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【#読書感想文】ホラー小説『#近畿地方のある場所について』――繋がる怪奇譚とポストリングホラー 【#Podcast エピソード紹介】

Reel Friends in Tokyo」は、パーソナリティの“まこ”と“オーマ”がお送りする映画紹介Podcastです。このnoteでは、ポッドキャスト本編で取り上げた話題作や名作、はたまた迷作たちを、番組で語りきれなかった裏話や個人的な深掘り、そしてリスナーの皆さまへの補助情報として、二人ならではの視点で掘り下げていきます。

毎回、Podcastで交わしたトークやディスカッションの要点、まこ・オーマ両名による独自の考察、時に脱線しがちな本音トークから個人的に見た映画Reviewまで、記事としてまとめております。リスナーの方も、そうでない方も、ぜひ肩の力を抜いてお楽しみください。

なお番組の最新エピソードご聴取はこちらよりどうぞ↓



【#読書感想文】ホラー小説『近畿地方のある場所について』――繋がる怪奇譚とポストリングホラー


第1章 本を手に取ったきっかけと読了の衝撃

1-1 劇場公開ポスターから始まった

"All stories are true, but some never happened."
(すべての物語は真実だ、ただし起こらなかったものもある)
― Neil Gaiman

たまには読書感想文でも書こうかと思った。きっかけは単純で、電車の中吊りにぶら下がっていた映画公開のポスターを目撃したからだ。
そう、『近畿地方のある場所について』。タイトルだけで「不穏すぎる地図アプリか?」とツッコミたくなるが、実際はれっきとしたホラー小説。

残念ながら映画版はまだ観ていない。この記事が公開される頃にはすでに上映も終わっていて、私がサブスクで寝っ転がりながら視聴する未来しか見えない。だが、筆を執ったのは映画よりも小説版のほうがやたら面白かったからに他ならない。

1-2 友人からの奇妙な誘い

そもそもの発端は懇意にしている知人からの勧めだった。曰く──
「最後のページが怖すぎて開けないから、一緒に読んでくれ」

そんな誘い方ある?と思いつつも、私はその時なぜか抗えなかった。普段なら天邪鬼を発動してスルーするところだが、本作は冒頭数ページで一気に掴まれ、気づけば夜を徹して読了していた。人間って怖いものの前だとやたら素直になるらしい。

1-3 読後感という中毒

読了直後の感覚は奇妙なものだった。背筋がゾワゾワするのに、同時に「もう一度確かめたい」という知的好奇心のドーパミンが爆発。

"Die Vernunft kann sich nur Fragen stellen, die sie selbst beantworten kann."
(理性は自ら答えられる問いしか投げかけない)
― Immanuel Kant

カントのこの言葉を借りれば、ホラーを読んだ後の脳も似たようなものだ。怖いもの見たさと知りたがり精神が同居し、ページを閉じた後も延々と問いが浮かび上がり、読者を手放してくれない。


第2章 あらすじと構成の奇妙さ

2-1 「カクヨム」発、赤字の呼びかけ

本作は小説投稿サイト「カクヨム」から生まれた作品だ。最初に目に飛び込んでくるのは、作品概要欄に躍る赤文字──
「情報をお持ちの方はご連絡ください」

はい出ました、都市伝説系ホラーのお約束。読者を現実に引きずり込む仕掛けだ。だが、第一話はその「情報」とやらに一切触れず、拍子抜けするほどキッチュな怪談投稿から始まる。

2-2 週刊誌的な怪談の連打

一話目はまるでコンビニで立ち読みする三流オカルト雑誌のよう。
「どこかで聞いたような」幽霊譚がぽんと投げ込まれる。読者は「え、これで終わり?」と困惑するのだが、この困惑こそが作者の狙いだ。

"Das Unheimliche ist das ehemals Vertraute, das entfremdet wurde."
(不気味なものとは、かつて親しかったものが異様に見えるときである)
― Sigmund Freud

既視感のある怪談が羅列されることで、逆に「これはただの作り話じゃないのでは?」という不気味な実感がじわじわ増幅していく。

2-3 作者の一人称が覗く瞬間

ようやく三話目にして、「私の友人が消息を絶ってしまいました。その情報を提供していただきたいのです」という一人称の呼びかけが差し込まれる。ここで初めて読者は「あ、これ繋がってるんだ」と理解するのだ。

"The oldest and strongest emotion of mankind is fear, and the oldest and strongest kind of fear is fear of the unknown."
(人類にとって最古にして最強の感情は恐怖であり、最古にして最強の恐怖は未知への恐怖である)
― H.P. Lovecraft

