【小説・ヴィーナス症候群】[729]アイスコーヒー葉桜昼寝
外語大でチュノムを研究する関那由他は、図書館の隅で、古びた詩篇に目を通していた。
昉垌空𥄬
𣳡洃如𩅹
猜役如参
命民拉残
𣎀時𠶀𡮈
共憢謀役
㦖𤀘麻哙
𣅶尼羅欺
ノートには、すでに自分なりの訳を書きつけてある。
Trưa đồng không ngủ(真昼の田で眠ることもできず)
Mồ hôi như mưa(汗は雨のように流れる)
Sai dịch như sấm(労役は雷のように激しく)
Mệnh dân sắp tàn(民の命は尽きようとしている)
Đêm thì thầm nhỏ(夜、ひそかに語り合い)
Cùng nhau mưu việc(共に事を謀る)
Muốn vùng mà hỏi(立ち上がるならいつかと問えば)
Lúc này là khi(今こそその時だ)
漢語調の語彙が多い。北部だろう、と那由他は考える。おそらく紅河デルタ。
昼寝も許されないほど酷使される農民たちが、夜に集まり、蜂起の機をうかがう――そんな詩だ。
「やるなら今だよ、か」
小さく呟いて、ペンを置く。
急に、頭がぼんやりしてきた。
少し休憩した方がいい。
図書館を出て、近くのコンビニでアイスコーヒーを買う。
カップの中で氷が鳴る音が、やけに軽い。
そのまま足は、公園へ向かっていた。
外はすっかり葉桜だった。
花はほとんど散り、若い緑が光を受けて揺れている。

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