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洗剤・シャンプーが不足する?ーーナフサ不足が生活と株価に与える影響

ホルムズ海峡で何が起きているか

2026年2月末、米国がイランへの軍事攻撃を開始し、イランはその報復としてホルムズ海峡を事実上封鎖しました。

この出来事がなぜ「洗剤」や「シャンプー」の話につながるのか。それを理解するには、「ナフサ」という原料について知る必要があります。


※本記事は、経済産業省・石油化学工業協会(石化協)等の公式データおよび発表をもとに作成しています。

ナフサとは何か

ナフサとは、原油を精製する過程で得られる炭化水素混合物です。ガソリンや灯油と同じく原油から作られますが、その用途は燃料ではありません。石油化学工業の基礎原料として使われ、熱分解することでエチレン・プロピレン・ブタジエン・ベンゼンといった化学品が作られます。

これらがさらに加工されることで、以下のような製品になります。

  • ポリエチレン → 食品包装フィルム、レジ袋

  • ポリプロピレン → 自動車部品、日用雑貨

  • 合成ゴム → タイヤ、緩衝材

  • ポリスチレン → 家電部品、発泡スチロール

  • ポリエステル → PETボトル、衣料品

  • 高級アルコール → 洗剤・化粧品の界面活性剤

  • 合成エタノール → 消毒液、外用医薬品

ナフサは、現代の日用品サプライチェーン全体の起点に位置する原料なのです。

日本のナフサ調達構造の脆弱性

経済産業省が2026年3月16日に公表したデータによると、日本のナフサ供給量のうち4割は国内で原油から精製され、残る6割を輸入に依存しています。その輸入分の7割以上が中東産です。

重要なのは、国産分4割についても、その原料となる原油の9割超を中東から輸入しているという点です。表面上の中東依存度より、実質的な依存度ははるかに高いのが現状です。

エチレン生産設備の現状

ナフサを熱分解する設備がエチレン製造設備(クラッカー)です。ナフサはこの設備を通ることで初めて、洗剤や自動車部品の原料となる化学品に変わります。つまりクラッカーが止まれば、ナフサがあっても製品は作れません。そのクラッカーが今、深刻な状況に置かれています。

ホルムズ海峡封鎖後、国内に12基あるエチレン生産設備のうち少なくとも6基が減産に入っています。三菱ケミカルは茨城事業所で3月6日から減産を開始。出光興産も千葉・山口の2設備について、封鎖が長期化すれば停止する可能性があると取引先に通知しており、この2設備だけで国内生産能力の16%を占めます。

経産省はこれを受け、3月16日に民間の石油備蓄放出を開始し、備蓄義務量を15日分引き下げるとともに、国家備蓄からも1カ月分の石油を譲渡する措置を講じています。

石油化学工業協会は3月24日、「4月はエチレン設備の稼働を維持できる」との見通しを示しました。ただし5月以降については、中東以外からの代替調達が確保できるかどうか次第とされており、先行きはなお不透明な状況です。

韓国・シンガポールでも連鎖

これらの問題は日本だけではありません。

韓国政府は、ナフサの調達に支障が生じているとして「輸出の全面制限」という行政命令を発動しました。韓国はナフサ需要の45%を輸入に依存しており、中東割合は約8割に達します。

住友化学が約40%出資するシンガポールのエチレン製造会社PCSも、ナフサ調達難を理由に『原料が確保できないため契約通りの供給ができない』と取引先に正式通知しました。この影響はエチレンにとどまらず、川下のアクリル樹脂原料にまで波及しており、同様の現象がアジア全域に広がっています。

アジアのナフサ指標(東京オープンスペック)は3月6日に1トン785ドルを付け、上昇が続いています。

何が値上がりするか——タイムラグの構造

エチレン生産設備が減産しても、店頭の製品がすぐに消えるわけではありません。
原油→ナフサ→基礎化学品→中間材料→最終製品という工程には、1〜3カ月のタイムラグがあります。

経産省の発表では、ポリエチレン・ポリプロピレンなどの川下の製品在庫は「国内需要の約2カ月分」とされています。ただし製品ごとに在庫水準は異なり、医療向けや特定仕様の製品では代替が効かないものもあります。

