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《第四章》ゆっくりと歪みはじめた出会い〜優しさだと思い込んでいた漆黒の闇の入り口〜【嘘だらけの優しさ編・第一話】



2度目の恋が終わったあの日から、
心のどこかにぽっかり穴があいたまま、私は日々を漂っていた。
永遠なんてこの世にはないんだ、、、

あの頃、彼の名字になる絵がそこに見えていた。
すぐ手が届きそうなその幸せは
するりと指の間からこぼれて消えた。

まだ事故の痛みも残っていて、
身体も心も、何かにすがりつきたかった。
強がることに疲れ、ひとりで立ち続けるのが少ししんどかった。

そんなとき、友人に誘われて顔を出した小さな集まり。
街がジングルベルの音にあふれ、あちこち
キラキラしていて、見とれてしまうほど
きれいだった。

繁華街を少しはいったその店は、部屋の中は明るいのに、耳にきこえる笑い声は、どこか遠く聞こえ、
私は温かくて、まるいカップを両手で包みながら、
自分をどう保つかだけをずっと考えていた。


そのとき、静かに目の前に影が落ちた。

「大丈夫? ちょっと疲れてるように見えたから。」

ゆっくりと振り向くと、
彼が立っていた。
あのときはまだ“最初の旦那”になるなんて思いもしなかったけれど、
第一印象はただ、穏やかで、物腰のやわらかい
優しい人だった。

声のトーンは静かでゆっくりとし、目は細められ、
私の痛みごと包み込むような“ふり“をして近づいてきた。

「事故、大変だったんだってね。」

なぜ知ってるの?

そんな疑問が胸をよぎったはずなのに、
その目を見ていると、
知られていること”が妙に安心に思えた。
むしろ『知っててくれてる人だ』とさえ思ってしまった。
弱っていた私は、誰かに自分を気遣われるだけで
胸の奥がほぐれていくようで。

「少し外、歩かない?」
その誘いは驚くほど自然で、拒む理由なんて
見つからなかった。

夜の風は冷たかったが、
彼はわざわざ私の歩く速度に合わせ
ゆっくりとした歩幅で横を歩いた。

その“丁寧さ”が、あの頃の私には心地よかった。
かなり年上で、その“大人“な雰囲気と立ち振る舞いが、私を安心させた。

だけど今思えば、
あの歩幅こそが、
私の弱さに自分の存在を滑り込ませる最初の合図だったのだと思う。

歩きながら、彼は穏やかな声で問いかけてきた。

「最近どう過ごしてる?」
「まだ痛む?」
「誰か頼れる人はいるの?」

ひとつひとつが優しく聞こえたけれど、
どこか“探る”ような、
私の隙間を測っているような感触がふと、
頭のすみをよこぎった。

でも、、、、、

その違和感に気づくには、私はまだ若すぎた。
自分の直感なんて信じてもいなかった。
そして、弱りすぎていた。

「また会ってくれる?」
そう言われた瞬間、
私は迷わず「うん」と答えていた。

その日から、彼はまるで毎日の日課のように
私の生活に静かに、異音を立てる事なく、
入り込んできた。

「今日はどこにいたの?」
「誰と会ってた?」
「帰ったら連絡して。」
最初は“心配されている”と思っていた。
ほんとうは、
“行動を把握したいだけの確認”だったのに。

電話は増え、
メッセージは細かくなり、
私の予定を知りたがるようになった。

それでも私は、
「自分を気にかけてくれる人」
だと信じ込んでいた。

若かった私は、
優しさと支配の境界線を見分ける術もなく、
“好かれている証拠”と
“束縛のはじまり”の違いを知らなかった。

ある日、友人と会うと言うと、
彼は静かに笑ってこう言った。

「俺以外の男とは、あまり会わない方がいいよ。
 心配だから。」

その“心配だから”の一言で、
私はそれ以上疑おうとしなかった。
本当は、その瞬間が最初の“赤信号”だったのに。

そして私は、知らず知らずのうちに
彼のつけた見えない輪のなかへと足を入れていた。

後戻りができないほど、
ゆっくり、ゆっくりと。

その静かな始まりの先に、
のちのち私を深く傷つける
束縛と呪縛、
そしてDVの影が待っていたことを──
あの頃の私はまだ、想像もしなかった。

彼と出会って数週間。
優しさの布をまとったような彼の言葉は、
弱っていた私にはどこか安心に思えた。
毎日のように届くメッセージも、
最初のうちは「気にかけてくれているんだ」と
素直に受け取っていた。

けれど、最初の“明確な束縛”は
ある日の小さな予定変更から始まった。

その日は、久しぶりに高校時代の友人と会う予定だった。
事故のあと、ようやく気力が戻ってきて、
外へ出ることが少し楽しみに思えはじめた頃だった。

「今日、友だちと会ってくるね」
そう彼に伝えると
すぐに返事がきた。

──「え、誰?」
──「男?」
──「どこで?何時に帰るの?」

矢継ぎ早に届くメッセージ。
その勢いに、胸の奥がざわついた。

友だちは女だと伝えても、
安心したような返事は返ってこなかった。

──「ふーん。
 でも、事故のあとなんだし無理しないほうがよくない?
 俺、心配なんだよ。」

“心配”という言葉に弱かった。
あのときの私は、
誰かに守られている感覚を手放したくなかったのだと思う。

でもその日の彼は、ごく静かに、
それでいて逃がさないように、
こう言った。

「もしどうしても行くなら、
 何時に着いて、
 誰とどこに行くか教えて。
 危ない目にあってほしくないから。」

その要求が異常だと気づけるほど、
当時の私は強くなかった。
世の中を知らなすぎた。
“事故のあとで弱っている私を気遣ってくれている”
私を『守る』ための言葉だと、、、。
そう言い聞かせた。

友だちに会うのをやめようか迷っていると、
彼からさらにひと言。

「俺だって不安になるんだよ。
 好きだから、心配なんだよ。
 ……わかってほしい。
大切なんだ。」

その“好きだから”の一言が、
私の判断を迷わせ、
結局その日は友だちに断りの連絡をした。

「ごめん、ちょっと体調が悪くて。」
本当は体調ではなく、
彼のほうが気になってしまっただけなのに。
自分でも情けないと思いながら、
私は携帯を握りしめていた。

すると彼から、すぐに満足げなメッセージが届いた。

──「今日はゆっくりして。
 俺がそばにいるから、大丈夫。」

その瞬間、“安心”と“息苦しさ”が同時に胸に広がった。
けれど私は、その息苦しさが何を意味するのか
まだわかっていなかった。
なんにも気が付いていない、無知な私がいた。

ただ、私の予定は私のものなのに、
誰かに確認してからでないと動かせなくなる感覚が、
その日初めて胸に重くのしかかった。

それが、後戻りできない束縛の始まりだったのだと、
今ならはっきりわかる。
でもあの頃の私は、
“好きなら、このくらいは普通”
“私を大事にしてくれているからなんだよね“と
自分に言い訳を重ねていた。
自分を納得させていた。

あの日、友だちとの約束を一度断っただけで、
未来があんなふうに歪み始めるとは、
まだ想像もしていなかった。

これが長きにわたり、私の人生を狂わせていく序章になるなんて、、、。

✴︎✴︎✴︎今日も読んでいただき
         ありがとうございました✴︎✴︎✴︎


私の自己紹介を置いておきます。
もしよかったら、開いてみてくださいね





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