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【毎週ショートショートnote】骨折祈願

「好きよ」

 隣で寝ている夫にそっと唇をおとし、私はベッドからぬけだした

 音をたてないようにベランダにでる

 空が白みはじめている
 朝の空気は、なんて透明で哀しいのだろう

 哀しい、そう感じるのは、夢をなくしたあの日を想起させるからかしら

 あの事故の日もこんな朝だった――

 三年前、将来を嘱望されたバイオリニストだった私は、コンクールにいく途中で事故にあった

 早朝のタクシー
 突然の横転

 一命はとりとめたものの、利き手を骨折し、二度とバイオリンを弾くことが叶わない体になってしまった

 事故のあと絶望する私を慰めてくれたのは、ただの幼馴染だった、現在の夫――

「今の幸せを大切にしなくちゃ」

 もう忘れよう、と緩く首をふる

 チュンチュン、雀が近づいてきた
『可愛い』
 目尻をさげていると、やけにハッキリと雀が喋った

「われ、神の使いで、来た。願いは、叶えた、のに、骨折祈願代、未払い。奥の男に、伝えろ。三年も、待ってる、まったく!」

 そう言って雀は飛びたっていった


 ……私は変わらず夫を、愛せるだろうか?

 了

(444文字)

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