ラヴクラフトが喝破したこの感覚こそ、本作の推進力だ。「何が起きているかわからない」という状況が最大の恐怖であり、同時に最大の魅力になっている。


第3章 読者を深淵に引き込む緻密な構成

3-1 雑多な怪談のようでいて

本作を特徴づけているのは、その「バラバラ感」に見せかけた緻密さだ。最初はただの怪談投稿集にすぎないと思わせておいて、実はその一つひとつが後に絡み合う。
この仕掛け、まるで1000ピースのジグソーパズルを真っ暗な部屋で組み立てさせられている気分だ。最初は何をしているのかわからないが、光が差し込んだ瞬間に全貌が浮かび上がる。

"We are all in the gutter, but some of us are looking at the stars."
(私たちは皆、どん底にいるが、星を見上げる人もいる)
― Oscar Wilde

ワイルドの言葉を借りるなら、本作の怪談は「どん底に落ちる恐怖」そのものだが、同時に繋がりを見出した時に「星を見る快感」が訪れる。怖いのにうっとりしてしまう、ホラー好きにとって最上級の麻薬だ。

3-2 「わからない」から生まれる中毒

読者は「一体どういうことなんだ?」と困惑しつつも、次のページをめくらずにいられない。これは心理学でいうところの「ツァイガルニック効果(Zeigarnik effect:未完了のタスクが頭に残り続ける現象)」だ。

作者はあえて情報を小出しにして未完のタスクを増やし、読者の脳を人質に取る。読者は気づかぬうちに「続きを読まずにはいられない」状態に追い込まれていくのだ。

"Curiosity is insubordination in its purest form."
(好奇心とは最も純粋な反逆である)
― Vladimir Nabokov

ナボコフの言う通り、本作にのめり込むことは知性の反逆だ。恐怖という枷をつけられたまま、読者は「もっと知りたい」と抵抗を始める。

3-3 「快楽」へと転換する恐怖

ホラー小説でありながら、読者はある種の快感を覚える。あの散らばったピースが「カチッ」とはまる瞬間、恐怖が知的満足へと変換されるのだ。
私は正直、ホラーでこんな快楽を味わったのは鈴木光司『リング』以来だった。あの時も「呪いのビデオ」という一見馬鹿馬鹿しいネタが、じつは感染症モデルと重なって知的スリルを爆発させた。

"Fear is the mind-killer."
(恐怖は心を殺すものだ)
― Frank Herbert, Dune

だが本作では恐怖が逆に「心を生かす」。恐怖を知的遊戯へと昇華させる構造は、ホラー小説として一種の革命だと言っていい。


第4章 繋がる怪異と浮かび上がる背景

4-1 「装い」に隠された仕掛け

一見するとただの怪談投稿の寄せ集め。しかし繰り返し読むと、そこに共通の影が差していることに気づく。ばらばらに見えた怪異譚が、じつは「同一の怪異」によって繋がっていたのだ。

"Things fall apart; the centre cannot hold."
(万物は崩壊する、中心は持ちこたえられない)
― W.B. Yeats

まさにイェイツの詩の通り、世界の秩序は少しずつ瓦解し、バラバラに転がっていた怪異がひとつの「中心」を形作り始める。このとき読者の脳内では、恐怖と知的興奮がカップルダンスを踊っている。

4-2 ヒントは最初から散りばめられていた

よく読めば、同じフレーズ、同じ場所、同じ描写がちらほら出てきている。最初は見過ごしていた細部が、後から「おや?」と気づかせる。まるで伏線回収系の推理小説を読んでいるかのようだ。

この仕掛けは読者にとって一種の「ご褒美」になる。人間はパターンを発見することに快楽を覚える動物だ。認知科学者マーク・チャンギージーも「視覚は未来予測のために進化した」と語るが、本作の読者はまさに「怪異の未来予測」を強いられている。

4-3 怪異のネットワーク

そして気づいた時にはもう遅い。散らばっていた怪談はすべて一つの巨大な怪異へと収束し、読者の脳内に「恐怖のネットワーク図」が完成してしまう。
これこそが本作の最大の魅力だ。

"Hell is empty and all the devils are here."
(地獄は空っぽだ、悪魔はすべてここにいる)
― William Shakespeare

