Vol.16 「健診」と「人間ドック」は何が違うのか。
「健診って毎年受けているけど、人間ドックとどう違うの?」——この質問、健診の現場でとても多く聞かれます。
一口に「健診」といっても、その設計思想は大きく二種類に分かれます。対策型健診と、**任意型健診(人間ドック)**です。
対策型健診は、集団全体の死亡や罹患を減らすことを目的として設計されています。職場の定期健康診断(労働安全衛生法)、特定健診(健康保険法)、そして市区町村が健康増進法に基づいて実施するがん検診がこれにあたります。重要なのは、これらは「個人の利益の最大化」ではなく「集団としての利益の最大化」を目指して設計されている点です。
そのため、検査の判定基準は感度・特異度・経済的コストのバランスを集団レベルで最適化して設定されています。一定の偽陰性(見落とし)はある程度許容される——というより、そのように設計されていることが合理的な対策型健診の特徴です。10人がみて10人、あるとわかるような巨大な腫瘍を見落とすのは「見落とし、誤診」ですが、10人に1人のスペシャル専門医にしか見つけられないような腫瘍を見つけようとすることは、むしろ望ましくない、とされているのです。すべての異常を検出しようとすれば、偽陽性が増えて不要な精密検査が増え、集団全体のコストと不利益が増えてしまうからです。
一方、人間ドック(任意型健診)は個人が自費または福利厚生として受けるものです。検査項目は施設によって異なりますが、職場健診より幅広い検査が含まれることが多い。ここでは「個人が納得して受ける」ことが前提ですから、たとえ検査が多くなっても、受診者本人が理解・同意していれば問題ありません。経済的コストの考え方も、対策型健診とは異なります。
対策型健診とドックは目的が違う——この視点を持つだけで、「健診で異常なし=大丈夫」という思い込みから抜け出すことができます。「自分が受けている健診は何のための健診か」を理解した上で、必要に応じて任意型の検査を組み合わせることが、本当の意味での予防医療の第一歩です。
出典: 厚生労働省「定期健康診断について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/anzen/anzeneisei02.html
日本人間ドック学会「人間ドックとは」
https://www.ningen-dock.jp/public/dock
*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。
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