【小説・ヴィーナス症候群】[701]アップグレード名札夜桜
生まれつき両腕のない「ヴィーナス児」に多い職業として、アパレル業界で試着モデル――いわゆる「トルソーさん」がある。
弓張渚も、その一人だった。
今回の現場は、新潟・上越市の出雲屋デパート。ブライダルフェアの展示要員として呼ばれていた。
売り場に着くと、すでに準備は始まっている。
「あ、渚ちゃん。久しぶり」
顔なじみの女性スタッフが声をかけてきた。
「しばらく来ない間に、従業員出入口が自動ゲートになったんですね。私も警備員さんに一時入館証もらいました」
「そうなの。指紋認証にしようって話もあったみたいなんだけど、トルソーの子達だって来るわけじゃない?」
「私たち指どころか腕がないから詰みますね」
「でしょ?それで名札をアップグレードして、ICチップ仕込んだのよ」

スタッフが胸元の名札を軽く叩く。
「今はこれをかざせば入れるの。業者さんも含めて統一したから楽になったよ」
「なるほど……それなら通れますね」
エレベーターホールでは、高田城の夜桜の宣伝をしている。
帰りに行ってみようかな。
「待っててね」
誰に向けたわけでもなくつぶやいた。
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