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Vol.43 睡眠の質は、お金をかけなくても「3つの習慣」で決まります。

「夜、なかなか寝つけない」「朝起きても疲れが取れていない」。

外来でも健診の面談でも、睡眠の悩みは本当によく聞きます。そして多くの方が、その解決策をいきなりサプリメントや睡眠アプリ、あるいは数万円する高機能マットレスに求めようとします。

気持ちはよく分かります。お金で解決できるなら、そのほうが楽だからです。でも、順番が逆なのです。

土台になる生活習慣を整えないまま道具に頼るのは、底に穴の空いたバケツに、高価なミネラルウォーターを注ぎ込むようなものです。

睡眠の質は、お金をかけなくても、3つの習慣で多くの部分が決まります。今日はそれを、効果の大きい順に書きます。


ひとつめは、起きる時間を一定にすることです。「早く寝なければ」と就寝時刻ばかり気にする方が多いのですが、体内時計を整えるうえで本当に効くのは、むしろ起床時刻のほうです。

私たちの体内時計は、実は24時間ぴったりではなく、それより少し長くできています。だから毎朝リセットしてやらないと、時計は少しずつ後ろにずれていきます。

そして、このリセットの最大のスイッチが、朝、決まった時間に目から入る光なのです。平日はきっちり7時に起きているのに、休日は昼まで寝てしまう。これをやると、体内時計はいとも簡単に「週末の時差ボケ」を起こします。
月曜の朝がつらいのは、気合いの問題ではなく、自分で作り出した時差ボケのせいかもしれません。平日と休日の起床時刻の差は、できれば2時間以内に収めたいところです。寝る時刻のほうは、起きる時刻を固定すれば、眠気に導かれて自然と整っていきます。


ふたつめは、光をコントロールすることです。
朝はしっかり浴び、夜は逆に避ける。シンプルですが、これが効きます。

もう少し具体的に書きます。朝の光は、起きてから1時間以内に浴びるのが効果的です。カーテンを開けて窓辺で朝食をとる、ひと駅歩く、それだけで十分です。
曇りや雨の日でも、屋外の明るさは室内照明よりはるかに強い。

「天気が悪いから」と部屋にこもらず、外の光を意識的に取りに行ってください。逆に夜は、煌々とした天井照明より、間接照明や暖色系の灯りに切り替えると、体が自然に眠る準備に入ります。

特に問題なのが、就寝前のスマートフォンやパソコンの光です。これらの画面が発する光は、睡眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑え込み、脳に「まだ昼間だ」と誤解させます。「眠れないから、寝床でスマホを見て時間をつぶす」という方は多いのですが、これは残念ながら「自分で自分を眠れなくする行動」になっています。

眠れない、だからスマホを見る、その光でますます眠れない——この悪循環については改めて別の回でも書きますが、対策はシンプルです。寝る1時間前には部屋の照明を一段落とし、画面から物理的に離れる。可能なら、スマホそのものを寝室に持ち込まないのが理想です。

みっつめは、就寝前のカフェインとアルコールを見直すことです。

カフェインの効果は、多くの人が思っているよりずっと長く続きます。体内で量が半分になるまでの時間(半減期)は、健康な成人で平均5時間ほど。個人差が大きく、1.5〜9.5時間とされます。夕方に飲んだ一杯が、夜になってもまだ効き続けていることは珍しくありません。

実際、カフェインを就寝6時間前にとっても睡眠が妨げられたという研究があり(Drakeら, 2013)、「寝る前6時間はカフェインを控える」ことが勧められています。

そしてアルコール。「寝つきが良くなるから」と寝酒を習慣にしている方がいますが、これははっきり逆効果です。確かにアルコールは寝つきを良くします。しかし、睡眠の後半を浅くし、中途覚醒を増やし、レム睡眠を減らして、トータルの睡眠の質を確実に下げます(Ebrahimら, 2013)。

寝酒は睡眠の「前借り」のようなもので、夜の後半でしっかり利息を取られるのです。


大事なのは順番です。寝具やサプリメントを検討するのは、この3つを整えた後で十分間に合います。逆に言えば、この3つを無視したまま道具にお金をかけても、得られる効果は限定的です。まず無料でできることから手をつける。これが、睡眠改善の鉄則です。

睡眠環境についても少しだけ触れておきます。音と暗さは、道具に頼る前でも整える価値があります。できるだけ静かに、そして真っ暗に近い暗さのほうが、深く眠れます。

そのうえで、意外と誤解が多いのが寝室の温度です。「深い睡眠には涼しめがよい」とよく言われます。これは半分正しく、半分は日本の冬の実情に合っていません。

たしかに暑すぎる環境は、深い睡眠(徐波睡眠)やレム睡眠を減らし、目覚めを増やします(Okamoto-Mizunoら, 2012)。夏に寝苦しくて眠りが浅くなるのは、気のせいではありません。

ところが日本の冬の問題は、むしろ「寒すぎ」です。全国2,190戸を調べた調査では、冬の寝室の平均室温はわずか12.8℃で、9割を超える世帯がWHOの推奨する最低室温18℃を下回っていました(Umishioら, 2020)。

さらに、奈良の高齢者861人を対象にした研究では、夕方の室温が高い人ほど寝つきが良い(入眠潜時が短い)という関係が示されています(Saekiら, 2015)。寒い寝室は、寝つきを悪くするだけでなく、血圧の上昇など循環器のリスクにもつながります。

厚生労働省の「睡眠ガイド2023」も、具体的な数字ではなく「暑すぎず寒すぎない温度」を勧めています。つまり正解は「とにかく涼しく」ではなく「極端を避ける」こと。

夏はやや涼しめを意識し、冬は冷やしすぎず、少なくとも18℃を下回らないように——これが、日本の住環境に即した現実的な目安です。高機能寝具を考えるのは、この土台が整ってからで十分です。

そして最後に、医師として重要な注意を書いておきます。これら3つをきちんと実践しても改善しない頑固な不眠や、日中に耐えがたい眠気、大きないびきの自覚がある場合は、生活習慣の問題ではなく、その奥に睡眠時無呼吸症候群(SAS)などの病気が隠れている可能性があります(Vol.21参照)。

睡眠衛生は万能薬ではありません。「やるべきことをやっても駄目だった」ときこそ、医療機関の出番です。睡眠は「疲れの回収」ではなく、「明日への投資」です。

出典: Drake C, Roehrs T, Shambroom J, Roth T. Caffeine effects on sleep taken 0, 3, or 6 hours before going to bed. J Clin Sleep Med. 2013;9(11):1195-1200. Ebrahim IO, Shapiro CM, Williams AJ, Fenwick PB. Alcohol and sleep I: effects on normal sleep. Alcohol Clin Exp Res. 2013;37(4):539-549. Okamoto-Mizuno K, Mizuno K. Effects of thermal environment on sleep and circadian rhythm. J Physiol Anthropol. 2012;31(1):14. Umishio W, et al. Disparities of indoor temperature in winter: A cross-sectional analysis of the Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Indoor Air. 2020;30(6):1317-1328. Saeki K, Obayashi K, Tone N, Kurumatani N. A warmer indoor environment in the evening and shorter sleep onset latency in winter: The HEIJO-KYO study. Physiol Behav. 2015;149:29-34. カフェインの半減期:StatPearls「Caffeine」(NCBI Bookshelf, NIH)

*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。

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