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【小説・ヴィーナス症候群】[467]カワウソ字

神田の雑居ビル三階にある「コルチカムの会」本部。
生まれつき両腕のない“ヴィーナス児”の当事者団体で、常勤スタッフはわずか三名――
事務局長の 守実徹、会計担当の 今諏訪善江、そして事務局員の 階上つばさ だけだ。

この日は相談対応も会誌の校正も片付き、
つばさはソファーでテレビの情報番組を眺め、
善江は湯のみを両手で包みながら帳簿を閉じ、
守実は古ぼけたデスクで書類整理をしつつ一息ついていた。

そこへ、ビル管理人からメールが届いた。

「ん……? 何だこれ」
守実が眉を寄せて開いた瞬間、三人とも固まった。

画面いっぱいに並ぶのは、
「fjklafjao;u98023……」といった意味不明の文字列。
文章どころか、もはや“文字化け”にすら見える。

「事務局長、これ……暗号? ウイルス?」
善江が半分本気でつぶやく。
つばさは俯きこみながら目を瞬かせた。

「……日本語の形してないですよね……?」

不安が広がりかけたところへ、追って二通目が届く。

──「失礼しました。管理人事務所で飼っているカワウソがキーボードの上で暴れ、誤送信したものです」

三人「…………カワウソ?」

管理人室でそんなものを飼っているとは誰も知らなかった。

確かめに行こうと階段を降り、1階の管理人室の扉を開けた瞬間、
つばさが小さく声を漏らした。

「……わ、ほんとにいた……!」

室内では小柄なカワウソが暴れ回り、
机の上では再びキーボードをパチパチパチパチッ! と連打。
キーは数個もぎ取られ、紙は散乱し、
プリンターは紙づまりを起こして「ウィィ……ガガッ」と悲鳴を上げている。

管理人のおじさんは椅子に座ったまま、
どこか悟った表情でため息をついた。

「いやあ……寂しくてね。癒やしになるかと思って飼ったんだが……まあ、こうだ」

その横でカワウソは、まるで自分の作品でも披露するかのように、
再び「hjk;;lpppp」と謎の文字列を量産していた。

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