【小説・ヴィーナス症候群】[708]愛の水面下
生まれつき両腕のない「ヴィーナス児」の麻帆はYouTuberとして生きていた。
ドローンをGoPro代わりにして各地を撮影し、土曜の夜は酒をあおりながらの泥酔配信。
気がつけば障害者年金を返上できるほどの収入になっていた。
ただ、人気商売は波がある。感情の浮き沈みも激しい。
その日は、沈む側だった。
ドローンも持たず、ただ川原を歩く。草の上に座り込み、ぼんやりと水面を眺める。
──ぼちゃん。
視線の先で、水が揺れた。
大きなウシガエルが2匹、重なるようにして動いている。
「……お盛んだねえ」
思わず声が漏れる。
こういう時に限って、ドローンを連れてきていない。あれがあれば、間違いなく“バズる画”なのに。
膝を抱えるようにして、ただ見ている。
水面は静かだ。だがその下では、確かに何かが進んでいる。
目の前の、両腕のない人間のどうしようもない沈鬱も知らず、カエルたちはただ本能のままに、水面下で愛を交わしていた。

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