちゃん」と、店主が笑顔で迎える。彼は麻帆が足を使って器用に物事をこなす姿にすっかり慣れている。
麻帆は足でメニューをめくり、「いつものブレンドお願いします」と注文する。店主は頷き、手際よくコーヒーを淹れ始める。
待っている間、麻帆は足でスマホを取り出し、視聴者からのコメントをチェックする。「義手は使わないんですか?」という質問に対し、彼女はドローンに向かって答える。
「義手を使う選択肢もあるけど、何ていうか・・・ もう慣れちゃった。子供の頃に親に付けろって言われて一回つけたことがあったんだけど、あれ重いのね。あと夏はムレる。同じヴィーナスの子だったら分かると思うけど。だいたいヴィーナスの子って『義手派』と『足派』がいて、義手派の子は何ていうか、普通の常識人。足派はやっぱり私みたいな自由人が多いっていうか・・・普通のOLとかしてたら足でパソコン打ったりとかできないでしょ?」
麻帆の饒舌は止まらない。話し出したら止まらないこの饒舌さも人気の秘訣だ。
やがてコーヒーが運ばれてくる。麻帆は足でカップを持ち上げ、一口飲む。「やっぱりここのコーヒーは最高」と満足げに微笑む。
撮影を終え、麻帆はドローンを足で操作しながら言う。「今日も見てくれてありがとう。また次回の『Venus diary』で会おうね〜 チャンネル登録と高評価お願いします!」
ドローンが高く舞い上がり、夏空に溶けていく。麻帆はサンダルを鳴らしながら、次の目的地へと歩き出した。

