20250712 慶應義塾×慶應藤沢(第107回 全国高等学校野球選手権大会 神奈川大会)
球場全体が校歌を口ずさむ。
そんな光景、なかなかない。
けれど、これが“慶應対決”の空気感なのかもしれない。
夏の高校野球・神奈川大会は、きょう各地で2回戦が開催。
筆者もこの日から3日連続で観戦モードへ突入。初日は平塚へ。


お目当ては慶應義塾×慶應藤沢
(これ以降は慶應義塾→塾高、慶應藤沢→SFC高で表記します)
通称“慶慶戦”。
会場には2500人ほどが集まったらしい...


このカードが公式戦で実現するのは2013年の春季大会以来。
そして夏の大会では、なんと今回が初対戦!
同じ“慶應”を背負う者同士の真剣勝負。
試合前からすでに、ただならぬ空気が流れていた。


にしても、違いを見分けるのは至難の業。
素人にはムリだ。
塾高のほうがほんのり体格に厚みがある…か?
サイゼの間違い探しくらい難しい。

2023年、夏の甲子園で優勝を果たした慶應義塾高校
一気に全国区のチームとなり、今やその名を知らない高校野球ファンはいない。
でも――神奈川で勝ち上がるのって、本当に大変なんです。
横浜高校、東海大相模、武相…。どこを見ても全国レベルのチームばかり。
“全国で勝つより神奈川を勝ち抜く方が難しい”なんて言葉も、あながち誇張じゃない。
2年前のあの夏を、もう一度つかみにいく。

SFC高は、近年の夏の戦績を見ると、準々決勝へあと一歩のところで4回戦敗退となるケースが目立つ。
しかし、その後 慶應義塾大学に進学し、大学野球の第一線で活躍する選手を数多く輩出している。
個々のポテンシャルが非常に高く、タレント揃いのチームという印象だ。

お互いに「絶対に負けられない理由」がある。
甲子園優勝という“看板”を背負う塾高と、慶應義塾の名を冠しながらも“挑戦者”として立ち向かうSFC高。
同じ校名を持つ者同士の対決は、単なる試合ではなく、プライドと意地がぶつかり合う一戦となった。
まずは試合の結果から

試合は塾高が序盤から攻めの姿勢を貫き、打線がつながって一挙に得点を重ねる展開に。
最終的には12-0、5回コールドでの快勝。
名門らしい盤石の試合運びを見せた。
一方のSFC高は随所で粘りを見せるも、守備のミスが痛手に。
流れを引き寄せるきっかけを掴めないまま、試合の主導権を握ることができなかった。

野手陣はどの選手も、非常に質の高いスイングを見せていた。
打球は強く、かといって力任せではなく、芯でしっかり捉えたスイングが徹底されている印象だ。
中途半端な振りがほとんどなく、チーム全体に打撃への意識の高さが感じられた。
守備でも、抜ければ長打という当たりに対して、落ち着いて処理する場面が多く、どんな場面でも冷静さを失わない姿勢が際立った。
大一番の空気に呑まれることなく、リラックスした動きでしっかりとプレーする――彼らの“地力”の高さが随所に光った。

塾高の森林監督の著書にも書かれていたが、
「選手を大人として扱う」「主体性を活かす」という考え方が根底にある。
指導者がすべてを決めて伝えるのではなく、選手自身に考えさせ、行動させる。
高校野球は、あくまで社会に出るための通過点——その理念が軸にある。
試合前のシートノックの姿勢ひとつ取っても、そんな哲学がにじみ出ていた。
誰かに言われたからやるのではなく、自分の中で「こうあるべき」と思って動いている。
先ほど書いた捕球姿勢、ちょっとした所作からも、それが伝わってくる。
小さな積み重ねの先に、大きな信頼と自立があるんだなと、改めて感じた。

また、この試合で先発を任されたのは、1年生右腕の湯本琢心くん。
これが公式戦初登板となったが、3回を投げて無失点。堂々たる投球を見せた。
直球中心のピッチングスタイルで、相手打線が振り遅れる場面も多く、スピードだけでなくキレも感じさせた。
プレッシャーのかかるマウンドでも、自分の投球をしっかりと貫ける姿は頼もしい限り。
まだ1年生。ここからどんな成長を遂げていくのか、楽しみな存在がまた一人増えた。

その湯本くんをリードしたのは、主将・山田望意(のい)くん。
彼といえば、やはり大会初日の開会式での選手宣誓が印象深い。

私も会場で生で見ていたが、その言葉には素直に心を動かされた。
「今大会中、お互いのチームの好プレーに対して拍手や歓声を送り讃えあうことをしませんか。」
――そう、相手をリスペクトする姿勢を自らの言葉で呼びかけたのだ。
そして何より素晴らしかったのは、それを口だけで終わらせないところ。
この日の試合でも、自チームの好プレーには真っ先に声をかけ、仲間を鼓舞する姿があった。

さらには試合終盤、SFC高のセンターが負傷して治療を受ける場面が。
その選手が無事フィールドに戻ってくると、塾高の選手たちから自然と拍手が送られた。
あの宣誓が、単なるセレモニーではなく、チーム全体にちゃんと根づいている証拠だった。

自らが掲げた言葉に責任を持ち、行動で示す。まさに主将の鑑――そんな姿がそこにはあった。

この日はプレーでもしっかりと結果を残した山田くん。
打ってはタイムリーヒットで得点に貢献し、守っては1年生・湯本くんを落ち着いたリードで好投へと導いた。
まさに攻守にわたって存在感を発揮し、キャプテンとしてチームをけん引した一日となった。

敗れたSFC高は、や守備でのミスが大きく響いてしまった印象だ。
それでも、試合を通じて選手たちの声は途切れず、「何としても塁に出る」という気持ちが随所から伝わってきた。

特に印象的だったのは、外野手が好守を見せた際に、SFC高の選手たちがそのプレーを称えていたこと。
試合中は敵同士であっても、リスペクトを持って臨む姿勢――まさに山田キャプテンの宣誓通り、その言葉がしっかりとグラウンドに根付いていた。
胸が熱くなる、そんな瞬間だった。

試合後、両チームの選手たちは堅い握手を交わし、「慶慶戦」は幕を閉じた。

塾高が校歌を斉唱し、SFC高の選手たちがその同じ歌を静かに聞く光景は、どこか不思議で、そして胸にくるものがあった。
山田キャプテンは「より慶應を背負った気持ちになった。慶應の代表として日本一になりたい」と語った。
この言葉がすべてを物語っているのだろう。
SFC高の分まで背負い、もう一度「若き血」が力強く響くその日まで――塾高ナインは、ここから“慶應魂”で夏を駆け抜けていく。