バラバラだった悪魔が一箇所に集合する──その瞬間、ホラー小説はただの寄せ集めから「壮大な怪奇譚」へと変貌する。


第5章 ポスト『リング』のホラー小説の功罪

5-1 社会現象としての『リング』

鈴木光司『リング』が日本のホラー小説に与えた影響はとんでもなく大きい。発売当時を知る人なら「あれは社会現象だった」と口を揃えるだろう。ニッチなホラー小説が一般層を巻き込み、映画化でさらに大爆発。社会的にも文化的にも「ホラー=貞子」の図式を定着させてしまった。

"An idea is like a virus, resilient, highly contagious."
(アイデアはウイルスのようなものだ。しぶとく、非常に伝染力がある)
― Inception

『リング』が投げ込んだ「呪いのビデオ」というアイデアは、まさに感染症のように世界に広がった。貞子は映画を飛び出し、ハリウッドを経由してホラーゲーム『Dead by Daylight』にまで登場。もはや「呪いのアイコン」として世界標準になった。

5-2 ミステリ要素の導入という革命

『リング』は単なるホラーではなく、祟りや呪いといった非合理を「ビデオテープ」という当時の象徴的メディアに投影し、謎解き要素を盛り込んだ。ホラー読者はただ怖がるだけでなく、「なぜ呪いは生まれ、どうすれば解けるのか」と推理を始める。

この「ホラー×ミステリ」の融合は革新的だったが、その影響は強すぎた。以後のホラー小説は「謎解き前提」という枷を背負うことになったのだ。

5-3 ホラーの自由を奪った呪い

もちろん、これは誰が悪いわけではない。だが『リング』以降のホラーでは、怪異に立ち向かう主人公がやたら探偵力を発揮しはじめる。霊に呪われただけの一般人が、国家権力も真っ青の捜査力で事件を解決してしまう──そんな「無理筋探偵ホラー」が量産された。

"The tradition of all dead generations weighs like a nightmare on the brains of the living."
(過去のすべての世代の伝統は、生者の脳に悪夢のようにのしかかる)
― Karl Marx

マルクスが言う通り、『リング』という巨大な伝統が後続ホラーを押し潰したのだ。謎解きの呪縛はホラーの自由な発想を狭め、怪異が持つ「理不尽さ」や「逃げ場のなさ」が薄れてしまった。


第6章 本作が切り開いたもう一つのホラーの道

6-1 探偵は読者自身

『近畿地方のある場所について』も一見すればミステリ的要素を含んでいる。バラバラの怪談が実は一本の怪異に収束していくのだから、構造は推理小説的だ。だが革新的なのは、「探偵役」が登場人物ではなく、読者自身に託されている点だ。

ページをめくるごとに怪異の正体や相関図が少しずつ浮かび上がり、読者は「自分で組み立てている」という実感を得る。これは普通のホラー体験では味わえない。

"The reader is the better writer."
(読者こそがより優れた書き手である)
― Jorge Luis Borges

ボルヘスの言葉がぴったりだ。本作は読者を受動的な恐怖の被害者ではなく、能動的な探偵役へと引き上げる。

6-2 ホラーにおける「神の視点」

読者は作品全体を俯瞰できる「神の視点」を手にするが、その視点自体がまた恐怖を増幅させる。怪異の構造が見えてくるたびに、「自分も巻き込まれているのでは」という疑念が忍び込むのだ。

まるでクトゥルフ神話TRPGのプレイヤーのように、知れば知るほどSAN値(正気度)が削れていく。知的満足と恐怖が同時進行する体験──これが本作の真骨頂だ。

6-3 構造の画期性

従来のホラーが「怖い話の羅列」か「謎解き型」かに二分されていたとすれば、本作はその二者択一を飛び越えている。怪談の形式を踏襲しながら、読者を探偵に変えることで、恐怖と快楽のハイブリッドを生み出したのだ。

"He who fights with monsters should be careful lest he thereby become a monster."
(怪物と闘う者は、その過程で自らも怪物と化さぬよう注意せねばならない)
― Friedrich Nietzsche

読者は怪物を追う探偵でありながら、ページを閉じた後に「自分も怪物の一部になっているのでは」と戦慄する。ホラーにおける構造的な革新は、読者の内面に怪物を棲みつかせることに成功したのだ。


第7章 深読みホラーというニューウェーブ

7-1 考察が主役の時代へ

いまやジャパニーズホラーは「深読み」こそが醍醐味となりつつある。すべてを語らず、あえて余白を残すことで、読者や視聴者が自分なりの解釈を持ち寄る。
私がやっているポッドキャスト「ReelFriendsInTokyo」でも『ミッシングチャイルドビデオテープ』を語った回で触れたが、この「語られないこと」をネタに酒を飲む時間こそ最高のホラー体験だったりする。

