「仕事が向いてない」が受け入れられず、占いに50万円使って仕事を辞めた話
深夜2時。
スマホを握りしめながら、僕はまた電話占いに課金していた。
「相手はあなたに好意がありますよ」
イヤホン越しの声を聞きながら、僕は安心していた。
通話が終わる頃には、数万円が消えていた。
でも、その頃の僕にとって、お金はもう問題じゃなかった。
「やっと、自分を必要としてくれる人が現れたかもしれない」
そう思えたことの方が大きかった。
気づけば、占いに使った金額は数十万円を超えていた。
そして僕は、長く続けた仕事を辞めることになる。
周りから見れば、僕の人生は順調だったと思う。
学生時代の成績は悪くなかった。
真面目なタイプだったし、頼まれたことはちゃんとやる人間だった。
安定していると言われる仕事にも就いた。
恋人もいた。
このまま普通に働いて、普通に結婚して、普通に年を取っていく。
そんな人生を、疑っていなかった。
でも実際の僕は、ずっと苦しかった。
社会人になって最初に知ったのは、「頑張れば報われる」とは限らないということだった。
怒鳴られる。
人格ごと否定される。
空気を読んで、ミスをしないようにしても、怒られる。
今なら、それが異常だったと分かる。
でも当時の僕は、全部自分が悪いと思っていた。
だから頑張った。
朝早く出勤して、雑用を引き受けて、怒られないように動いて、空気を読んだ。
でも、自己肯定感だけが少しずつ削れていった。
昼ごはんが喉を通らなくなった頃、僕はメンタルクリニックへ行った。
ただ、休むという発想はなかった。
薬を飲みながら働けばいい。
そう思っていた。
数年後、僕は限界を迎えて休職した。
休職中も、ずっと考えていた。
なんで自分だけ普通に働けないんだろう。
なんで周りは平気そうなんだろう。
そんなことばかり考えていた。
復職してからの僕は、「嫌われないこと」に全力になった。
雑用をやる。
頼まれごとを断らない。
愛想よくする。
笑っていれば、嫌われないと思った。
でも、その頃からだったと思う。
自分が何をしたいのか、分からなくなっていったのは。
そんな時、職場に後輩が入ってきた。
少し不器用で、頼りなくて、でも一生懸命な人だった。
ある日、その後輩に言われた。
「いつも助けてもらってばかりですね」
たぶん、何気ない言葉だったと思う。
でも、その時の僕には、それが信じられないくらい刺さった。
こんな自分を見てくれている人がいるんだ。
そう思った瞬間から、僕の中で何かが変わった。
恋だったのかもしれない。
依存だったのかもしれない。
今でも、正直よく分からない。
その頃の僕には、長く付き合っていた恋人がいた。
でも僕は、少しずつ恋人に冷たくなっていった。
理由は全部、自分にあった。
僕はずっと、「嫌われない恋人」を演じていただけだった。
本音を言うのが怖かった。
嫌われるのが怖かった。
だから、自分を押し殺していた。
そして僕は、最低な形で別れを選んだ。
後輩とは、少しずつ雑談が増えていった。
仕事終わりの何気ない会話。
軽いLINE。
小さな気遣い。
その全部に意味を探していた。
「これって、どういう意味なんだろう」
そんなことばかり考えていた。
でも、関係が壊れるのも怖かった。
言葉にした瞬間、全部終わる気がした。
だから僕は、占いに逃げた。
「相手はあなたを信頼しています」
「焦らなくても大丈夫です」
「流れは悪くありません」
そんな言葉を聞くたびに、安心した。
後輩との未来を知りたかった。
転職の正解を知りたかった。
安全な人生を選びたかった。
つまり僕は、ずっと“正解”を探していたのだと思う。
やがて僕は、環境を変えれば人生も変わると思い、転職した。
でも、新しい環境でもまた、人間関係に苦しんだ。
その時、ようやく気づいた。
僕はずっと、「誰かに認められること」でしか、自分の価値を感じられなかったのだと。
占いをやめた理由は、当たらなかったからじゃない。
誰かに人生の正解を決めてもらうことを、やめたかったからだ。
恋愛も、仕事も、人生も、結局やってみないと分からない。
うまくいくかもしれないし、失敗するかもしれない。
でも、それでも、自分で選ぶしかない。
今も、人生はまだ途中だ。
将来が不安になる日もある。
10年以上継続した昔の職場や、後輩のことを思い出す日もある。
それでも最近は、少しずつ、自分の感覚を取り戻し始めている。
散歩をしたり、音楽を聴いたり、気の置けない友人とご飯に行ったり。
昔の僕なら、「そんなことに意味はない」と思っていた。
でも今は、そういう時間こそ、自分を人間に戻してくれる気がしている。
たぶん僕はこれからも迷う。
また誰かに依存しそうになるかもしれない。
それでも、もう自分を削ってまで、誰かに認められようとは思わない。
自分が自分らしく生きていくために。
僕はこれから、自分の人生を取り戻したいと思っている。
