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『「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間』を読んで

この著者は、幼少時のトラウマや、成長の過程で抱えた心の傷を率直に描いている。
人気漫画家として活躍しながらも、どこか自信を持てず、折れそうな心を何とか立て直そうとする姿を、漫画とエッセイで綴っているのだ。

まず印象的だったのは、その文体に漂う穏やかさと繊細さだった。
それはきっと著者の人柄そのものなのだろう。

その語り口で、父親に叩かれた記憶や中学でのいじめなど、つらい体験を正直に語っている。
その痛みは無意識の奥に残り、「人の期待に応えなければ」「明るくいなければ」「嫌われてはいけない」と、自分を縛ってきたのだという。
しかも真面目な性格ゆえに、その縛りを自分でますます強くしてしまう。
そのくだりを読んだとき、胸がぎゅっとなった。私にも思い当たるところがあるからだ。

この本の中で、特に共感したのは三つ。
まず一つ目は、ネガティブな感情にとらわれたときの「考え方のステップ」。
「苦しい」「つらい」と吐き出すだけで終わらせず、「なぜそう感じるのか?」を考え、さらに「では、どうしたいのか?」へと進む。
この二段階の思考が、心を立て直す助けになるという話だ。

二つ目は、「明るくいないと」という思い込み。
“楽しいコンテンツを作らなくては”と、作中でも明るい自分を演じているうちに、創作がどんどん苦しくなっていく。
その気持ちは、創作ド素人の私でもよくわかる。
気分がノっているときのテンションを基準に始めると、絶対に続かない。
人の感情なんて、波みたいに上下しているのだから、無理もない。
それに、著者が言っているように、明るく楽しいコンテンツを求めている読者ばかりでもない。

そして三つ目は、編集者の期待と自分の理想とのあいだで揺れる心。
「読者とは誰なのか」という、創作する人なら誰もがぶつかる大きなテーマだ。
著者の中で答えが出たのかはわからない。
でもきっと、この本を手に取った私たちこそ、彼が探していた“本命の読者”な気がする。
彼の文章は、読む人に語りかけ、励ましてくれるようで、時に弱々しく、 なんだか、そっと寄り添いたくなる。

全体的に文章が多めだが、添えられた漫画も印象的だ。
まん丸なキャラクターが自分と向き合って悩んだり喜んだりしている様子が、自分ごとのように親しみを感じられた。

最後に、「山村くんのエピソード」がとても好きだ。
こういう人って、本当にたまにしかお目にかかれない。
飾らず、流されず、ただ夢中で好きなことに邁進している人。
いや、夢中過ぎて、人の目にも気づかないのだ。
そういう人に出会うと、「ああ、カッコいいなあ」と素直に思う。
そして、自分は体裁やSNSでの反応ばかり気にしていないだろうか、とふと立ち止まる。 そんな機会をくれる存在って、本当に貴重だ。

著者は優れたコーチングに出会い、自分を少しずつ救っていった。

「追い込まれた人の心を救うのは、劇的な出来事じゃなくて、日々のささやかな“雑談”だったりする」

ということを、その体験を通じ、私たち読者に伝えてくれた。
 
この本を手に取るまで、私は著者の名前も作品もまったく知らなかったが、自然に、「この人のほかの本も読んでみたいな」と思った。

「漫画家やめたい」と追い込まれた心が雑談で救われていく1年間


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