影響が顕在化するタイミングを段階別に整理します。

第一段階(3〜4月):素材・原料レベル
高級アルコール・二価アルコールが納期未定になりつつあり、低級アルコール(エタノール系)はすでに供給制限状態に入っている。これらは洗剤・化粧品・消毒液の直接原料にあたる。

第二段階(4〜5月):中間材料レベル
ポリプロピレン・ポリエチレンなどの樹脂が値上がりし始める。自動車部品メーカー・包装材メーカーへの影響が本格化する。石化協の工藤会長は「個別の樹脂では在庫がタイトなものもある」と述べており、品目によって差がある。ロイターは4〜8月にかけて医療機器(透析・手術用部品)の出荷困難の可能性を報じている。

第三段階(夏以降):最終製品レベル
洗剤・シャンプー・化粧品・食品容器・衣料品(ポリエステル系)・タイヤ・自動車部品などへの価格転嫁が本格化する。原油高によるガソリン価格上昇との二重苦で物流コストも上昇し、あらゆる製品に波及する。

値上がりは株価にとって何を意味するか

ここが投資判断の核心となります。

「値上がり=悪い」という見方は、川下(最終消費財メーカー)に対しては正しいですが、川上(資源・石化原料の製造・調達側)にとっては逆になります。

川上ポジティブの論理

原油やLNGを自社で採掘・生産する権益を持つ企業にとって、ナフサ価格の上昇は売値が上がることを意味します。一方、ナフサを買って加工する製造設備を持つ企業は原料コストが膨らむため、同じ価格上昇でも仕入れコストが上がる分、収益が圧迫されます。

注目すべきは代替調達を進める総合商社の立場です。
中東以外から米国・南米・アフリカ産の原油・ナフサを調達し直す動きはすでに始まっており、この実務を担うのは総合商社です。取扱量・マージン両面でプラスに働く構造になっています。

川下ネガティブの論理

自動車・家電・食品・化粧品・衣料品メーカーは、原料コスト上昇圧力にさらされることになります。価格転嫁できるかどうかは企業ごとに異なりますが、値上げが続くと消費者の買い控えリスクが加わる可能性があります。

特に注意が必要なのは、ナフサの仕入れからエチレン製造、プラスチック製品の販売まで一貫して手がける化学大手(三菱ケミカル・住友化学など)の立場です。エチレン設備の減産による損失(1基あたり月数十億円規模)と原料高が同時に直撃するため、今局面では二重のコスト悪化リスクを抱えています。

セクター別の整理

セクター別に整理すると、原油・LNGの採掘権益を持つ上流資源(INPEXなど)と、代替調達の実務を担う総合商社(三菱商事・伊藤忠商事など)は、原料高の恩恵を直接受けられる立場にあるためポジティブな影響を受けやすいです。

石油元売り(ENEOS・出光興産など)は中立からやや慎重。価格転嫁はできるものの、エチレン製造設備の減産損失が収益を相殺する可能性があります。

ナフサの仕入れからエチレン製造・製品販売まで一貫して手がける化学大手(三菱ケミカル・住友化学など)は、原料高と減産損失のダブルパンチを受けるためネガティブな影響が大きいといえます。

自動車メーカー(トヨタなど)は樹脂・ゴム部品の調達難とコスト上昇、化粧品メーカー(資生堂・コーセーなど)は界面活性剤原料の供給難と価格上昇圧力にそれぞれさらされており、いずれも慎重に見ておく必要があります。

今後の注目指標と参照資料

投資判断に使える公式データを貼っておきます。

①経産省 石油製品需給動態統計(月次) ナフサの輸入量・在庫・消費量の実数値が確認できる。https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/

②石油化学工業協会(石化協) エチレン生産統計(月次) 国内エチレン生産量・稼働率の推移。稼働率が70%を割り込む局面が第三段階の起点になる。 https://www.jpca.or.jp/

③JOGMEC 石油・天然ガス情報 ホルムズ・中東情勢の一次分析。 https://oilgas-info.jogmec.go.jp/

④IEA 石油市場レポート(月次) 協調備蓄放出の状況・グローバルな需給バランス。https://www.iea.org/reports/oil-market-report

なお、封鎖が解除された後も注意が必要です。設備の再稼働には時間がかかるため、供給回復は需要回復より遅れことになり、封鎖解除後も半年程度は川上ポジティブ・川下慎重の構図が続く可能性があります。

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※本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任のもとで行ってください。

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