"We murder to dissect."
(我々は分析するために殺してしまう)
― William Wordsworth

ワーズワースのこの皮肉の通り、分析ばかりするとホラーの命が死んでしまう。でも同時に「 dissect(解剖)」する快楽はやめられない。読者や視聴者は、恐怖を肴に友人と語り合い、妄想を膨らませ、真実らしきものを掴んだ気になって酔いしれる。

7-2 ホラーが娯楽から議論へ

恐怖の共有だけでなく、そこから「語り」が生まれるのが現代ホラーの特徴だ。みんなで考察する行為は一種の共同体を作る。
社会学者ベネディクト・アンダーソンが「想像の共同体」を提唱したように、現代ホラーファンもまた「怪異の解釈」という想像を共有することでつながっている。

"The medium is the message."
(メディアこそがメッセージである)
― Marshall McLuhan

プラットフォームが動画配信やSNSに移ったことで、ホラーは一方向的な娯楽から「語り合う場」へ変化した。恐怖が議論を生む──これこそニューウェーブの本質だ。

7-3 深読みの民主化

昔ならコアなホラーマニアだけの遊びだった考察が、いまや一般層まで広がっている。Twitter(現X)やYouTubeコメント欄で飛び交う妄想合戦を見ていると、ホラーはもはや「オタクの遊び」ではなく、みんなの共通言語にすらなりつつある。

"Hell is other people."
(地獄とは他人のことである)
― Jean-Paul Sartre

サルトル先生の言葉を借りれば、コメント欄で暴走する考察マニアも一種の地獄だが、それすら含めて「深読みホラー」という祝祭なのだ。


第8章 ホラーは変化し伝播し拡大する

8-1 ネット発の怪談文化

本作がWeb発祥という事実も見逃せない。2000年代には「2ちゃんねる怪談」や「洒落怖」が文化として隆盛を誇ったが、いまや若者からは「ちょっと古臭い」と笑われる始末。時代の変化は残酷だ。

"The times they are a-changin'."
(時代は変わる)
― Bob Dylan

ディランの歌の通り、怪談もプラットフォームに合わせて変わる。掲示板からSNSへ、テキストから映像へ──ホラーは常に「その時代の伝達手段」に寄り添って進化してきた。

8-2 社会が変わればホラーも変わる

怪談はもともと口伝で広がり、土地や時代によって形を変えてきた。だからネット社会との親和性はむしろ当然だ。いまやショート動画の15秒で人をゾッとさせる時代だ。短いからこそ逆に余白が生まれ、考察の余地が残る。

"History repeats itself, first as tragedy, second as farce."
(歴史は繰り返す、最初は悲劇として、二度目は喜劇として)
― Karl Marx

ホラーも同じだ。かつて人を震え上がらせた「怪談」は、時を経てネタ動画として消費されることもある。それでも新しい世代が再解釈し、別の恐怖として蘇らせる。この循環こそ怪談の生命力だ。

8-3 ホラーの未来を信じて

私は信じている。ホラーはこれからも変化し続け、拡大し続ける。読者や視聴者を震え上がらせ、同時に語らせ、そして笑わせる。未来のホラーはもっとカオスで、もっと多様で、もっと面白いはずだ。

"The only thing we have to fear is fear itself."
(我々が恐れるべき唯一のものは、恐怖そのものである)
― Franklin D. Roosevelt

恐怖そのものが時代とともに変わる以上、ホラーもまた永遠に死なない。むしろ変化こそがホラーの宿命なのだ。


結び

『近畿地方のある場所について』は、バラバラの怪談を一つの巨大な怪異に束ねる仕掛けで、ポスト『リング』以降のホラーに新しい道を切り開いた。
読者を「探偵」に仕立て上げ、深読みを加速させる構造は、現代ホラーが迎えているニューウェーブを象徴している。

恐怖は消費されるだけでなく、語られ、考察され、再生産されていく。そうしてホラーは時代を超えて拡散し続ける──まるで呪いのビデオのように。


podcasterの まこ(@_macobana)が、メインチャンネル『ポケットに沼を』(⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠#ポケ沼⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠⁠ )では語り足りないアレコレを一人語りするポッドキャスト番組、『#よもやまこばなし 』(#まこばな )にて展開された映画談義がついに専門チャンネルに。

語りたい映画なんて尽きることない!

エピソードの公開は毎週or隔週となります。


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