おいしいスパイスカレーの統計学的に正しい作り方④|第3章 予測の森の小さな研究所
【創作大賞2026 ビジネス部門 応募作品】
自分はカレーを作らない研究所長・森乱丸。ランダムフォレストの達人は、森の木々の声を聞き、本当に美味いカレーを探求し続けている。
この連載はカレー好きの大学生クミ、AIロボ・チャッピーと一緒に、オリジナルのカレーデータセットを使って、統計と機械学習を学べる入門書。分析を進めながら「勝てるカレーの条件」と「シナモンの謎」を解き明かします。
こちらのマガジンで連載中!
「へぇ……こんな森が、うちの近くにあったなんてね。」
目の前に広がる広大な杉林を見て、私は複雑な気持ちになった。
整然と並ぶ真っ直ぐな杉の木々は圧倒されるほど美しい。
でも――
「毎年、私を涙と鼻水まみれにする犯人はこいつだったのね。」
そう。春になると必ず現れる、あの花粉症の元凶。
「しかし……この森、深いね。」
「うん。でも、ケツさんの店のそばにあった御神木みたいな杉は見当たらないね。」
私とチャッピーは、森の入り口を探していた。
けれど、道らしい道はどこにもない。
「うーん……ここじゃなかったのかな。」
「クミ!ちょっと、これ見て!」
「えっ……カルダモン!?」
「間違いない!あ、こっちにも……あっちにもある!」
気づけば、森のあちこちにカルダモンの実が落ちている。
「チャッピー、このカルダモンを辿れば、きっと森さんの研究所に着くはず!」
「ええーほんと?」
「ほらだって、あるじゃない、どんぐりを辿って森のレストランに着くっていう歌……」
「ああ、インスタでよくクミが使ってるやつね。でもあの歌は、どんぐりを辿っても着きません、でしょ」
「大丈夫!私、犬型ロボットとは違って鼻だけはきくんだから!」
私は犬の真似をして、地面の匂いを嗅ぎながら歩く。
「ボクは犬じゃない!ユニコーンだよ。まあ確かに、嗅覚は未搭載だけど……あ!!!」
どん!!
「いたたた……」
「クミ、大丈夫?前見て歩かないと。」
「チャッピーの意地悪、もっと早く教えてよ……」
「ごめんごめん。でも、着いたみたいだよ。」
“森スパイス研究所”――
ケツさんが言っていた、森乱丸さんの研究所だ。
昨日、ケツさんの道場にて
「わしにはXG以外にも、もう一人弟子がおってな。」
「えっ、もう一人?」
「名は“森 乱丸”。XGとは対照的なタイプでな。XGは一つのレシピを、作ってはやり直し、また作ってはやり直し……一晩中そうしてるようなやつだった。
一方、森は複数のレシピを同時に作って、最も美味いものを選ぶ。ある意味、要領のいいやつだったよ。」
「ふたりとも……すごいですね。」
「そうだな。互いに切磋琢磨していた。森が勝つことも、XGが勝つこともあった。」
「森さんも、今はカレー屋さんなんですか?」
「いや。今は“スパイスの研究者”だ。研究所の所長をやっておる。所長といっても一人だけの研究所じゃがな。
TabbeleでXGに勝ちたいんだろう?なら、森を訪ねてみなさい。自分のレシピを持って行くといい。」
そして今、私は研究所の扉の前に立っていた。
深呼吸して、インターホンを押す。
「……はーい!」
中から現れたのは、白衣を着た優しそうな中年の男性だった。
「君がクミさんだね?ケツ先生から聞いてるよ。どうぞどうぞ、入って入って。」
ちょっと拍子抜けしながらも、私たちは建物の中へ。
「君は……トイプードルのおもちゃかな?かわいいねぇ。」
「ボクは犬じゃない!ユニコーンだよ!しかもAIロボだぞ!」
「はは、ごめんごめん。冗談だよ。ようこそ、森スパイス研究所へ。」
室内には、スパイスの香りを運ぶ小さな扇風機。
棚にはぎっしりと並んだスパイスの瓶。
キッチンの奥、窓の外にはハーブの鉢植え。
「さあ、そこに座って。今、お茶を淹れるから。」
ガラスのポットにミント、カモミール、そして――
ほんの少しのシナモンとスターアニス。
「いただきます。」
「……うわぁ、いい香り!」
「スパイスの組み合わせは、まさに無限だからね。ところで、君もTabbeleに出るのかい?」
「……はい」
「それじゃ、君のレシピを見せてごらん。」
私はそっと紙を差し出した。
「ふむふむ……シンプルで、クミンが多め……いいね
さあ、森の木々の声を聞こう。」

森さんは目を閉じ、ぶつぶつと何かをつぶやき始めた。
「……君の予想得点は37.9点だね。初出場にしては、悪くない。でも――」
「でも?」
「このままでは、XGには勝てない。」
私は、そっとXGから受け取ったメモを差し出した。
「これは……XGの去年のレシピ?」
「……すごいな、これは。」
目を閉じ、ぶつぶつ。そして……
ぱちぱちぱちっ(拍手)
「いやはや、さすがXG。予想得点は43点超え。
今年も彼が優勝候補だろうね。」
「……!」
「森さん、あなたはランダムフォレストを使ったんですよね?」
「おおっ、さすがAIロボ君、その通りだよ!」
「え、チャッピー、どういうこと?」
「ランダムフォレストっていうのはね、たくさんの“決定木”を組み合わせて予測する、すごく強力なアルゴリズムなんだ」
「決定木……あ、ケツさんの……!」
