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【小説・ヴィーナス症候群】[736]段取りをきちんと

都内の百貨店。
上階の名店街にある和食店は、昼どきのざわめきに包まれていた。

万之瀬はるかは、窓際の席で一人、タンドリーチキンを待っている。
韓国フェミニン系ブランド「HANEUL」の専属トルソー。
午前中は売場で新作の試着展示に立ち、いまは短い昼休み。

タンドリーチキンはまだ来ない。

別のテーブルではサラリーマンが大声で話している。

「いやあしかしお前とこうして飲むのも久しぶりだな、早稲田の政経出て以来だろ――」

(はいはい、早稲田な。そげん大声でひけらかさんでよかが)

「――あの頃は徹夜で議論してたのに、今じゃ武器輸出の話で紙面が埋まる時代だもんな、でもさあれさ単なる理念の後退とかそういう話じゃなくて完全に段取りの話なんだよ、弾薬が何日持つか壊れた装備をどれだけ早く直せるか部品をどこから引っ張ってくるか、冷戦の頃はアメリカの核の傘があってソ連相手でも短期で米軍が来る前提で時間稼ぎの段取り組めたし中国もソ連と対立してて妙な均衡があったけど今は違うだろ、中国は軍事費もミサイルも桁違いだしロシアも動いてるし北朝鮮も撃ってくる三正面だぞ、しかもアメリカが即来援する保証も昔ほど盤石じゃない、そこで問題になるのが継戦能力で試算だと弾薬は数日で尽きる、で国内需要だけじゃ生産ラインが維持できない企業は撤退する技術者は将来性がないって辞めるそうすると何が起きるかっていうといざって時に増産できないつまり作れない国になるんだよ、だから輸出なんだよ外に出すことで量産ラインを維持する同志国と共同開発して部品の供給網を広げる整備や補給のルートを作るこれ全部段取りなんだよ撃つためじゃなくて撃たれた時に崩れないための段取りそれを平時から回し続ける仕組みが必要なんだよ別にサヨクが嫌いってわけじゃない理念とか人権とか大事なのは分かるしお前らが書くのも分かるけどさ国全体の段取りって視点で見た時にそこだけで決めていいのかって話でこのまま輸出止めたまま技術が枯れていったら十年後に自衛隊が弾もなく死ぬって状況になりかねない新聞もさ反対が多いって話だけじゃなくてこのままだとどうなるかってところまで書いてくれよ」

「いや分かるけどさでも輸出した先でどう使われるかの問題は残るだろ東南アジアに装備出して海洋進出を抑えるって理屈は分かるけど万一それが人権侵害とか内戦で使われたらどうするんだって話で報道としてはそこに歯止めが効くのかを見ないわけにはいかないし平和憲法の精神っていう軸がある以上どこまで踏み込むのかは問い続けないといけないと思うんだよ」

「だからそこは制度設計の話だろ移転先の管理とか運用条件とかいくらでも詰める余地はあるしゼロリスクじゃないのは分かってるけど段取り捨てた場合のリスクの方がよっぽど確実なんだよ」

(よかよか、よう喋っどな)

タンドリーチキンが運ばれてくる。

はるかは軽く会釈して、皿を受ける。

後ろでは、まだ話している。

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