立方体の思い出
あんみつに混じっている寒天、ましかくで薄透明のそれを見ていると、あの奇妙な日々が思い出された。
四十年前。名家の長男であり、結婚適齢期であった自分には降るように縁談が舞いこんでいた。幾多の見合いを重ね、やがて疲弊してきたころ、女どもの顔が箱に見えるようになった。首から上が四角い箱に変化したのだ。それは個々に差異があり、細長い箱、いびつな箱というように形は違えども、どれもこれも醜怪なものであることに違いはなかった。何もかも捨てて逃げだしたい。しかし責任があるため逃げられぬ。こみあがる呻吟を枕に飲み込ませるそんな日々が続いた。
ある日。見合いの時間だというのは分かっていたが、どうしても気が進まず、屋敷の裏で煙管をふかしていると、一人の女中が自分を呼びにきた。その女をみて瞠目した。綺麗な立方体、色は透明に近い白だった。美しい、ただそう思った。
「お時間ですよ。皆お探しに……」
最後まで言わせず、女中の白い腕をぐいと引っ張り、体に落とした。
「結婚するなら、お前としたい」
「あんみつ、食べないんですか?」
あのときの女中、妻の千代が優しく問いかけてくる。
あれから女が箱に見えることはなくなった。千代は華やかではなかったが、美しいものをみて美しいと笑える、そんな女だった。
「いや、食べてるよ」
そう伝え、涼菓を口に運ぶ。
「おいしいな」
「おいしいですねぇ」
妻と二人、静かにほほ笑みあった。
*
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