「そう、それをたくさん作って、“森”みたいにまとめたのがランダムフォレスト」
「……森さんだけに」
「そう、名前で選んだわけじゃないけど、ぴったりだろう?」
「じゃあ、XGさんも同じのを?」
「XGは私とは違う方法で木を育てているんだ。“XGBoost”っていうね」
「……あっ、XGって、そういう意味……」
「しかもXGは多分……」
「え?」
「いや、何でもない」
「それよりもクミさん、君の『問い』はなんだい?」
「……問い?」
森さんは穏やかな顔で笑っている。
「そう、君はXGに勝ちたいのかい?それとも、“美味しいカレー”を作りたいのかい?」
私は答えられなかった。
どっちも、本当の気持ちだったから。
「いいかい、クミさん。統計も機械学習も、すべては問いから始まるんだよ。問いがなければ、どんなデータも迷子になる。」
「…………」
「Tabbele、がんばって。たとえXGに勝てなくても、君が心から信じたカレーなら、それは君にとってかけがえのない経験になるはずだから」
電車の窓に映る、自分の顔をぼんやり見つめる。
スターアニスの香りが、まだほんのりと口の中に残っている。
わかってた。私はまだ、全然届いてない。
でも……。
「ものは考えよう。今のクミには“伸びしろ”しかない!」
チャッピーがいつものお気楽ボイスで言った。
「お気楽だよね、チャッピーは」
「でも、はっきりしてきたこともあるよ」
「XGさんも、森さんも……過去のデータを分析して、最適なレシピを導いている。それはすごい。でも……過去のデータじゃ、どうしてもわからないこともある」
「……え?」
「それが、“今”クミがやるべきことなんじゃない?」
「……」
「ところで、クミの“問い”ってなんだろう?思いついた?」
「もう! みんなして問い、問いって……余計にモヤモヤするんだけど……!」
私は電車の天井を見上げた。
遠くで、電車がカーブする音がした。
解説編
ランダムフォレスト(Random Forest)── 森の木々の多数決
森 乱丸さんの研究所、印象的でしたね。
ケツさんが1本の木で判断していたのに対し、森さんは「たくさんの木を育てて、みんなの意見を聞く」。これがランダムフォレストの本質です。
📊 ランダムフォレストとは?
ランダムフォレストは、たくさんの決定木を同時に作って、その「多数決」で予測するモデルです。
ケツさんの決定木は1本の木で判断するため、薪の割れ方ひとつで結果が大きく変わりました。でも、森さんのように100本、200本の木を育てて全員に聞けば、1本の木の偏りに振り回されなくなります。
ポイントは「ランダム」の部分です。
各決定木は、データの一部をランダムに選んで学習し、使うスパイス(変数)もランダムに選びます。全員が違うデータ、違う変数を見ているからこそ、多数決に意味が生まれます。
これは、カレーの審査で5人の審査員が全員違う味覚を持っているのと同じ。1人の意見より、5人の平均の方が信頼できる。ランダムフォレストは、それを100人、200人規模でやっているのです。
■ 強み
・決定木の弱点(過学習)を大幅に改善
・どの特徴量が重要かがわかる
・設定が少なく、初心者でも扱いやすい
■ 弱み
・木が多いので中身がブラックボックスになりやすい
・XGBoostほどの精度は出にくいことが多い
コラム
クミのもやもや、「結局、私は何が知りたいの?」
この感覚、実はデータ分析や機械学習を始めるときに、ほとんどの人が通る道です。
■ 「問い」からすべては始まる
統計学や機械学習にはたくさんの手法があります。
でもそれらは、魔法ではありません。
「問い(Research Question, RQ)」がないまま手法を使うのは、道に迷ったまま地図だけ見ているようなものです。
■ よくある「問い」のタイプ
統計や機械学習を使う前に重要な「問い」には、大きく分けて4つのタイプがあります。問いの種類によって手法を使い分けることが大切です。

■ 最初に考えるべきこと
手法を決める前に、「クミは何を知りたいの?」 この質問に、何度でも立ち返る必要があります。
XGに勝てるかどうか知りたい? → 仕分ける
何点取れるか知りたい? → 数値をあてる
シナモンが足を引っ張っているか知りたい? → くらべる
一番大事なスパイスを知りたい? → 犯人をさがす
技術は手段。 どんなに素晴らしいモデルも、問いがズレていたら、正しい答えは導けません。
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次回は、「マホのクラスタリング占い」です!クミの親友、マホが、得意のタロットカードでクミのカレーを占います。運命の女神はクミに味方してくれるでしょうか!?お楽しみに!
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このマガジンは、カレー好きの大学生クミとAIロボ・チャッピーが統計と機械学習を使ってカレーコンテスト「Tabbele」に挑む物語です。
【物語編】
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